「レインボーウェーブ」LGBTQの候補者が多数出馬・勝利した2020年米議会選挙

2020年の米議会選挙には、過去最多のLGBTQの候補者が出馬、その数は少なくとも1,006人と見られている。LGBTQ候補者の支援団体「LGBTQヴィクトリー・ファンド(LGBTQ Victory Fund)」によると、2018年の中間選挙より41%増だった。

米国人口に占めるレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアの割合は5%と推定されているが、政界のすべての役職にLGBTQの人々が占める割合はわずか0.17%にとどまっている。

トランスジェンダー議員の存在感を増すことは、この4年間激しい攻撃にさらされてきたLGBTQの権利を守るうえで力になるだろう。2016年にトランプ政権が発足して以来、トランスジェンダー学生の権利剥奪、LGBTQへの医療保護制度撤廃、ホームレスシェルターからのトランスジェンダーの排除が推進されてきた。

同性婚の権利も脅かされている。2020年10月上旬、米最高裁のクラレンス・トーマス判事とサミュエル・アリート判事が、2015年の「オーバーグフェル対ホッジス裁判」で認められた同性婚の合法化を再検討すべきとの意向を示したのだ。

手短に言えば、2020年の米議会選挙は明示的にも暗黙的にも、LGBTQの候補者と彼ら彼女らの権利の命運が懸かった闘いだったといえる。この記事執筆時点で結果が出ていない選挙戦もあるが、LGBTQと政治の関係を研究してきた立場から、以下の4つの選挙を取り上げたい。

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LGBTQを公表する候補者が多数立候補した2020年の米議会選挙
Marc Bruxelle / EyeEm

デラウェア州

11月3日火曜日、民主党から出馬したサラ・マクブライドがデラウェア州議会の上院議員に当選し、歴史的な偉業を成し遂げた。トランスジェンダーとして米国で最も地位の高い政治家に、そしてデラウェア州議会で初のトランスジェンダーを公表した上院議員が誕生することになったのだ。マクブライドは共和党のスティーブ・ワシントン議員を破っての勝利だった。

これまでで最も地位の高いトランスジェンダー議員は、2017年にバージニア州議会の下院議員に選出された民主党のダニカ・ロームだった。ロームは2019年にも再選されている。

この他にも、バーモント州のテイラー・スモール、カンザス州のステファニー・バイヤーズなど、トランスジェンダーの女性たちが州議会議員に選出されるなど、大きな勝利を勝ち取った。

ハワイ州・サウスダコタ州

今回の選挙戦序盤で、LGBTQを公表している立候補者が一人も出馬していなかったのは、ハワイ州、サウスダコタ州、ミシシッピ州の3州のみだった。2020年になって、ハワイ州とサウスダコタ州からはLGBTQの候補者が現れ、状況を変えた。

結果、サウスダコタ州で出馬した民主党のジャレッド・ニューエンハイスは、下院の25選挙区で破れ、同州初のLGBTQ公表議員の座を逃した。

ハワイ州では民主党のエイドリアン・タムが立候補。8月に行われた予備選挙で、14年間議員を務めた共和党のニコラス・オクスを破り、同州で唯一のLGBTQ議員となった。

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ハワイ州初のLGBTQ公表議員となった民主党のエイドリアン・タム
Facebook

ジョージア州

ジョージア州の上院選のうち、1議席は選挙当日の夜時点では決着がついていない。もう1議席をめぐっては通常とは異なる「ジャングル・プライマリー方式」が採用され、現職の共和党議員ケリー・レフラーとさまざまな党からの立候補者20名が議席を争うこととなり、LGBTQの権利擁護者らの関心を集めている。

レフラーは新人議員だ。2019年末に長年上院議員を務めた共和党のジョニー・アイザクソンが辞職することとなり、その後任としてブライアン・ケンプ知事に任命されたのだ。ジャングル・プライマリー方式では、レフラーも民主党の対立候補ラファエル・ワーノックも50%以上の得票率が得られなかったため、2021年1月5日に決選投票が行われることとなっている。

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ジョージア州の現職上院議員、共和党のケリー・レフラー
Lynsey Weatherspoon/Getty Images

この決選投票をLGBTQ界隈では重要視している。というのも、レフラー議員はトランスジェンダーの女子生徒の学校スポーツ活動を禁止する法案を推進しているため。

レフラー議員によるこの法案は、アイダホ州で制定されたばかりの、優れた女性アスリートに対して、生殖器検査、DNA鑑定、テストステロン値検査によって「性別の証明」を求める法律「女性のスポーツにおける公正法(Fairness in Women’s Sports Act)」とよく似ている。LGBTQの権利団体が危惧するのは、この法案が通過すれば、今後、トランスジェンダーと見られる学生スポーツ選手への生殖器検査が国内各地の教育機関で実施されるようになるのではないかという点だ。

一方、対抗馬のワーノックは、歴史あるエベニーザー・バプテスト教会で牧師を務めてきた人物で、LGBTQの権利保護について声明を発表し、レフラー議員の法案にも苦言を呈している。LGBTQ専門ウェブメディア「プロジェクトQ」のインタビューでも、「すべての人が自由でなければ誰一人自由ではない」と述べている。

さらに同じインタビューの中で「平等法(Equality Act)」の支持も表明し、LGBTQへの無差別保護を連邦法に加える法律を提案した。

歴史的勝利と今後の変化

米国のLGBTQの大半は民主党支持者だ。2008年の大統領選でバラク・オバマの対立候補だった共和党のジョン・マケイン議員は、LGBTQの票の27%しか獲得できなかった。(オバマが再選した)2012年の大統領選では、共和党のミット・ロムニー議員の得票率はLGBTQの22%、2016年の大統領選では、LGBTQの全国出口調査によると、ドナルド・トランプの得票率は14%ほどだった。

LGBTQを公表した最初の政治家はサンフランシスコ市会議員を務めたハーヴェイ・ミルク(任期1977-78年)とされがちだが、真の草分けとなったのは、1974年に21歳でミシガン州アナーバーの市会議員となったキャシー・コザチェンコだ。

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米国で初めてレズビアンを公表した市会議員となったキャシー・コザチェンコ
Human Rights Party records / Bentley Historical Library, University of Michigan

それから50年近くの月日が流れた今、LGBTQの候補者たちが政界で歴史的な躍進を遂げている。2017年時点では、LGBTQを公表している議員の数は米国全体で450名を下回っていた。それが2018年の中間選挙では、連邦・州・自治体を含めて150名を超えるLGBTQの候補者が勝利を果たした。そして2019年に「レインボー・ウェーブ」が起き、LGBTQを公表している議員の総数は700名に届く勢いだ。

社会的にも、LGBTQの存在を受け入れる風潮が強まっている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校法科大学院の研究機関「ウィリアムズ・インスティテュート」の調査によると、米国民の70%以上が “トランスジェンダーは差別行為から守られるべき”と回答し、同性婚を支持する人も同じ割合だった。多くのLGBTQ候補者が選挙に出馬し、勝利を収めているのは、こうしたことが背景にあるともいえよう。

※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2020年11月4日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。








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