トランスジェンダーの子ども達の権利について、オバマ政権が公立学校に「指導」を発したという記事を紹介する。


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スペアチェンジニュース‐USA


オバマ政権は全米の公立学校に対し、トランスジェンダーの生徒が、身体的特徴ないし遺伝子上の性に基づいて決められたトイレではなく、個人による性自認に基づいたトイレを使うことができるよう指示した。司法省と教育省から通達された新たな「指導(ガイダンス)」によれば、トランスジェンダーであるとの届け出を学校が生徒から受けた場合、教育者はその生徒を本人が自認する性別に応じて扱わなければならないと書かれている。しかし、この「指導」は共和党支持者が多く住む州の人々を狼狽させ、連邦政府の補助金や法的権限を巡る争いを引き起こす可能性が高まっている。

*スペアチェンジニュースが報告する。‐ザック・モブリス

*「Spare Change News」は米国・マサチューセッツ州のストリートペーパー。


差別や嫌がらせ、暴力のない環境で教育を受ける機会を約束する「タイトル・ナイン」

アメリカ合衆国司法省と教育省は2016年5月13日、トランスジェンダーの生徒の人権を守るために公立学校が従うべき「重要な指導」を明らかにした。この「指導」は連邦の公的教育に関する法律の中の性別による差別を禁じた項目Title IX(タイトル・ナイン)の過去の改正――連邦政府から補助金を得ているすべての学校における差別を禁止する修正――を適用したもので、トランスジェンダーの自由を守り、その自由を最大限確保するために学校が取るべきあらゆる予防措置を正当と認めるものだ。

ノースカロライナ州の厳しいトイレ法(心と体の性が異なるトランスジェンダーが公共トイレを使う際、出生証明書と同じ性別のトイレを使うよう義務付けた州法)をきっかけに論争が巻き起こっている中で、この「指導」は、出生証明書の性別と自認する性別が異なる生徒のために学校のとるべき立場をはっきりさせ、何をすべきかを明確にする役割を果たしている。

「教育者は生徒のために正しいことをしたいと思っていますから、多くが法律にきちんと従うにはどのようにしたら良いか、を問い合わせてきました」教育長官のジョン・キング・ジュニアは言う。

「われわれはこの国の若者たちに、誰であってもどこから来た人でも、差別や嫌がらせ、暴力のない環境ですばらしい教育を受ける機会が約束されていることを教えなくてはならないのです」

形式ばった手続きより安心できる環境が優先。プライバシーを守る方法、生徒の両親に伝える方法など詳細な指導

「指導」には、生徒自身が自認する性別に応じて扱われるべきであることが強調されており、生徒は自分がトランスジェンダーであること、そして相応の配慮を望んでいることを学校に表明するだけでよいと明記してある。つまりプライバシーが守られ安心できる環境が書類や形式ばった手続きよりも優先だと強調しているのである。

具体的な規制や政策としては定めていないものの、この「指導」は、両省が人権保護の取り組みにおいて、適切かつ効果的であると考えている方法をはっきりと例示している。たとえば、生徒の性自認の状況について確認する最善の方法や、生徒の両親にトランスジェンダーの現状を伝える方法、トランスジェンダーのプライバシーを守る方法、性別で分けられる活動や施設(運動競技やトイレなど)においてトランスジェンダーの生徒が自認する性別に基づいてすんなりと入れるようにする方法などである。

両省の指導文書が例として挙げている州の公立学校政策の中に、2013年に公表されたマサチューセッツ州の「指導」がある。そこには、トランスジェンダーの生徒の安全とプライバシーを守るために学校はどのように両親とやりとりすれば良いかを、トランスジェンダーの生徒と話し合う必要があると記してある。

今回の「指導」ではプライバシーの問題についてさらに深く掘り下げており、トランスジェンダーの生徒の性別に関する情報は、どうしても必要な場合を除いて集めるべきではないと明記している。

この部分はマサチューセッツ州の上院で、公共の場でトランスジェンダーの市民を差別することを事実上禁止する法案が通過したことを受けている。

これは、人々の考え方を変える大きな闘いの、ほんの足がかりにすぎない

さらに両省の指導はトランスジェンダーの生徒に対するいじめに対して、効果的に防止したり規律を徹底させる方法や、一般市民からの苦情の対応方法についても詳しく述べている。指導では、次のようなことには適応されないことも述べられている。男性または女性だけの授業や学校(これは私立学校に関することであるため)と、男子学生あるいは女子学生のみに参加者が限定されたクラブでのトランスジェンダーの生徒の扱いについてである。

ボストンを中心にトランスジェンダー問題の啓蒙活動を行うグループ、「マサチューセッツ・トランス・ポリティカル・コーリション」は、この動きを賞賛している。しかし、まだ足りないとも感じている。「これは足がかりに過ぎません」グループの事務局長を務めるメイスン・ダンは言う。「人々の考え方を変えるための大きな闘いの一部分なのです」

INSP.ngoの厚意により/スペアチェンジニュース

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