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(2006年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第56号より)





<前編(朝ご飯「冷や汁」)はこちら>






ひるごはん


昼食いめーじ1

マグロ納豆うどん 2人分

【 材 料 】
 納豆 大1パック(100g)
 マグロ刺身 80g
 しょうゆ、わさび 各少々
 うどん 2食分
 卵黄 2個分
 めんつゆ(つけつゆの濃さ) 1カップ
 冷水 1/2カップ
 細ネギの小口切り・せん切り海苔 適量




【 作り方 】
1.マグロは食べやすく切る。しょうゆとわさび少々で和えておく。納豆に添付のたれを加えてよく混ぜておく。
2.うどんを茹でて冷水ですすいで締め、水けを切って器に盛る。納豆とマグロをのせ、真ん中に卵黄を一個ずつのせて、めんつゆを分量の冷水で薄めたものをかける。細ネギと海苔を振り、混ぜながら食べる。


昼食2






よるごはん


夕食2
(まずは常備菜で晩酌。冷奴にしょうがのすりおろしをのせて、イカの塩辛に刻んだ青柚子を振って、もう二品。)



① なす味噌 4人分
【 材 料 】
 なす 6本
 塩  大さじ1
 サラダ油 約1/2カップ
 A 味噌・だしまたは水  各大さじ2と1/2
  砂糖    大さじ1

【 作り方 】
1. なすはガクを削るようにむいて、一口大に乱切りにする。塩大さじ1と水4カップを混ぜた中に漬ける。浮き上がらないように、皿などをのせて2〜3分おいてから、ざるにあげて水けをきる。さらにしっかり布巾などで水けをおさえる。
2. フライパンにサラダ油を入れて180度くらい、菜ばしの先を入れてしゅわしゅわと気泡が出てくるくらいになったら、なすを入れて皮がつややかになるまで強火で揚げ焼きする。<菜ばしで、真ん中の一番厚みのある部分を押さて柔らかさをチェックするとよい>フライパンの油をさっとふく。
3. Aを混ぜてフライパンに入れ、なすを戻し入れてからめる。




②レンコンキンピラ
【 材 料 】
 レンコン 中1節<200gくらい>
 ごま油 大さじ1と1/2
 A 酒、みりん、薄口しょうゆ   
  各大さじ1と1/2
  昆布茶 少々
  水 1/4カップ
 七味唐辛子 少々

【 作り方 】
1.レンコンは皮つきのまま、薄切りにして水に放してさっとすすぎ、ざるにあげて水けをしっかり切る。
2.ごま油をフライパンに熱して、レンコンを入れて中火で炒める。つややかになり、軽くしんなりしてきたら、Aの調味料を順に加えて、水けがなくなるまで炒め煮して、最後に火を強めて水分をとばして仕上げ、好みで七味唐辛子をふる。







大根2


③干しダイコンの煮物
【 材 料 】
 干しダイコン(切干しダイコンでも) 60gくらい
 油あげ 2枚
 だし 1カップ
 A 酒 大さじ3
しょうゆ 大さじ2
みりん 大さじ1〜2

【 作り方 】
1. 干しダイコンはひたひたの水に漬けて戻す。油あげは湯を廻しかけて油抜きをし、2〜3センチ角に切る。
2. 干しダイコンの戻し汁を鍋に入れてだしも加える。Aの調味料も入れ、ダイコンと油あげを加えて落し蓋をし、中火で20分ほど煮る。




④とろろ茶漬け 2人分
【 材 料 】
 長いも 100g
 塩 少々
 梅干 2個
 昆布茶 小さじ1
 ご飯 茶碗2杯
 煎茶 適量


【 作り方 】
長いもはすりおろして塩少々を混ぜる。温かいご飯に昆布茶を半量ずつ振って、とろろをかけ、梅を載せて熱々の煎茶を注ぐ。梅をほぐし、混ぜながらいただきます。






photos:浅野一哉


えだもと・なほみ

料理研究家。料理雑誌やテレビ番組で活躍中。『枝元なほみさんの根菜&豆おかず』別冊主婦と生活、『おりおりのおりょうり』集英社be文庫、など著書多数。




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(2006年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第56号より)




なほみさんイメージ




枝元なほみさんの「照葉樹林ごはん」、朝・昼・夜


  
日本の文化の基層で、日本人のおいしさの元にある照葉樹林文化。
枝元なほみさんに、「照葉樹林ごはん」朝・昼・夜のメニューを提案してもらいました。
なつかしく、あきない、心が安定するごはんです。








照葉樹林文化、という言葉は本で知りました。中尾佐助著『栽培植物と農耕の起源』という本から。ちょっとむつかしいような気もしましたが、料理を仕事にする身にはとても興味深いものでした。

照葉樹林地帯、アジアの中で椿の葉のようなつやつやとした樹木が茂る地帯では、米を主食にし、酒などをふくむ発酵食品や発酵調味料を多く使う特徴がある、というもの。比較して、例えば、新大陸文化として分けられる南米などでは、とうもろこしが主食。小麦から作るパンが主食の地中海農耕文化などもあげられていて、なるほど、日本の食の特徴はよその文化と比較することで、すごくわかりやすくなるのだな、と心に焼きついた覚えがあります。

納豆をかき混ぜながらねばねばと引く糸を見て、確かに、こりゃ納豆なぞ見たこともない文化の人が見たら、ほんとに不思議な、オーマイゴッドなものだろうなぁ、なんて思うんですね。

アジの開きを焼く匂いも、それをほぐして味噌と混ぜて焙るときの匂いも、日本人には、鼻から入って骨の髄にまで到達するかぐわしき香りなのに、朝食がミルク&ハニーの土地の人からしたら、信じられないような︿なにこれなにこれ?﹀な匂いともいえるんですよね。海に囲まれた土地で、魚介や海藻を食卓にのせ、きれいな水に育てられた野菜や米を糧にする、穏やかな平和な暮らし。

先祖が大昔から育ててきた食べ物がいとおしく感じられるようになりました。しみじみおいしい、という感覚はDNAが記憶しているものなんじゃないかしら、とも思うようになりました。

異なった気候風土のさまざまな文化の下、みんなが自分の思うおいしいを育てている、いいですよね、土地土地ではぐくまれる<おいしい>を大事に、誇りにしていきたいものだと思ってるんです。「くー、やっぱりこれだねえ」って言えるような食べ物があるって、平和で、健康的なことだとしみじみ思うんです。 (枝元なほみ)





あさごはん
朝食 冷汁たて

冷や汁 4人分

【 材 料 】
 アジの干物 2枚
 白いりごま 大さじ5
 味噌 大さじ5
 水 3〜4カップ
 きゅうり 1本
 みょうが 2個
 細ネギ 3〜4本
 麦ご飯 適量




過程2


【 作り方 】
1.アジの干物はグリルで焼いて、皮と骨をよけて身をほぐす。
2.みょうがは輪切りにして水に放す。きゅうりも輪切り、細ネギは小口切りにする。
3.すり鉢で、いりごまをすり、1の干物を入れてすりまぜ、味噌も加えてペースト状にすり混ぜる。ゴムベラで、すり鉢の内側にすりつけるようにしてから、直火にかざして、軽く焦げ目がつくまで焙る。
4.水を少しずつ加えて溶きのばし、2を浮かべる。麦飯にかけていただく。
※ 糠漬けのにんじんときゅうりを 添える。






photos:浅野一哉




後編はこちら





えだもと・なほみ

料理研究家。料理雑誌やテレビ番組で活躍中。『枝元なほみさんの根菜&豆おかず』別冊主婦と生活、『おりおりのおりょうり』集英社be文庫、など著書多数。








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(2006年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第56号より)




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料理を手段に人間教育「キッズ・キッチン」。かまどのごはん、味噌汁、そして魚料理



御食国(みけつくに)として知られている福井県の小浜市では、就学前の幼児が本物の包丁を使って魚をさばいている?! 子供対象とはいえ、本格的なこの「キッズ・キッチン」、いまや子供たちの人気のまと。中田典子さん(福井県小浜市食のまちづくり課勤務)にその誕生の経緯と人気の秘密を聞いた。






始まりは1回だけの予定だったイベント「キッズ・キッチン」




Kamado


2003年11月2日、若狭おばま食文化館の1階キッチンスタジオで、就学前の幼児対象に2時間に及ぶ食のイベントが行われていた。

子供たちに本物の包丁を持たせ、地場で取れた食材を使って料理をする。メニューはクッキーでもスイートポテトでもなく、白いごはんと具だくさんの味噌汁だけ。親はいっさい手を出さず、固唾を呑んで見守るだけの「キッズ・キッチン」。

さあ、この2時間、どんなことになるのか?

だが、普段は危ないから触っちゃだめと言われている包丁を、きちんとルールを守って使う。出汁を取るのに、煮干を使うが、それを「金魚すくい」だと言って楽しむ。たっぷり2時間集中して料理に取り組む子供たちがいた。自分が包丁で刻んだきゅうりやナスはその子供にとって特別なものになる。最後まで見守っていた親とできあがった料理を一緒に食べる子供たちの顔は誇らしげに輝いた。

「好き嫌いがなくなるとか、たくさん食べるとか、そんなレベルではなく、子供たちはこの体験を通して『やった!』という達成感を感じたんですね」。指導した中田典子さんは、そのときのことを「私がイメージしていたとおり、イベントの最初と最後で、本当に子供が変わったんです」と振り返る。

実はその年、中田さんは食のまちづくりを進める小浜市に食育専門職として社会人採用された。その時点で小浜は既に生涯食育のまちとして名を馳せており、「私がやれることは何だろう」と考えた末の「キッズ・キッチン」だった。

「いまさら子供の料理教室なんて?」「ケガでもしたら…」と否定的な意見が多かったにもかかわらず、中田さんの熱意に試しに1回だけやってみたらと開催されたイベント。結果は大好評。それ以降3年間で、小浜市の幼稚園、保育所の全年長児を含め、延べ2500人の子供たちが「キッズ・キッチン」を体験した。




食の持つ力はすごい。人を幸せにする力がある




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「キッズ・キッチン」の基本メニューは、ごはん、味噌汁、魚料理で、食材には必ず地場の野菜や魚を使う。魚は市場で中田さんが仕入れるし、野菜は地元特産の根元の白い部分が曲がった「谷田部ねぎ」などを意識して使っている。

「ゆっくりゆっくり包丁を下ろして、下につかえたと思ったら、そこで押したり引いたりしないで、包丁を上にあげるのよ」と中田さんが話しかけると、子供たちは緊張しながらも、そぉっと豆腐に包丁を入れる。しばし張りつめた緊張のあと、「できたぁー」「見て見て!」と歓声が上がる。中田さんはそのたびに感動で胸が熱くなる。

「自信のない子には『見ててあげるから、やってみる?』と声をかけます。子供は信頼されると、いじらしいくらい、それに応えようとしますよ」と中田さんは語る。

子供たちがお米を研ぐ。キッチンにすえられたカマドでお米が炊きあがると、みんなで鍋蓋をとる。もうもうと上がる白い湯気と炊き上がったばかりのごはんの匂い。「鳩が出てくるのかと思った」と言う子供の言葉に笑いが起こる。

小松菜を包丁で切るとき、じっと見つめている子供がいた。「この菜っ葉、生きている。血が通っているよ」と、その子は葉脈を発見したのだった。

魚を触るのにも何ら抵抗がない。4歳児がいわしの手開き、アジの三枚おろしもいとわない。魚の胃袋に「小さいお魚が中に入っているよ。餌だったの?」と、まな板に並ぶまで生きていた魚の命について考える。さらに、「キッズ・キッチン」での体験が忘れられず、「金魚すくいして、お出汁を取ろうよ」と意図せず自宅で親を教育したりもする。

「だから、キッズ・キッチンは料理教室ではありません。あくまで料理を手段にした人間としての教育なんです」と中田さんはきっぱりと言う。「本物の食材に勝る教材はないんですよ。えんどうのサヤむき、柔らかい葱と硬い大根を包丁で切り、胡麻をするときは、すり鉢の持ち役とすり役を二人で分担する。触る、匂う、むくなど、ゲーム感覚で子供たちは五感を使う。食の持つ力は本当にすごい。人を幸せにする力があります」

今年4月には、招かれて韓国の幼稚園へ「キッズ・キッチン」の出張教室も行った。そこでの子供たちの反応と母親たちの感動も日本と同じだった。中田さんは「韓国で、料理に言葉はいらないと思いました」と笑った。

 (編集部)

写真提供:小浜市食のまちづくり課





「キッズ・キッチン」
飛鳥時代から天皇に海産物を献上する御食国といわれた若狭・小浜。2001年、食のまちづくり条例を制定した福井県小浜市は、全年齢層を対象にした生涯食育で有名。「キッズ・キッチン」は、2003年に始まった就学前の幼児対象の料理を手段にした教育プログラム。小浜市の幼稚園、保育所の全年長児は全員が体験。随時行われる市内外の幼児対象「キッズ・キッチン」は人気のため抽選制をとっている。2〜3歳児対象のベビーキッチンも誕生。


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(2006年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第56号より)





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世界の厄介者?日本はフードマイレージNO・1(ナンバーワン)———食糧輸入、食事の環境負荷、いずれも世界一




低い食糧自給率に安心できない食材、不健康な食習慣……。
今や、日本は「食不安大国」さながら。
食環境ジャーナリストの金丸弘美さんが警告する
日本のフードクライシスと、その処方箋。
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「きのう食べたごはん」を検証。20代若者男女55人に聞いた



「食事は、生活の活力源」。わかってはいるけれど、ついつい忙しい仕事に追われ、作るのが面倒で、手を抜いてしまうのが日々の食事。ひとり暮らしの身なら、なおさら。まともに食べる気さえ起こらない…。ということで、最も食が乱れがちといわれる20代の男女に教えてもらいました、彼と彼女の「きのう食べたごはん」。

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前編を読む

怒りを受けとめ、相手を引き止めておく技術



電気大教授2

自分の怒りを表出すること以上に、相手の怒りを受け止めることも重要だ。これまでに中島さんが習得した最高の技術は「相手を引き止めておく技術」。言い換えれば、相手に自分のことを全部しゃべってもらう技術である。
「人間ってみな共通でこの人は聞いてくれないと思ったら、しゃべりませんよ。私は本当に知りたいからね、どんなおかしな人の話でも聞こうと思っている。そしたら、しゃべりますよ。場合によったら、30分ぐらい男の子でも泣きます。そんな時は『泣いてなさい』っていうんです。それは一つのコミュニケーションだからね」


中島さんのところへ、行き場のない学生が相談にやって来る。
「今、私は自殺したい人を何人か抱えていて、これは死に物狂いの闘いです。私に対して彼らはすごく怒りますよ。一時、防弾チョッキを買おうか、セコムをつけようかと思ったくらいで。刺されたことはないけれど、ほのめかすことはいくらでもありますよ。先生のために一生を棒に振ったとか、先生がいなければよかったとか。何を言われてもしょうがないと思っているけれど、2年前に学生に死なれたときはきつかった。あの『夜回り先生』もそうだけれど、彼も社会的役割を感じているんでしょうね。私なんかもっといいかげんな人間だけれども、今ここに来る学生に刺されてもしょうがない覚悟でやってますね」


中島さんが学生と話す時の原理は簡単だ。
「ごまかさないで、何しろ誠実さだけ。君が死んじゃいやなんだよということだけ言う」。逆に言うと、こんな重たい体験を目の前にしているから、中島さんの普段の怒りの表出はゲームのようなものだ。

「きついことをやっていると、人間っていろんなことを学ぶんですよ。弱い人はそれを避けようとするでしょう。この場はがまんしようとしていると、やがて何もできなくなってしまう。それが私の持論ですね。長くやらないとダメですよ。怒っててよかったなあって思うまで、10年かかりますよ。怒っている理由が回りの人にわかるまで、相当時間がかかります。でも、わかってもらおうとしてもだめですよ。結果としてわかってもらうためには、ですよ。それも全部じゃなくて、何人かの人にね」





社会の厚い壁、大人が若者の話を聞く態度必要



日本社会では見苦しいとされる自己主張だが、中島さんは自己弁解を擁護する。
「自分自身がギリギリのときに、その場でしか弁解できないってことがあるんです。だから、私は、弁護が人間にとって一番重要だと思っているわけ。もし疑いをかけられたら、それに対して、みんなの前で弁護しなくちゃいけない。いつも学生に言うんです。どんなバカなことでもみんなの前で言ったことは価値がありますと。なぜかっていうと、責任をとらなきゃいけないから。あとで、こっそりメールを出すのは、いくら正しくてもダメですよ」


しかし、日本社会全体に厚い壁がある。
「実は大人は若者に期待してないんです。とうとうと若者が1時間も弁解することを望まない。よく大人がわかった、わかったと言いますが、あれはその場を切り抜けようとしてるだけなんですね」


だから、まず、大人から若者の話を聞こうとする態度を示さなくてはいけないと中島さんは言う。
「若者は賢いですよ。大人は強者で、若者は弱者。だから、あえてマイナスになるようなことは言いません。若者自身が自己弁護してもいいんだとわかるためには、かなり時間がかかります」


逆に学生が、「実は先生の授業に批判的なんです」と言ってきたら、『あっ。そうですか』と私は受け取らなきゃいけない。どんなに一所懸命にやっても、自分に対するものすごい批判がありうるということをいつも予測しなければならない。私はいつも学生たちがナイフを隠し持ってないかと思って授業していますよ。いわゆる善良な人ほど、そんなことあるはずがないと思っていますから、批判されると驚くわけです。そのことも学生は知っている。だから言わないんです」

我々、霊長類は残酷だ。
「人間は上下関係で全部動くし、もちろん弱者を痛めつけるし。文明は攻撃的なんです。それなのに今の社会は、特に男に対して、ものすごくきついことを課している。暴力振るっちゃいけません、攻撃しちゃいけませんとか。それは、自然に反するんですよ」


「何の怒りもない社会というのは、人間として生物体として不気味です。何かに才能がある人、報われている人はいいけれど、そうでない人にはきつい。自殺者が増えたりするのは当然で、攻撃性を抜いた社会だから、本人の適性が出てこない」


そういう文化が持っている不条理を中島さんは指摘する。「誰かを好きになることは、誰かを嫌いになることですよ。誰でもよければ文化も差別もない。誰かを理由なく好きになる純愛の逆は、誰かを理由なく嫌いになることです。それは地獄ですが、やはり文化なんです。そして誰かのことを尊敬するということは、誰かを軽蔑することなんですよね」

だからこそ、人間が怒りを表わすことの自然さ、重要性を理解してくれる人が周りにいた方がいい。
「大人は自分が怒らないと、若い人に対しても『怒るな!』となってしまう。私は反対に、『怒れ怒れ!』って言います。そうじゃないと、怒りを消す文化が、自分自身の安全のために再生産されていくんです」


だからこそ中島さんは言う。「怒れる身体に自己改造して、豊かな人生を取り戻そう」




(編集部)

Photos: 高松英昭






中島義道(なかじま・よしみち)
1946年、福岡県生まれ。77年、東京大学人文科学研究科修士課程修了。83年、ウィーン大学哲学科修了。哲学博士。現在、電気通信大学教授。『うるさい日本の私』(新潮文庫)、『<対話>のない社会』(PHP新書)、『怒る技術』(角川文庫)など著書多数。
















(2006年6月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 52号より)
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中島義道さんの怒る技術



怒れる身体に自己改造し、豊かな感受性を取り戻そう



怒りは自然な人間感情。だが日本の社会で怒りは歓迎されない。怒らないことが社会の暗黙のルールになっている。
そんな日本社会で22年、怒ることを自らに課してきた哲学者、中島義道さんの怒る技術とは?
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前編はこちら>




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(Photos:中西真誠)





理不尽を正すレフェリーはいない。だから、ちゃんと怒る



では、逆に怒りをちゃんと表現している人は、どんな基準で、どのように怒っているのだろうか?

会社員のユカさんは(22歳)は、仲のいい友人でも、会社でも、自分が馬鹿にされた時や会社の運営上よくないと判断した時は、きっちり怒る。「この前も、友人が『あとで連絡する』と言って連絡してこないことがたびたびあったので怒りました。すぐに怒るわけではないけど、約束を反故にするような行為や、お互いが本気でいるべき時に相手が適当な時は怒る。あまり怒りはためない」という。

仕事でもプライベートでも、怒りっぽいというコウジさん(会社員、32歳)は”怒る“と”叱る“の区別を意識するように努めている。「学生時代の部活で、先輩から『後輩から好かれようと思って、怒らないのはアカン、上手くならん』と言われてきたので、ちょっと怒りっぽいんです。怒るのは感情的なもの。叱るのは、相手の欠点を指摘すること」と言う。ただ、怒ることは、自分にも厳しくし、相手との関係を継続させるためのものという思いもある。「実際、学生時代に怒った後輩たちとは今でもよく集まるし、結束が固くなっていますから」

また、約束を破りがちな友人のルーズさ、上司の理不尽な言動には、怒りでもって反撃する、というコウイチさん(35歳)も、怒ることは大事な感情表現と位置づける。「ある時点で、ちゃんと怒らないと、相手は平気で何度でも同じことをする。だから、『嫌だからやめてくれ』と、ちゃんと伝えるんです」

「サッカーの試合で、欧州や南米の選手とかが相手のファウルに対して、実際の痛み以上に大きな身振り手振りで訴えますよね。あれぐらいの表現が必要だと思う。まして、一般の社会はスポーツの世界と違って、理不尽な行為や言動を公平に判断して警告を与えるレフェリーがいないわけだから」





あなたは、何に怒ってる?



個人的怒り派(家族、友人、会社などの人間関係の中での怒り)

「社会的地位の高い人が理不尽なことをするのが許せない。今、脱退したいと言い出したバンドメンバーに腹立ってる」(ダイキさん/フリーター、28歳)
「自分の進路にイチイチ口を出す母親にカチンときてる。どうしようもないことを注意する会社の先輩にもムカっとくる」(サオリさん/会社員、22歳)




日常的怒り派(電車の中、コンビニ、レストランなど公共の場でのマナー、接客への怒り)

「運転中、バイクの無謀運転に、『殺す気かボケ!』と叫んだ」(ヨシオさん/自営業、32歳)
「初めて会社に来た営業マンの態度が、友達のように馴れ馴れしくて、怒りを覚えた」(タツヤさん/会社員、28歳)
「背景を見ないで、個人バッシングする人が多い。マナーや、他人への無関心さに腹が立つ」(キョウスケさん/飲食業、38歳)
「店のレジなどでの学生のマナーの悪さ。道端でもよけずに平気で身体がぶつかる若者の距離感のなさ」(ヒトミさん/主婦、35歳)




社会悪への怒り派(政治・経済・社会などへの怒り。政治家の発言、汚職、差別など)

「自分の家族を傷つけるこの社会の風潮が許せない」(カズミさん/主婦、31歳)
「テレビが殺人事件や子どもによる事件などネガティブなものばかり取り上げすぎ。子供に悪い影響を与える」(マサアキさん/アルバイト、34歳)




(稗田和博/清水直子/野村玲子/中島さなえ)




(2006年6月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 52号より)
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若者の怒り体験インタビュー


「あなたは、最近、怒りましたか?」 怒りを求め東奔西走



キレる人、怒れない人、ちゃんと怒る人、20〜30代の若者に、
怒り体験を聞いて回りました。怒りを覚えても、そっと心にしまって伝えられない人、
意外と多いようでした。





「今日も、キレてきました」—電車の中で、母に、自分に、テレビにも




インタビューページその1


約束を守らない友人。口うるさい家族。あるいは電車の中で、車の運転中に。そして、テレビの報道を見て怒る…。他人の行動や言葉に、マナーの悪さに、メラメラと怒りがこみ上げる。

ちょっと不謹慎かもしれないが、「他人の怒り体験」を聞くのは、おもしろい。人が怒りを覚る事柄は、実に多様で、バラエティに富んでいる。

大学生のアヤさん(21歳)は最近、母親の言葉にキレそうになった。4万円ほどするスーパードルフィーという人形を買って帰った時のこと。母親が、『そんな高い人形買って、バカじゃないの?』と言い放ったからだ。「今、大学を休学して、本格的にダンスに取り組んでいる。その生活の中で、人形はとても大切な存在。バイト代で買ったものだし、自分が大切にしているものをけなされるとキレてしまう」

事務職のチホさん(24歳)は、「今日も家族にキレてきた」と言う。だが、怒った理由は定かではない。「何だったかな? 朝ご飯ができていなかったからかな」。家では些細なことで、しょっちゅう怒る。「私は家では何もしない人なのに怒ってます。わがままがスゴイ。私の場合は、逆ギレに近いです」

カズヒロさん(24歳)は、自分に怒る。「会社で、給料の査定に響く試験に寝坊して、自分にカチンときました。人に怒るよりも自分に怒る方が多い。怒りは、自分が何かをする時の原動力になる」と話す。

また、電車の中で、見ず知らずの人に果敢に怒る人もいる。アユさん(20歳)が、特に腹が立つのは、マナーの悪い年輩の人。さすがに、注意することまではしないが、「コイツ!」と心の中で怒りを覚え、マジマジと顔を見たり、睨んだり。「特に、年輩の人のマナーの悪さは質が悪いんです。飲んだ物をそのまま床の上に置きっぱなしにしたり、座席を広く占領したり。今日も睨んでいると、相手がガン飛ばしてきたのでムカつきました」

子育て中の主婦、クミコさん(31歳)も、電車のなかでイラっとすることがある。「優先席で目の前におばあさんが立っているのに席を譲らない人は、男女や職業を問わずいる。私も妊娠中になかなか席を譲ってもらえなかったので、そういうところに気がついて欲しい。だけど、最近は声をかけると何をされるかわからないので、譲ってあげて、と注意することもできないでイライラする」と言う。




怒れない友人や会社 「雰囲気、壊したくない」



喜びや悲しみの感情と同様に、怒りの感情を持たない人はいない。そして、何に対して怒るかは、その人の価値観や置かれている立場、あるいは趣味指向を反映している。今回、本誌が実施した若者へのヒアリングでは、そんな事実が浮かび上がった。だが、心の中で膨らんだ怒りは、みんながみんな、ちゃんと表現しているかというと、そういうわけでもないようだ。ヒアリングした20人のうち半数以上の人は、「怒りを覚えても、相手に伝えないことが多い」と答えた。なぜなのか?

「家ではよく怒るけど、外ではよっぽどのことがない限り怒らない。会社ではいい環境で働きたいし、同僚がいないので、どこまで踏み込んでいいのかわからない。仲のいい友人には、嫌われたくなかったので、やんわりとしか怒れなかったこともある。高校の時は感情を出す方だったけど、社会人になると難しい」(サオリさん/22歳)

「とにかく見なかった、聞かなかったことにして、すべてを誤魔化しちゃいます。平和主義が基本なので、自分の中ですべて解決しちゃいます」(ユリさん/29歳)

ユリさんの場合、約束の時間になっても一向に現れない女友達を3時間近く待った時も、怒れなかった。その友人は、たびたび約束に遅れ、明らかに嘘とわかるような弁解をするのに。

「待っている人の気持ちを考えてほしいって思うんですけどね。でも、その場の雰囲気が気まずくなるのが嫌で…。怒るのって、若さだと思うんです。感情をぶつけられるのは若いうちだけ。歳をとるにつれて怒れる場がなくなる」

怒りを伝えられないのは、「相手との関係が悪くなる」「その場の雰囲気・空気を壊したくない」という意見が大勢を占め、「自分が正しいと確信が持てず、八つ当たりになるのが嫌」という意見も。「相手とタイミングを見て、判断する」という回答は、ごく少数だ。そして、その怒りを表現できない相手は、ほとんどの場合、「友人」や「会社」である。逆に、最も近い家族には、比較的怒りをぶつけやすいようだ。また、ごく少数ながら、男性の中には「ほとんど怒ることがない」という人も。

「基本的に怒らないです。何か気に障っても、自分の中で自然に感情が冷めて、しかたがないと許容してしまう。もし怒るとしても、相手がちゃんとわかってくれる人だけ。最近は、怒りと諦めが同義語のようになっている」(ツヨシさん/会社員、26歳)

「怒りを覚えても、相手は自分より大変な思いをしているのではないかと思って責められない。で、怒りの原因を自分に転嫁してしまって、外には怒りを出さないようにしてしまっている」(ダイスケさん/大学生、21歳)

いずれも普段の人間関係では怒らないが、メディアやメディアが伝える社会悪などには怒りを覚えることがある、と言う。





後編に続く>




(2006年6月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 52号より)
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