(2007年12月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第83号




植物は「かおり」で会話する—植物間コミュニケーションの秘められた物語




植物同士が、植物と昆虫が会話をしているといっても、半信半疑の人がほとんどかもしれない。でもそれは本当のこと。高林純示さんに、そんな不思議でエキサイティングな話を聞いた。






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(高林純示さん)




植物が会話をしている? そんなバカな?!



植物が会話をしている? それも「かおり」(具体的な香りと抽象的な薫りの両方を含めた概念としてここでは使っている)を出してというと、そんなバカな?!という反論があちこちから聞こえてきそうだ。だが、そんなグリーンファンタジーとも呼べそうな事実がだんだん明らかになってきた。

1983年に虫に食べられた葉っぱが『かおり』を出して天敵を呼ぶという研究が発表されて、86年に植物が会話するという最初の論文が出たんですね。

最初は『すごいな』と言われたんですが、『そんなはずないだろ? きっと実験がおかしいんだ』と言う人がいて、特にプラント・プラント・コミュニケーション(植物間のコミュニケーション)研究は休止してしまいました。

けれど、2000年からサイエンスの世界で再び研究が始まって、植物間のコミュニケーションはまぎれもない事実であることがわかってきたんです」と、高林純示さんは話す。




確かに、私たちは「見てわかる」ものについては納得しやすい。ライオンがシマウマを食べているのを見れば、「あれが自分だったら嫌だな、痛いだろうな」と実感が持てるが、それが虫に食われている植物だったら、ただ静かにたたずんでいて虫に食われるに任せているだけだと見えてしまう。

「でも、植物って動物とはまったく違う生き物。例えばライオンは餌としてシマウマを狩る。四本足と二つの目で、空間の中に座標を定めて餌を狙う。だけど植物は動けないし、餌は光合成をするための光ですから、葉っぱをたくさん配置して、薄く広く存在している餌(光)をなるべくたくさんもらうようにしているんですね」




そんなふうに静かにたたずんでいるように見える植物が、実際に害虫に葉っぱを食べられた場合、それに反応して「かおり」(揮発性物質)を放出し、害虫に対して反撃していることがわかってきたのだ。

高林さんの研究によると、例えばキャベツの芽だしやシロイヌナズナ(アブラナ科の植物)にコナガ幼虫がやってきてその葉っぱを食べると、葉っぱがコナガ幼虫の天敵を誘引する特別な「かおり」を出すことがわかった。その「かおり」が漂い出すと、「かおり」をかぎつけた寄生蜂がやってきて、コナガ幼虫に卵を産みつけ、卵は10日ほどで幼虫の身体を食い破って出てくる。キャベツやシロイヌナズナはまさに、自分を守ってくれるボディガードの寄生蜂を、「かおり」の言葉で呼び寄せ、会話をしているのである。




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「寄生蜂は2〜3と小さいんです。野原でコナガ幼虫を探しても、自分ではなかなか見つけられない。でも『かおり』が出ていれば、集中的に探すことができます。『かおり』があるのは、寄生蜂にとってはうれしいことで、シロイヌナズナと寄生蜂は友だちの関係だといえるわけです」。こうした植物のボディガードのような昆虫の存在は特殊な例ではなく、一般的に成立しているという。




では、昆虫は「かおり」に対して、どれくらい敏感なのだろうか?

「犬の嗅覚は人間の1000万倍といわれます。カイコ蛾の性フェロモンの感度はだいたい犬と同じくらいといわれていますから、よくわかってはいないのですが、昆虫もすごく『かおり』に敏感なんだと思いますね」




後編に続く