ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。年末年始に行われた「ふとんで年越しプロジェクト」報告会を取材してきましたので、レポートをアップいたします。

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松山:司会を務めさせていただきます、松山と申します。みなさんありがとうございます。報告会を開かせていただきます。これから2時間ほど、活動の報告や今後の展望についてご報告していきたいと思います。

長かった2013年の年越し


稲葉:みなさんこんばんは、もやいの稲葉です。本プロジェクトは、クラウドファンディングをはじめ、様々なかたちで寄付金、カンパをいただきました。心より御礼を申し上げます。寄付だけではなく、様々な方々から情報の拡散などをしていただきました。本当にありがとうございました。

そもそもなぜこんな企画を始めたかと言うと、年末年始というのは路上者支援をしている人間に取っては特別な時期です。普段ですと、生活に困っている方が役所や福祉事務所に行けますが、年末年始は窓口が閉まってしまいます。

野宿されている方々は日雇い派遣などで働いていますが、そうした仕事も休みに入ってしまい、現金収入がなくなってしまいます。東京では、山谷地域では1980年代から、その他の地域では1990年代から、年末年始になると越年越冬ということで連日の炊き出しや夜回りを行ってきた経緯があります。

そうしたなかで、2013年から2014年の年末は閉庁期間がたいへん長かった、という事情があります。時間で言うと232時間も役所がしまってしまう、これは何かしないとまずいだろうと、それぞれの団体で話し合い、ネットワークを組むことで解決できないかということを考えたのが、そもそものきっかけになります。

2009年、2010年には行政が動いた過去もありましたので、今回は厚労省にも申し立てを行いました。行政に働きかけるだけではなく、自分たちでできることをやろうと、クラウドファンディングでカンパを集めて、ビジネスホテルを十数部屋借りて、宿泊支援などを行いました。

そうした活動を通して見えてきた課題について、各団体からご報告をさせていただきます。本日はよろしくお願いいたします。


要望を出したが、国はゼロ回答


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大西:こんにちは、もやいの大西です。稲葉の方からもご説明がありましたが、そもそも2013年の年末年始は閉庁期間が異例の9日間でした。普段はだいたい5〜6日です。役所が閉まってしまうと公的な支援を得ることが難しくなり、生活に困った方が支援を利用できなくなってしまいます。

通常は民間の支援団体が補完するかたちで炊き出しをする、夜回りをする、シェルターを用意する、といった取り組みをしていますが、9日間となるとやる方も大変です。炊き出しだけでも5,000〜6,000食になってしまいます。支援団体で連携できないかということでプロジェクトを始めました。

まず政府や自治体に対して要望をしよう、ということで以下の4点を求めました。

①閉庁期間中にも生活保護申請を受けつけること。
②閉庁期間中、必要に応じて宿泊場所や食事の提供、またはその費用の給付・貸付等を行うこと。
③上記の施策を適切に利用できるように発信、広報すること。
④上記の施策を適切に行うように各自治体に周知徹底すること。

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これらの要望に対して、政府としては

・閉庁期間前に生活困窮者を捕捉できるようにとの通知を出した
・閉庁期間中にも生活保護申請は原則として可能である
・各自治体については国は特に把握していない
・国としては閉庁期間中の対策は考えていない

という、基本的には「ゼロ回答」でした。収穫ということでは、閉庁期間中にも生活保護を受け付けるという回答があらためて得られた点でしょうか。実際に、東京都では夜間休日窓口での申請が受理されています。

また、厚労省は対策の必要性を認めています。必要性はあるけれど、基本は自治体にお任せしているので、今回は自治体としてはやらない、ということでした。「必要性は認める」というのは一歩前進だと思っています。


民間でできることをやる


大西:ふとんプロジェクトとしては、われわれでできる範囲のことを、われわれでやろうということを考えました。

まずは、各地の取り組みの後方支援を行いました。年末年始の前のビラまきなどのお手伝い、年末年始に関しては、それぞれの団体のよさ、個性をつぶさないように、生活・医療相談チームを結成しました。また、クラウドファンディングにより、個室のシェルターを20室設営しました。

国がやってくれないということで、自分たちができることを繋ぎ合わせて、切れ目のないサポート体制を構築して年末年始に望みました。

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ここからは相談者の概況です。シェルター利用者は約20人で、平均年齢は46.2歳です。今回は、ご協力いただける相談者の方からかなり詳細な聞き取りを行いました。

・A群は長期路上層(病気や障害があり支援につながりづらい)
・B群は路上と支援を行き来している層(病気や障害により支援につながってもうまくいかない、既存の支援のメニューが不十分で支えきれない)
・C群は不安定就労&不安定住居層(若年層が多く就労は可能でも不安定な住まいと不安定な就労形体から抜け出せずにいる)

と分けていますが、これは国が分けている区分けでもあります。それぞれについて事例をまとめながらご紹介したいと思います。


わかりにくい困難を抱えている路上生活者も


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大西:A群の方は、公園や駅などでテント生活をしているなどです。個人情報があるので少し情報を変えていますが、お一人は40代で、20代から路上生活をしています。アルコール性の肝硬変があり、非常に体調が悪いそうです。困難さとしては、軽度知的障害やアルコール依存症の疑いがあり、支援や行政機関に対する抵抗感をお持ちです。

もうお一人は50代で、10年以上、路上生活をしています。やはり知的障害やアルコール依存症などわかりにくい困難を抱えています。

これらの障害は見た目ではわからないので、これまで周りの人が気付くことができなかったのではないか、またそういった困難さをお持ちであるがゆえに、支援につながったとしてもトラブルになってしまったり、それが原因で不信感が芽生えたり、結局自己責任に追いやられて孤立してしまったり、ということがあるのかと思います。重篤な疾患を持っていても、見過ごされてきた方も多かったです。

長期路上層は「路上に帰りたい」という人も一定数いますが、丁寧に寄り添いながら信頼関係を構築することで、医療機関につながったり、本人が望む支援がありえるのではないかと思います。


長い目の支援が必要


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大西:B群についてもお話します。お一人の方は30代で重度のうつやPTSDがあり、暴力にさらされてきた方です。支援を得ても、安定する前に飛び出してしまう、ということでした。

50代の方は統合失調症を10代から発症していて、入院歴や自殺未遂が複数回あります。複数人部屋は周りの目が気になり、狭い部屋はパニック状態になる方です。医療機関を受診できていません。

80代の方は20年ほど生活保護や路上を転々としています。軽度認知症の疑いがあります。

この方々は、国も支援が難しい層と定義しています。彼らの困難さ、特に医療的な支援については、「自ら失踪した」と思われてしまいます。この方々もA群と同じように、一緒に寄り添いながら、失敗しても、長い目で支援をしていくことが求められると思います。


若くて就労もできる路上生活者層も


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大西:最後にC群の方々について。お一人目は30代で、難病があって病気のために安定した職に就けない、という方でした。

お二人目は40代で、派遣で就労中で月収18万円とのことです。現在ネットカフェにて生活をしていて、年末年始は仕事がない。ネットカフェは日々の生活にお金が掛かるので、そこから抜け出すことができなくて困窮しているわけです。また、有給を取ることが難しく、相談にいくことができないとのことです。

この方の場合は労働問題なのですが、「せっかくの仕事なので職場とトラブルになりたくない」とのことでした。こういう方に合わせて、夜間にも相談を受け付けるようにするなどのマイナーチェンジが必要だと思います。

3人目の方は40代で、養父母に育てられて、児童養護施設入所歴もあります。住み込みの仕事を転々としていますが、年を重ねるにつれて仕事が見つからなくなっている、とのことです。

これらの方は年齢も若く就労も可能ですが、安定した雇用・住居にたどり着くことができていません。これらは労働問題、雇用問題と密接に結びついています。今申し上げた通り、有給を本来は取れますが、なかなか取ることができないという方もいらっしゃいました。

月収18万円だと自立しているという枠組みになってしまい、生活保護はもらえません。生活に困窮していても、就労自立しているということで制度の捕捉されません。収入ではなく、住まいの状況なども鑑みる必要があると思います。

「ふとんで年越しプロジェクト」報告会レポート
1:年末年始の閉庁期間の生活困窮者、路上生活者を支援する
2:路上生活者支援のあるべき「前提」、個室シェルター、閉庁期間の生活保障の担保
3:不十分な日本の「住宅政策」と「ハウジングファースト」という考え方
4:山谷、池袋、渋谷でホームレスの人々はどのように年を越えたのか:越年越冬活動・現場からの報告
5:ボランティア医師・看護師が見た、年末年始の路上生活者支援の現状
6:路上生活者支援の新たなキーワード「ハームリダクション」「ハウジングファースト」「ネットワーク」