日本の地方自治体のなかには、財政難により子どもの給食が驚くほど貧相になっているところもあると、SNS上で話題になっている。その一方で、政府は2020年には小中学校の全生徒にタブレット端末が行きわたることを推奨している。メリットはあるのだろうが、これでいいのだろうか?
子どもの7人に1人が貧困レベルにあるとされている日本だが、さらに深刻なドイツの状況について有識者の一人、マルゴート・ケースマン(記事末尾にプロフィール)に話を聞いた。

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Photo by Grit Biele

ー ドイツでも、子どもの5人に1人が何年にもわたり貧しい暮らしをしているという統計があります。これは仕方のないことなのでしょうか?

マルゴート・ケースマン:ドイツのような恵まれたはずの国で、これは大変不名誉なことですし、社会がこの問題に慣れっこになっていることも問題です。貧富の差も広がり続けており、私の子ども時代とは状況が違ってきています。

子どもたちは、自分は「大事にされていない」と感じることで自分の貧しさを実感します。親に金銭的余裕がないために、他の子たちのようにスポーツや遊びに参加できない。お金のかかるバレエや音楽などの習い事ができない。ファッションや流行にもついていけなくなる。食事の栄養が足りていないことも明らかで、そういう子どもたちは早い時期からイライラや怒りを感じがち。大変悲しい状況だと思います。

Esi GrünhagenによるPixabayからの画像
Esi GrünhagenによるPixabayからの画像

ー 政治家の間では、子どもの年齢によって月々360〜503ユーロ(約4万3千円〜6万円)を保護者に支給する案が検討されているようですが、これは解決策になりそうですか?

もっと多くの現金給付がなされるべきと思います。ほんのわずかな支援だけで奮闘しているシングルマザーなんかには特に、子ども手当てを増額し、ダイレクトに支援を届けることが重要。

でもそれはあくまで一要素に過ぎません。それよりも重要なのは、保護者をもっと子どもの活動に巻き込んでいくことです。以前、教会として子どもの演劇プロジェクトに寄付をしたことがあるのですが、保護者は姿も見せませんでした。

ー それは親が関わりたくなかったから?

そもそも親が関わりたくないか、もしくは関わることができないかは子どもたちのせいではありません。私たちはお金だけを与えて参加機会が広がるとは思っていません。社会全体で子どもたちを支援していくべきです。近所に気になる子どもがいれば一緒にイベントに連れて行ってあげるなど、自分ができる簡単なことから始めればよいのです。

Esther MerbtによるPixabayからの画像
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ー 近頃の貧しい子どもたちは「第三世代」とも言われています。
その親たちも、あまり社会参加というものを経験していないのかもしれませんね。

貧困状態にあると“疲労感”をもたらします。マイナスの経験ばかりが続き、努力が報われないと、「さあ、子どものために何かしよう」という気分にはなかなかなれません。また親たちに社会参加経験がないと、子どもの前にあるチャンスを見逃してしまいがちです。本来、よほどの状況でないかぎり、親というのは子どもに最善を望むものなのに...。

ー 親が疲れきっていてしっかりサポートできないのなら、親と子を引き離した方がよい?

それよりも、私は小学校入学前の一年間に「義務保育」を提供する考えに賛成です。「人生で最も大事な時期」は小学校に入るずっと前から始まっているのですから。 幼児研究によると、「社会的行動」は1〜3歳で、「学習行動」は3〜6歳の間に発達します。小学校に入る頃にはすでに多くのことが決定づけられているのですから、なるべく早い段階での「介入」が必要なのです。

ー ドイツでは、平均すると小学1年生の約4割が移民で、多いと8割が移民という小学校もあります。その多くがほとんどドイツ語を話せないため、後々取り返せないほど学習の遅れが出てしまいます。移民が定数を超えるところでは、校区外の学校にバス通学させられているようですね。

強制するようなやり方ではなく、もっと個々のニーズに応じた教育システムが必要です。そのためには、ソーシャルワーカーを増やす必要があります。

移民背景を持つ親の大半は、子どもたちにそれなりの教育を望んでいます。しかし外国出身の親たちは、ドイツでは親たちが直接子供の成長をサポートしなければいけないということを分かっていないことが多いです。子どもと一緒に絵本を読む、普段から読み聞かせをする、宿題を手伝う、といったことです。そのことにがっかりする移民の親たち、そして親の期待にこたえられず苛立ちを感じる子どもたち...。ドイツの教育システムを移民の親たちに伝授していくには、今よりもっと踏み込んだ支援が必要です。

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Aline DasselによるPixabayからの画像 

好例となるプロジェクトが、ヴァイデン・イン・デア・オーバープファルツ市で実施されています。1984年にある一組の夫婦が移民の子どもたちを対象とした放課後の宿題サポートを始め、今日では260人の子どもが通っています。こうしたプロジェクトには政府の財政支援がもっとあって然るべきですし、対象も移民だけでなく貧しい子どもたちにも広げていくべきです。

ー 平等な機会を創っていくはずの教育改革をわれわれは途中で放棄してしまったのでしょうか?

今がどの段階なのかは分かりませんが、私が子どもの頃はもっとしっかりやり遂げていたように思います。姉が高校に入学した当時は、先生に「貧しい家の娘が高校に行く時代になったか」なんて言われたものですが、7歳下の私の頃には状況はずっと良くなり、そんな言われ方をすることもありませんでした。子どもたち全員がしっかり教育を受けられるよう母が奮闘してくれたおかげです。でもこれはすべての親が目指すことであり、社会全体で支援していくべきです。

ー 政府の資金投入は何らかの社会的指標をもとに決めるべきでしょうか? 例えば、裕福な地域にある小学校への支援を市内の貧困エリアにまわし、平等な機会をつくりだしていくべきでしょうか?

それは興味深いやり方ですね。街全体としてすべての子どもたちが適した環境で学習できるよう、職員の配置を調整することだって可能です。お金の使い道ももっとフレキシブルであるべきです。ソーシャルワーカーや教師の数が足りていない、空腹で登校する子どもたちがいるような学校では、IT機器への投資は後回しでよいですよね。

Katrina_SによるPixabayからの画像
Katrina_SによるPixabayからの画像

ー 貧しさから来る家庭のストレス、学校での困難を抱える子どもたちは、家出の果てに路上生活に陥りがちです。「ドイツ青少年研究所(German Youth Institute)」によると、全国で約8千人の子どもたちに家がなく、その多くが女の子とのこと。子どもが行方不明になっても通報すらしない親もいるとか...

ベルリンの労働階級地区ヴェディングを歩いていると、そんな子どもたちをよく見かけましたし、クアフュルステン通りでは明らかに未成年の女の子たちが売春で自分を安売りしています。ここハノーファー市は比較的裕福なせいか、私自身はまだ目にしたことはありませんが。

虐待や暴力、育児放棄から逃れるには家出するしかないなどと甘い考えをしてはいけません。こんなことがドイツ社会で起きているなんて、あってはならないことだと思っています。


マルゴート・ケースマン
1958年生まれの独ルター派神学者。女性初のハノーファー福音ルター派州教会監督(1999年〜2010年)を務め、ドイツで最も重要な有識者の一人に選ばれた。2018年に教会職から引退、現在は執筆活動が中心。ストリート誌『Asphalt』にも寄稿している。

Interview by Volker Macke
Translated via Translators Without Borders
Courtesy of Asphalt / INSP.ngo


<参考>
Family Report 2017 by Federal Ministry for Family Affairs,Senior Citizens, Women and Youth
Child poverty still rising in Germany, official report shows
One in five children in rich countries lives in poverty, UNICEF 'wake-up call' report shows

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