トランプ政権の発足以来、米国では非正規滞在者の取り締まりが強化され、逮捕数が増加している。しかし、米国のいくつかの都市は連邦政府の圧力に負けず、移民の人権を守る「聖域都市」として闘い続けている。

70年代にさかのぼる「聖域都市」運動。米国300以上の都市に

聖域都市とは何か? これに法的な定義はない。しかし、そう呼ばれる都市はいずれも、非正規滞在という理由で移民を不当に勾留することや、連邦機関へ引渡すことを拒否している。

聖域都市の運動が本格化したのは1970年代までさかのぼる。不安定な政情や戦争により、中米諸国からの亡命希望者が次々到着したのがきっかけだった。当時、エルサルバドルでは約7万5千人、グアテマラでは20万人が政府によって殺害されたとされる。

こうした亡命希望者の受け入れを拒否した米国政府に対し、市民たちはそれぞれの地域で“聖域都市”を宣言。サンフランシスコは85年「避難都市」条例を制定し、市の予算や財源を使って連邦政府の強制的な移民排除に手を貸すことを禁止した。これが聖域都市の一つのモデルとなり、昨年の時点で米国の300以上の地域が“聖域”政策を掲げている。

現在、この運動で中心的な役割を果たしている都市の一つが、市民の12・7%が国外生まれであるフィラデルフィアだ。フィラデルフィア移民局は、聖域を守ることはすべての人を平等かつ公正に扱うという米国精神を守ることだとしている。たとえその滞在が非正規であろうと、家族の離散の防止や、健康的な生活、社会的サービスの利用、子どもたちの教育を受ける権利は、基本的な人権として保障されるべきものだからだ。

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フィラデルフィアのアーティスト、ジェームズ・バーンによる壁画『聖域』。
コミュニティの健全な発展を願い描かれた
Photo:Steve Weinik

「米国が抱える問題を特定の集団のせいにして、その人権を侵害するのは、合衆国憲法にも反します。フィラデルフィアでは司法制度のもと、移民も他の市民と同様に扱われるのです」

一方で反対派は、社会の安全の名のもと、移民による暴力犯罪に注目を集めようとする。しかし、フィラデルフィアのジム・ケニー市長は、聖域こそが街を安全にしていると語る。「犯罪の被害者や目撃者が送還を恐れて警察に通報しなくなれば、本当の悪人が路上を跋扈(ばっこ)することになるでしょう」

こうした聖域都市と犯罪抑止の関連性について、根拠は見つからないとする調査も存在する。それでもフィラデルフィア市移民局によれば、同市の犯罪発生数はこの40年間で最低を記録しており、16年1月の聖域都市政策の制定以来その数は減り続けている。また、カリフォルニア大学のトム・K・ウォン准教授は、聖域都市とそうでない都市を比較した際、聖域都市の犯罪率は顕著に低く、経済的にも貧困が少ないなどのメリットがあると主張。移民に寛容な政策こそが、司法当局と移民コミュニティとの間に信頼関係を築き、暴力犯罪の通報・解決、さらには減少につながるというのだ。

トランプ政権による「聖域都市への補助金停止」命令。各地で“ 違憲” 判決

だからといって、聖域都市が連邦政府の入国管理政策のすべてに協力を拒否しているわけではない。フィラデルフィア市移民局は「テロ防止および麻薬取引の撲滅のため連邦機関と連携して」おり、そのために「非正規滞在と疑われるフィラデルフィア市民を逮捕するのを妨げることはない」と明言している。しかし、地元警察が連邦機関の業務の代行や、市民に不利となりうる情報の提供を課されるべきではないと考えているのだ。

たとえば、連邦政府機関であるICE(移民税関捜査局)は国土安全保障省の傘下にあり、非正規滞在者の勾留や強制送還を行う権限を与えられている。しかし多くの場合、容疑者を最初に逮捕・勾留するのは地元警察だ。各地で容疑者が勾留されると、ICEは尋問や捜査継続のため「勾留延長令状」を発行し、警察に勾留延長を求めることがある。だが、ICEの出す令状は裁判所が発行した令状ではないため、ペンシルベニア州およびオレゴン州の連邦裁判所などは、ICEの令状のみによる勾留延は“不当逮捕”にあたると判断しているという。こうした聖域都市と非正規滞在者をめぐる状況に、今、大きな変化が生じている。大統領選挙の期間中から、メキシコ国境での壁建設など、いくつかの移民政策を掲げてきたドナルド・トランプが、昨年、大統領就任の1週目に「聖域都市への連邦補助金を停止する大統領令」に署名したのだ。これに対し、カリフォルニア市とサンタクララ郡は大統領令を公式に拒否し、連邦地裁に提訴。ウィリアム・オリック判事は「大統領が気に入らない移民政策を選んだという理由だけで、移民法の執行と無関係の連邦補助金を打ち切ってはならない」と大統領令を差し止める決定をした。

しかし、事態はこれで収束しなかった。セッションズ司法長官は連邦補助金の交付条件として、フィラデルフィアをはじめとする聖域都市に対し、市が勾留する非正規滞在者をICE職員が尋問すること、また釈放2日前までにICEへ通知を行うことを求めた。
これに対し、フィラデルフィア市はセッションズ司法長官と司法省を提訴。「不法かつ違憲であり、専横的で恣意的だ」と述べている。

裁判の結果、市は勝訴したものの、司法長官はオバマ政権時代に発効し、80万人を強制送還から救った「児童期に入国した移民の強制送還延期措置」を撤廃する方針を発表。さらに10の聖域都市でICEが4日間にわたる“安全な都市作戦”を実施し、498 人を拘束したと発表した。

カナダ、英国などにも広がる運動
教会も“ 聖域” を提供

こうした状況の中、ハビエル・フロレス・ガルシアにとっては行政が与えてくれる以上の保護が必要だった。

ハビエルは40歳。米国へやってきたのは97年のことで、今では2人の息子、養女、妻と一緒に暮らすフィラデルフィアが「わが町」だ。これまでも何度も強制送還されたが、そのたびに米国の家族のもとへ戻ってきた。『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材を受けた時は「麻薬を買ったこともないし、誰かの不法入国を助けたこともありません――私の犯した唯一の罪は米国に戻ってきたことです。戻ってくるのは家族を愛しているからです」と話した。

ハビエルは15年に再びICEに捕まり、その後16ヵ月にわたって勾留された。強制送還の処分が決まったが、以前に申請していた書類を理由にいったん釈放された。

申請していたのは「Uビザ」という、特定の犯罪の被害者や捜査協力者に与えられる特殊な ビザだ。04年にハビエルはナイフを持った二人組に襲われて重傷を負い、その際に警察の捜査に協力した結果、犯人が逮捕・起訴されたことがあった。そのためハビエルはUビザの資格を満たしてはいたものの、期限までに必要な書類が揃わなかった。そして、出頭して送還されるよりはと、ハビエルは16年11月、アーチ・ストリート合同メソジスト教会の地下に身を隠した。

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11年からフィラデルフィアの「新サンクチュアリ運動」に参加していた教会は、無期限で教会内に住むことをハビエルに認めた。ICEは宗教施設内では逮捕を行わない方針のため、多くの教会が強制送還を心配せずに暮らせる“聖域”を提供している。

「教会にずっと留まる生活はとてもつらかったですが、家族と一緒にいるためなら仕方ありません……単調な毎日です。一歩も外に出られませんが、家族のことを思い、目的を見失わないようにしていました」

そんな教会での生活が11ヵ月近くになった昨年10月、とうとう在留許可がおりた。ハビエルは初めて外に出た。家族も一緒だ。ノース・ブロード・ストリートでは集まった人々がスペイン語で「とうとうやった!」と歓声を上げた。

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教会を出て、喜びを語るハビエル。弁護士や移民コミュニティの大きな支えがあった
Photo:Jim Irby

ビザが発行されれば、永住権の申請ができる。ほぼ1年ぶりに教会の外へ出たハビエルは、自宅に戻ったら最初にしたいことを訊かれ「子どもたちと走り回りたい」と答えた。

『ワシントン・ポスト』紙によれば、トランプ政権の発足以来、移民法に基づく逮捕数は 43%増加している。しかし、強制送還数は増えていない。16年の大統領選以降、移民保護や裁判での弁護を行う団体への寄付が大幅に増えていることも理由の一つだろう。

現在、聖域都市は米国のみならず、カナダや英国、アイルランドにも広がっている。日本にはまだ聖域を名乗る都市は現れていない。

(Jim Irby/Courtesy of One Step Away/INSP.ngo/編集部)

以上、2018年3月15日発売の『ビッグイシュー日本版』331号より転載
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