女の子への読み聞かせ革命!クラウドファンディングで7300万円集めた『世界を変えた100人の女の子の物語』著者にインタビュー

「女の子に読ませたい本」を探して本屋に行くと、キラキラドレスを着たプリンセスたちと王子様のラブストーリーばかりなことに違和感を持ったことはないだろうか? 小さい頃から知らず知らずのうちに刷り込まれている「男と女の役割」に一石を投じた本を紹介しよう。


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「何を作ってほしい? 剣…それともハートかな?」バルーンアートが得意な手品師が訊ねる。
「剣!」少年が即答すると、手品師はささっと手を動かし、あっという間に青い風船を剣のかたちに変えた。

誕生日パーティーに来ていた他の子どもたちにも同じ質問をすると、男の子たちは申し合わせたかのように「剣」、女の子たちは「ハート」と答えたので、手品師は次から次へと青や緑の風船で「剣」を、ピンクと赤の風船で「ハート」を作っていく。そのうち、手品師は質問を言い終わらないうちに手を動かしている。

すると、ひとりの女の子が現れ、「ハートはイヤ。剣をちょうだい!」とにっこり顔で言った。 手品師は目を大きく見開いて喜び、緑の風船で大きな剣を作って少女に手渡した。

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acworksさんによる写真ACからの写真 

次に待っていた女の子も、恥ずかしそうな声で「私も剣がいいな」と言った。その次の女の子も「剣がいい」と言った。その後ろに並んでいた男の子は、「じゃあ、僕はハート!」と元気よく答えた。
風船を手に走りまわる子どもたち。剣を持って空を飛ぶ真似をする子、ハート形の風船をネックレスのように首にかける子、風船ゲームはがぜん盛り上がってきた。

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これは実際にあった話。子どもたちが幼い頃から “あるべき姿”を刷り込まれそうになっていること、だけどたったひとりの子どもが型にとらわれない言動をするだけで、他の子たちも自分の思いを口にする勇気を持てるようになることを物語っている。

私たちはこの「ジェンダーをめぐる固定観念」を払拭していかなければならない。

世界では相変わらず、多くの女性や少女たちが暴力や差別の犠牲となっている。女性の35%が、人生のどこかの時点で身体的または性的な暴力を受けているとの統計もある*1。
持続可能な開発目標(SDGs)でも、5番目の目標として「ジェンダー平等の実現」が掲げられている*2。男性がヒーローとなって意欲にあふれる支配者として描かれ、女性は優しく物静かな存在として報いるーそんな時代錯誤な “語り” が続けられてきたからこそ、未だにジェンダー格差が消えない。

*1 Facts and figures: Ending violence against women

*2 Goal 5: Gender Equality
2015年9月、国連本部で「持続可能な開発サミット」が開催された際、持続可能な開発のための2030アジェンダが採択され、17の目標が立てられた。「5. ジェンダー平等の実現」は、男女の性別に基づいて許容されたり期待されたりする役割やありかた、社会的属性、相互関係の平等を指す。

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Gordon JohnsonによるPixabayからの画像 

書籍『世界を変えた100人の女の子の物語』が誕生するまでの経緯

2016年、そんな風潮に一石を投じる本が米国で出版された。2018年に日本語版『世界を変えた100人の女の子の物語(原題:Good Night Stories for Rebel Girls)』(芹澤恵、高里ひろ訳、河出書房新社)が出版された他、世界70カ国47言語に翻訳され、販売部数200万部以上と売れに売れている。

 

芸術家や科学者、ダンサー、料理人、宇宙飛行士、ジャズ歌手、ボクシング選手、作家、政治指導者……幅広いジャンルで偉業を成し遂げた古今東西100人の女性の物語がおさめられている。

一部ながら例を挙げると、女子教育の大切さを訴える人権運動家マララ・ユスフザイ、『ハリーポッター』の著者J.K.ローリング、メキシコの画家フリーダ・カーロ、芸術家のオノ・ヨーコ、ファッションデザイナーのココ・シャネル…等など。ジェンダー問題に対する社会の意識を高めただけでなく、女性ロールモデルをたたえるムーブメントを作り出した。100人の女性たちの似顔絵は、さまざまな国の女性アーティスト60名によるものだ。

著者のエレナ・ファヴィッリとフランチェスカ・カヴァッロはともにイタリア人。技術革新と起業の中心地、米シリコンバレーで出会った二人は、2011年に「500 Startups」という世界最大のシードアクセラレーター*3プログラムに参加した。「この権威あるプログラムに参加したのは私たちがイタリア人で初めてでした。おかげで、自分たちの会社 Timbuktu Labsを創業し、子ども向けiPad マガジン『Timbuktu』を創刊できました」とファヴィッリが説明してくれた。

*3 起業家や創業直後のスタートアップ企業に出資し、事業成長を支援する組織。

とはいえ、最初から何もかも順調だったわけではない。2014年にロサンゼルスに拠点を移した二人は、多くの時間を『Timbuktu』の開発に費やすかたわら、ファヴィッリはコンサルタントの仕事を、カヴァッロも物書きの仕事をして、ワンベッドルームのアパートの家賃を捻出していた。「毎週ニュースレターを発行して、今回の本に収録されることとなる物語をテスト発表したりもしてました」とファヴィッリ。

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写真:Bryan Dale
フランチェスカ・カヴァッロ(左)とエレナ・ファヴィッリ 

そもそも二人が「ジェンダー差別」をテーマにしようと思うきっかけは何だったのか。
「メディアが描く“女性像”はかなり狭い意味に限定されています。女性たちはもっといろんなかたちで自分らしさを表現していいのだということを示していかなくては」そう考えた二人は、白馬の王子様との結婚ばかりを夢見る “お姫様物語” に応戦することにしたのだ。

「女の子たちにとって、同じ女性のロールモデルがいるというのとても大切なこと」とファヴィッリは言う。「お手本にしたい人がいれば、自信を持ってもっと高みを目指したいと思えるもの。30代前半の起業家マインドを持つ私たちですが、シリコンバレーですら、女性が成功すること、真剣に向き合ってもらうこと、チャンスをもらうことの難しさを肌身で感じてきましたから」

女の子は小学校に入る頃にはすでに男の子より自尊心が低いことも研究*4 で明らかになっている、とカヴァッロが言う。「だからこそ、幼いときに触れる物語を変えていくべきなのです。でもそう思う親御さんがいても、実際に使える本はあまりなく、子ども向け媒体にも強くたくましい女性はあまり登場しません。そこで、この本をかたちにしようと思いました」

*4 Children’s self-esteem already established by age 5, new study finds

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Quinn KampschroerによるPixabayからの画像 

クラウドファンディング史上初の記録を打ち立てた児童書

しかし大手出版社に企画を持ち込んでも、“オトナの都合” で内容に手を加えられてしまうかも、利益を吸い上げられるかもと危惧した二人は、クラウドファンディング(Kickstarter)で出版資金を確保することにした。するとたちまち、「クラウドファンディング史上最も多くの支援を集めた児童書」という記録を打ち立てた*5 。

「クラウドファンディングはすばらしい方法でした。いただいた数多くの支援に、ただただ圧倒されました。私たち二人だけの闘いではなく、支援者たちがたくさん応援してくれ、共に歩んでいけるのです」


*5 当初の目標額は$40,000(約430万円)だったが、結果、1万3454人から$675,000(約7300万円)の支援金が集まった。

https://www.kickstarter.com/projects/timbuktu/good-night-stories-for-rebel-girls-100-tales-to-dr

出版界を揺るがす “革命” を起こしたとメディアから称賛を浴びた二人だが、当の本人たちは、これまでにないことをやっただけ、これからも草分け的存在でありたいですねと落ち着いたものだ。

「これからも業界に新風を吹き込んでいきたいです。斬新なアプローチを続けることで、子どもたちに語り聞かせる物語を変えていければと思います」

「私たちは世界中の女の子たちが兼ね備えているエネルギーをもっと発揮してもらいたいと思っています。そんな彼女たちがいたからこそ、本をかたちにすることができました」とファヴィッリは振り返る。

「女の子たちが自分を見つめ直せるような物語を語るため、コミュニティ主導のものづくりをやってみたいと思っていました。大きな夢を持つ女の子はすてきなビジョンを描ける女性になれる、それこそが世界を変える最強のエネルギーになる。私たちはそう信じています」

女の子たちからのニーズに応えるべく シリーズ2冊目を刊行

2018年12月には、2冊目となる『I Am a Rebel Girl(未邦訳)』が出版された*。読者が書き込めるようになっていて、女の子たちの“反骨精神” を刺激し、自分にもこんなことができるのかもと“可能性” を前向きに受け入れ、社会に変化をもたらすことのできる人間になるお手伝いをしてくれる本だ。

*2冊目もクラウドファンディングを利用。今回は「最速」で目標額を達成した児童書の記録を打ち出した。

「女の子たちがうらやましがる女性たちの魅力とは何なのかを突き詰め、自分の内面をより深く理解できるようにすること。この本でやりたかったのは、そういうことです」とカヴァッロが言う。

「機会をいただければ、これからも出版を続けていくつもりです。読者からいただく感想を読んでいると、こうした物語が語られなければならなかったこと、女の子たちにはリアルな“英雄” が必要なんだということを実感させられますから」

「私たちがつくるものも、社会の需要に応じて進化していくと思います。次作は何でしょう…いろんな世代で楽しめる画期的な本でしょうかね」と最後にカヴァッロが言った。

By Maja Ravanska
Translated from Macedonian by Tatijana Kostovska
Courtesy of Lice v Lice / INSP.ngo
サムネイル画像:StockSnapによるPixabayからの画像 

Good Night Stories for Rebel Girls

Rebel Girls
https://www.rebelgirls.co

Instagram
https://www.instagram.com/rebelgirls/

世界を変えた100人の女の子の物語

『ビッグイシュー日本版』女の子のサポート関連特集

THE BIG ISSUE JAPAN299号
特集:ガールズサポートのいま

https://www.bigissue.jp/backnumber/299/

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