「ハウジング・ファーストモデル」はNPO Pathways to Housingのサム・ツェンベリスが提唱・推進した新しいホームレス支援の形です。従来型のステップアップ的支援(まず施設や病院に入ってもらい、段階を踏んでアパートの部屋を提供するやり方)とは反対に、まずは自分の「ホーム」といえる家に入居してもらい、そこにソーシャルワーカー、精神科医、訪問看護師など、多職種で構成されるチームが一人ひとりにかかわることで、必要な支援につなぎ孤立を防ぎます。
1988年よりロサンゼルスで実験的に実施され、目覚ましい功績を残したのを機に、この新しい支援の形はアメリカ全土に広がり、カナダ、フランス、北欧へも広がっています。
NPO Pathways to Housingのビデオでは彼らが活動するフィラデルフィア市の上層部の役人が驚きを隠さずに次のように語ります。「ある意味では、「ハウジング・ファースト」という考えは、従来の支援モデルにおける優先順位を逆転したに過ぎないのですが、その成功率は従来型の手法の3倍に及んでいます。ハウジング・ファーストは並外れて重要なプログラムであると私は思うのです。
日本でもこの合理的かつ人道的、しかもすでに世界各国で効果が立証済みの「ハウジング・ファースト」モデルを展開しようと関係者が集まりました。
「ハウジングファースト東京プロジェクト」(六団体からなるコンソーシアム:訪問看護ステーションKAZOC、国際NGO世界の医療団、一般社団法人つくろい東京ファンド、NPO法人TENOHASI、べてぶくろ、ゆうりんクリニック)は、ハウジングファースト・モデルによる支援を通じて、誰一人としてホームレス状態に陥ることのないコミュニティの創造を目指しています。
それほどの効果が出るホームレス支援とは、いったい従来型と何が違うのでしょう?
そのご説明をするのに何より効果的な映像を昨年の年末に見つけました。
Pathways to Housing, フィラデルフィアが作成した11分の映像です。ハウジングファースト東京プロジェクト・翻訳チームが日本語字幕をつけました。
「苦しくて、もう死んでしまおうと思って、まさに死のうかという、その直前にパスウェイズが現れたのよ」
「外は辛い。とても辛いよ。外は人間が住むところじゃない」
「カギなしじゃ出かけられないよ。どこへ行くんだってカギは手放さないさ。ぜったい忘れないんだ」
人にとって「住まい」とは何か、社会に混じって生きることの効果、人間の尊厳とは、ホームレス対策を放置することの経済的悪影響などなど、ぎっしり詰まった11分です。
是非、映像をご覧ください。
『ハウジング・ファースト』 フィラデルフィアにおける成功の記録
もっと詳しくハウジング・ファーストを知りたい方は、2015年11月に立教大学で開催した公開講演「ハウジングファーストと社会デザイン」(その1)も併せてご覧ください。
フランスでハウジング・ファーストを実践する精神科医ヴァンサン・ジェラールさんの説得力のある講演です。ちなみに、恥ずかしながら通訳は私が勤めております。