「サイレント読書会」で雑念やSNSを絶つ。1冊の本を読み切るため、静かな集いを求める人たち

 メルボルン在住のフリーランスライター、エリザベス・クインは近年、じっくり本を読むことが難しいと感じていた。時々思い出したように読むことはあるものの、小説を読み切ることができない。そこで彼女は、ちょっとめずらしい「サイレント読書会」とやらに参加してみることにした。


その日、私は電車で「サイレント読書会」の開催場所に向かっていた。初参加とあって、すでに緊張していた。主催団体 Shut the Fuck Up Reading Society(黙って本を読め!の意味)の公式 Facebook ページには開催趣旨として「内向きな人や不安を抱えた人が、社会的交流や会話を求められることなく、プレッシャーなしに参加できる場を提供したい」とある。

対人恐怖症の人間にはありがたいだろう。だが、当たり障りのない会話から場に馴染んでいくことが多い私のような者には、知らない人たちばかりの中で声を発せられない “無防備な” 状況は、想像するだけで不安だった。

「沈黙」以外にも不安要素があった。実はこの私、物書きを生業としていながら、プライベートでのいろいろが影響し、ここしばらく一冊の本を読み切ることが難しくなっていたのだ。本を開いても集中できる時間は10分ほど、読書の質も決して良くなかった。2時間に及ぶ読書会に耐えられるだろうか、ほとほと自信がなかった。

恐ろしく感じつつも、毎月第二日曜にクイーン・ビクトリア・ガーデンの花時計の近くで開かれているこの読書会に参加することにした。

開始10分前、巨大な3本のヤシの木の下に30人ほどの常連メンバーが集まっていた。前半セッションくらいは “沈黙” を乗り切ろうと心に決め、私はひとり参加者らがかたまっている付近に場所を確保した。

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カゴバックの中から、帽子・日焼け止め・スナック菓子・メモ帳を取り出した。敷き物を広げ、風ではためかないようにするのに苦労したが、やっとのことで足を組んで座り、本を手に取った。

ラジオやソーシャルメディアでの告知が効いたのか、その日の参加者は過去最高の40人だった。時計の針が11時をまわると、文字通り「黙って本を読む」時間が始まった。

開始を告げる合図かのように、私たちの頭上で空軍戦闘機が低空飛行を始めた。連休中だったので、広場には多くの家族連れもいた。 芝生に寝そべった読書家の一群は、周りの注意を引く奇妙な存在だったに違いない。立ち止まって、この“ライブ・インスタレーション” をじっと見つめる旅行者や家族連れもいた。

集中力回復のため、私が選んだ本はオーストラリアの哲学者デイモン・ヤングの『The Art of Reading(未邦訳)』。しかし、読み始めてすぐにその選択を後悔した。 私の集中力では読み進めにくく、3章を読み終えたところで頭が痛くなり、携帯電話をチェックしたい衝動にもかられた。

45分経過したところでタイマーが鳴り、15分の休憩に入った。私は本を閉じ、周りを見渡し、誰か話し相手を探した。

参加者の一人、スティーブンは集中して本を読めなくなっていることに気づいて以来、時間と場所を決めて読書するようにしているそう。読書会に出席するのは、ある種の「義務感」だと言った。難易度の高い哲学系の本を選んでいたが、私と違い、その選択を後悔してはいなかった。 「ここでは邪魔が入らないから、読書が進むんです」と彼は言った。彼の満足げな様子と集中力を羨ましく感じた。

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後半セッションは60分。終わりを告げるベルが鳴り、デイモン・ヤングと私の “パーティー” はお開きとなった。 これが良い経験だったのかどうか、この時点ではよくわからなかった。

当団体の発起人レイチェル・ベティエンズを探した。アイスキャンデー柄のワンピースを着た黒髪の女性を囲む人だまりを見つけたが、その前に重要な広報活動があった。Instagram用に、参加者全員が正方形のフレームに収まった。今日読んだ全員の本も同じように撮影した。

撮影が終わり、ようやく私は彼女と話すことができた。携帯電話をオフにし、ソーシャルメディアを見ない2時間の読書会を宣伝するのに、ソーシャルメディアに大いに依存しているという皮肉な状況についても話し合った。

「おかしいですよね」と彼女も認める。「人と繋がるためにソーシャルメディアを使うのに、読書会では携帯をオフにすることで新たな繋がりが得られるんですから」

彼女は2009年にシアトルで始まった同様の活動から触発され、この読書会を立ち上げた。活動は順調だが、自分の貴重な読書時間が失われがちという。「自宅で本を読むときは、スマホで写真を撮ることやSNSでの投稿をしないように決めています」という彼女、この日は持ってきた本を72ページ読み進められ、満足げだった。

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参加者たちに共通していたことは二つあった。ソーシャルメディアの誘惑から逃げようとしていることと、(個人的なやりとりの有る無しに関わらず) 考えの似た者同士で一緒に本を読むことを魅力に感じている点だ。

私と同じく初参加の女性ペタは、自分の本には飽きたようで、私に何を読んでいるのかと恥ずかしそうに聞いてきた。参加するまでは「集団心理」のような雰囲気が気が散るのではと思っていたけれど、予想以上の良い経験となったようで、「ぜひまた参加したい。ここでは変わり者扱いされませんでしたから」と言った。

私はといえば、このイベント参加から1週間後、自宅で「サイレント読書会」を開催することにした。場所は寝室、参加者は私ひとりだけ。他には誰もいないというのに、「洗濯物を取り込まなきゃ。夕食の支度をそろそろしなきゃ。Facebookをチェックしたい…」いろんな心の声がささやきかけてきた。

独り言とSNSの誘惑を断ち切るため、私は陽当たりの良いコーナーにソファを置いた。携帯電話も家族もやることリストも、部屋から閉め出した。テーブルの上には本の山。昔からのお気に入り、新刊書…難しすぎるものはない。 まずはハードル低めのジェーン・オースティンの『高慢と偏見』から。熱心に読み入るスピードに我ながら驚いた。

その後2ヶ月間で4冊の本を読了した私は、“リハビリ” を終え、完全復活に向かっている気がする。 今では「やっぱり読書が一番!」という気持ちだ。

By Elizabeth Quinn
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo

Illustrations by Nat Hues








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