米オレゴン州マルトノマ郡(*)で2017年に行われたホームレス人口統計調査によると、1,355人の成人女性がホームレス状態と特定され、全ホームレス人口の36%を占めるに至った。これは2015年度の1,161名より16%増、2009年度の662人からは倍増にあたる。路上生活する女性が増えている、その実態とは? ポートランドで発行されているストリート誌『Street Roots』の女性販売者5人に路上生活について話を聞いた。

*マルトノマ郡はオレゴン州最大の都市ポートランド市を含むエリアで、人口約80万人。

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ボーイフレンドのショーンとモリソン橋の下で暮らすエイミー 「彼がそばにいないと不安」

11月末の寒さ厳しい夜。貨物列車がタイヤをきしらせながら通過すると、モリソン橋の東端の下、コンクリート橋脚の通路には耳をつんざくような轟音が鳴り響く。頭上高く照らし出された明かりは一晩中ついたまま、ここを住処とする人たちを照らし出している。ネズミもうようよいる。雨が降ると、雑にタイル張りされた歩道の両側の溝を水が勢いよく流れる。ここの住人が寝袋を広げるところにだ。

エイミーは約3年前から、『Street Roots』の販売者仲間でもある彼氏のシーン・シェフィールドとモリソン橋のたもとで暮らしている。しかし、彼女はいわゆる「ホームレス状態」のイメージにはそぐわない。ドラッグにもアルコールにも手を出したことがないし、ポートランド空港のスターバックスでの仕事ではシフト管理者に任命されたばかりだ。

気さくで陽気、勤勉な彼女だが、当初は橋の下での生活に不安いっぱいだったと言う。

「凍え死んじゃうかと思いました。」

とはいいながらも、寒さや雨降りにめげずここで暮らしている。彼女が隔週で給料をもらってくると数日間はモーテルに泊まれるので、二人で楽しみにしている。

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Photo by Helen Hill 
モリソン橋の下で暮らす『Street Roots』の販売者エミー・タルコ


彼がそばにいないと不安だと言うエイミー。「女性にとって路上生活はより厳しいものだと思います。」「彼が日が暮れてから販売に行っちゃう時なんかは、自分の背後やまわりが気になってしょうがない。ここで生活している人たちは、通りすがりに『やあ、大丈夫? 危険を感じてない?』と声を掛け合ってお互いを気に掛けるようにしています。男性に言われるとちょっと怖いこともあるけど、女性同志だと気持ちが落ち着きます。」

ポートランド警察も保護活動にあたってくれている、と彼女は言う。11月20日、モリソン橋の西側にあるホームレスキャンプで殺人事件が2件発生したが、その時も警察が彼女たちの無事を確認しに来てくれた。「私たちを起こして大丈夫かってその夜だけで2回も来てくれました。私たちのことを本当に心配してくれていて、とてもありがたいことです。」

バーンサイド橋の下で暮らす強気な女性オリヴィア(仮名)「私の名前は『姉ちゃん』じゃない!」

オリヴィアは背丈は小さいが逞しく、ちゃきちゃきタイプの頼もしい女性。バーンサイド橋の下で一人で生活している。路上生活における女性蔑視、女性ならではの困難な状況を痛感している。



「路上でも女性はやりやすいだろうって思われてます。『無料でモノを分けてもらいやすいし、シェルターにも入りやすいだろう』って。でもそれは違います。」

「『路上に出てこなくても家においてくれる人くらいいるだろう』って言われます。『売春すればいいじゃないか』って。家がないからって女性がみんな売春するわけじゃありません!」

「嫌がらせされるのなんて日常茶飯事。『やあ、姉ちゃん!』って男たちがほっといてくれません。女はそう言われたら本気で嬉しいとでも思ってるのかしら。 私の名前は『やあ』でも『姉ちゃん』でもないのに!」

「小さな街のホームレスコミュニティ、お互いをよく知ってますから悪い噂が立たないようには気をつけてます。ドラッグもしないし、パーティー騒ぎしてるところには顔を出しません。」 「『女性の方が住まいを見つけやすいだろう』、『ストリート誌も女性の方が売りやすいだろう』と言われます。でも日々売春婦のように扱われたり、夜になると恐怖を感じるのは全くもって楽しくありません。女性の方がラクだなんて、ないですね。」

夫と一緒にテント暮らしをしているアイリーン 「信頼できる人たちと出会う必要がある」

アイリーンはアーティスト、お針子、兼詩人として都会で生き抜いている。夫のチャールズと共にテント暮らしやキャンピングカー生活を続けてきたが、市からたびたび違反切符を切られ、キャンピングカーも撤去すると脅され、「ディグニティ・ビレッジ(Dignity Village)*」に舞い戻ってきたところだ。

*ポートランドにある環境にやさしいタイニーハウスでつくられたホームレス向け保護施設。約60名が入居。

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dignityvillageのサイトより
Image: Kwamba Productions


「移動しろと夜中に発砲されたり点滅灯を当てられたり。でも、いつでもチャールズがそばにいてくれた。」と彼女は言う。「安全のため、家族キャンプさながらに大勢で一緒に野宿するのはよくあること。ですから、信頼できる人たちと出会う必要があります。」

「一人で寝袋を広げている女性たちもいます。安全面で言うと、男性も女性もそんなに変わらないと思います。男性でも高齢になると女性と同じくらい弱い立場ですから。」

「でもこちらが女性なだけで、こちらがか弱く無防備に見えると途端に付け入ろうとしてくる人たちがいます。」

「だから、気の強そうな、舐めんじゃないわよって表情をつくってます。これにはトレーニングが必要ですが。軍人だった兄から護身術だと言って相手をおさえつける方法を教わったときも、兄の言う通りではなく直感で兄の両耳を掴んだんです。兄はびっくりしながら、「直感でそう感じたんなら、おまえに教えることはもうないな」と言ってました。」

「自分の暮らしは自分で守ってます。私の人生の終わりを決められるのは私だけ。必要ならば仁王立ちして、自分の中の強さを引っ張り出すんです。」

「気をつけるべきことは多々ありますから、常に用心はしています。」

トランスジェンダーのジェイ「シェルター暮らしも体を売ることもイヤ」

ジェイは才能豊かなアーティストで、自身を男性や「ノンバイナリー(*)」と見なす。現在は一時保護施設(シェルター)で暮らしている。

*自身のジェンダーを男性・女性のどちらかに限定しない。「第3の性」とも言われる。

「女性の身体をもつ者としては、男性の方が選択肢が多いと感じます」と言う。「シェルターにしろ住宅にしろ、独身の女性・トランスジェンダー・ノンバイナリーの人たちと比べると独身男性は選択肢が多いですから。」

「私は変質者や弱い者いじめをしたがる者たちによく標的にされます。どうしたって華奢でか弱い女と見られるのです。俺のガールフレンドになったら家に泊めてやるよ、と声を掛けられることもしょっちゅうです。同じ路上生活でも男性ならこんな目には遭わないですよね。」

「シェルターには入りたくない、かと言って住まいのために体を売ることはしたくない、板挟みです。男性と口をきくのもイヤになりますね、天敵が近づいてくるみたいで。」

「男性の路上生活者も暴行されることはあるでしょうが、女性の身体を持つ私はより性的暴行を受けやすいし、命を狙われる可能性も高いと思います。」

テントコミュニティで暮らすバーブラ「男性パートナーがいれば危険な目に遭う可能性を減らせる」

バーブラは市場調査の分野で輝かしいキャリアを築いていたが、2010年に脳障害を患い障害者となり、その道は断たれた。数年後には路上生活者に。自らを「奇跡の歩行者 (miracle walking)」と称する。

活動家としても活躍しており、貧困救済カフェ「Sisters of The Road」の委員会や「チャイナタウン地域連合(the Old Town Chinatown Neighborhood Association)」のメンバーだ。直近では、ホームレス問題の調査と解決に向けた計画案を作成する「オレゴン・ヘルス&サイエンス大学(OHSU)」医療チームのアドバイザーにも選ばれた。「The Metro Trash Initiative」でもボランティア活動をしており、ホームレスの人々たちのごみ及びリサイクル問題の意見交換会に顔を出している。


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Sisters of The Road


現在は、ボーイフレンドと一緒に「テントコミュニティ12」で暮らしている。「いつも男性がそばにいた」と彼女は言う。「路上は危険だらけです。お金や中身が何かもわからないリュックを盗もうと殺しにかかってくる人たちだっていますから。パートナーがいれば、そんな目に遭う可能性を低下させられます。」

「彼氏が危なっかしい男で、殴ったりひどいことをしてくるかもしれませんが、命までは奪わないでしょうし、財布や電話を盗むこともないでしょう。だから自分で心を決めるのです。自分次第で事は防げるって。私がお酒を飲まなければこの男も殴ってこない、安全でいられると。いつも誰かと一緒なら、殴られる、レイプされる、物を盗まれることはありません。」

「路上生活してる女性たちに聞けば『レイプされたことがある』『子どもを連れ去られたことがある』と言うでしょう。それが現実です。最悪の状態にあっても最善を尽くすべき、なかなか理解してもらえませんけど。ひとりで路上生活してる女性のことは大いに尊敬します。私にはできないことですから。」

路上生活をしている女性たちにはこうアドバイスする。「自分の直感を信じなさい。恐怖を感じるなら、気持ちじゃなく直感を信じなさいと。この道を行くのはやめといた方がいい、この男は信じない方がいい、直感でそう感じるならその声に耳を傾けるべき。」

「女性ホームレスの数がどんどん増えているこの状況は止められません。ならば、みんなで団結して互いの安全を守りましょう。女性ひとりの路上生活は非常に危険、避けるべきです。」

By Helen Hill
Courtesy of Street Roots / INSP.ngo


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