気候や環境を守らねばとのプレッシャーが高まるなか、「グリーンジョブ」の需要が高まっている。しかし、世界的にはスキル不足が懸念されている。
石炭・石油・ガス産業の労働者たちによる再生可能エネルギーの学び直しに注目が集まる一方、リサイクルファッション、炭素会計*3、都市園芸(アーバンガーデニング)、電気バスの整備士といった、新たなグリーンジョブも多数生まれつつあると労働問題の専門家は指摘する。その背景には、若い世代がよりサステナブルな職業を志向していることがある。
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*1 環境に配慮した経済活動への投資。
*2 環境に負荷がかかるリスクが(ほとんど)ないエネルギー。
*3事業における二酸化炭素の排出や削減を算定する取り組み。
エネルギー分野の雇用に関しては、さまざまな見通しがある。RMIは、今後10年でクリーンエネルギー分野で平均2500万の雇用が生まれると予測している。国際労働機関(ILO)と国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の年次報告書では、再生可能エネルギー分野だけで1270万の雇用が生まれ(2021年時点)、その3分の1が太陽光発電分野だと述べられている。
しかし、太陽光発電や風力発電の拠点は大抵、従来の化石燃料の採掘地や発電所から遠く離れていることもあって、「クリーンエネルギー分野で雇用が増加することに懐疑的な人も多い」とRMIの報告書は指摘している。ペスタも、「今後、世界的に1200万の雇用が創出されると言われても、ウェストバージニア州の炭鉱労働者やナイジェリアの石油労働者にはピンとこないでしょう。それよりも、自分の会社や生活にどう影響するかが気になるものです」と話す。
労働者のスキル転換の取り組み
これまで化石燃料や天然資源の過剰消費など、環境汚染に(直接間接を問わず)関与してきた労働者のスキル転換の取り組みは、すでに始まっている。サンフランシスコでは、新しい建築物への規制が見直され、ガス工事業者が廃水を再利用する配管を設置できるようにし、温室効果ガスの排出削減と水不足対策を促すねらいだ。オーストラリアの鉄鉱石生産大手フォーテスキュー・メタルズ・グループでは、2030年までに化石燃料の使用をなくすべく、運搬用トラックを自動運転車に変えるなどして採掘作業のデジタル化を進め、グリーンエネルギーの生産に向けた従業員の再教育を計画している。欧州連合(EU)も、「公正な移行のための基金(Just Transition Fund)」として192億ユーロ(約2兆9500億円)を計上し、エストニアからスペインにおよぶ域内の化石燃料依存地域に対し、環境関連ビジネス(クリーンテクノロジー、自然保護、建物の改修など)で新たな雇用を生み出していこうとしている。
まず目を向けるべきは「グリーンスキル」
低炭素社会へのスムーズな移行を実現するには、農業から輸送まであらゆる分野の変革を実現する新たなスキルに目を向けていくべき、とアナリストたちは提言する。
ビジネス特化型の交流サイトLinkedIn(リンクトイン)の「グローバル・グリーンスキル報告書2022」には、「現状では、グリーンな移行を実現するためのスキル、人材、雇用の十分な状態からはほど遠い」との「厳しい事実」を指摘している。2021年の世界の雇用数のうち、「完全なグリーンジョブ」とみなされるものはわずか1%で、ある程度のグリーンスキルを必要とする「グリーン化ジョブ(greening job)」は9%とされ、「すべての仕事が完全なグリーンジョブである必要はない。ソーラーパネルを作る仕事だけでなく、サステナブルな服飾メーカー、車両管理者、販売管理者なども“グリーンな仕事”とみなされるべき」と述べている。
企業や慈善団体に持続可能性に関するトレーニングを提供するエイムハイ・アース(AimHi Earth)社を設立した科学者のマシュー・シュリブマンは、グリーンスキルについての理解や定義の不十分さを指摘する。「ビジネスリーダーや政治家からは強い要望がある一方で、それが具体的にどういうものなのかを誰も分かっていないという奇妙な矛盾が起きています」と語る。
一般的には、CO2排出量の測定、太陽光発電機器の設置、建物の断熱改修などに求められる“ハードスキル”がイメージされるが、もっと視野を広げるべきだと。シュリブマンは、システム思考、危機管理、ストーリーテリング、思いやり、自然とのつながりといった、より幅広いソフトスキルの重要性を主張し、今後はそれらを含めたグリーンスキルの需要が急激に増加するとみている。「現段階で重要なのは、グリーンジョブの適切な定義です。この数十年、私たちは温室効果ガスの排出量にばかり注目してきたきらいがあります。この先、正しい方向に進むには、自然システム全体を視野に入れて考えるべきです」
低炭素社会への移行を阻む「グリーン人材ギャップ」
また、シュリブマンは教育機関に対し、“機械的”で “タスクの繰り返し”を求める従来の教育アプローチから脱却し、分断を解消し、幅広い関係性を築けるイノベーターや問題解決型の人間を育成し、自然環境や気候危機にあたらせるべきと呼びかける。
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タフツ大学フレッチャースクールの学長で、世界銀行の気候変動特使や国連のエネルギーアドバイザーも務めたレイチェル・カイトも、気候変動に関する学科の増設や、サステナビリティの資格や学部の設立だけでは不十分と指摘する。「気候問題への認識は、これからの社会で生きていくうえでの条件であると教える教育機関が増えつつあります」。医学や公衆衛生の学部では、異常気象などの気候問題は、その後の職業生活で自らが直面する課題と認識させる教育を始めているが、ビジネス系の学部はまだ出遅れているという。
カイトはまた、低炭素社会への移行を阻んでいるのは、資金の問題よりもグリーンスキル不足にあり、政府と民間部門の間で、労働者の能力開発について生産的な対話が足りていないと指摘する。LinkedInの先述のレポートによると、グリーンスキルを必要とする求人数は、過去5年で毎年8%増加しているが、実際のグリーン人材は毎年約6%増にとどまっている。「ウェストバージニア州の5万人の炭鉱労働者の話に終始し、数百万人の若者にどのような訓練を提供していくべきかという議論が十分になされておらず」、それがグリーン人材の獲得競争を煽っていると。
サプライチェーン全体を持続可能にするために
いま競争が激化している職業に、「サステナビリティの専門家」がある。LinkedInの報告書にも、風力タービン技術者、太陽光発電コンサルタント、環境保護活動家を抑えて、「サステナビリティ・マネージャー」が2016年から2021年にかけて最も急成長したグリーンジョブとして挙げられている。
企業とグローバルサプライチェーンの環境・倫理に関する評価を手がけるパリ拠点のエコバディス(EcoVadis)社でも、約1500人の従業員の3分の1近くが、二酸化炭素排出量から児童労働までをカバーする「サステナビリティ・アナリスト」として働いている。創業まもない頃に加わり、現在は上級副部長を務めるニコル・シャーウィンは、気候変動や人権問題に取り組む企業で働きたい若者が増えていると話す。「若い人たちは環境問題への意識が高く、企業がアクションを起こしているかどうかを重視しています」。また、経営者や幹部の間でも、環境負荷の少ない倫理的な資材を調達すべきとの認識が高まっているため、小売企業も社内にサステナビリティの専門家を採用する必要性が出てきているという。
グローバル経済の成長を維持しつつ、環境負荷を下げ、より公正な世の中を実現するには、仕事に対する新しい考え方が必要になる、とペスタは言う。「どんな仕事にも、やり方次第で今よりずっとグリーン化できます。資源の再利用、再生可能エネルギーの活用、環境汚染の修復など、いろんなかたちでグリーンな要素を足していけるはずです」
グローバル・グリーンスキル報告書の最新版
LinkedinGlobal Green Skills Report 2023
https://economicgraph.linkedin.com/research/global-green-skills-report
By Megan Rowling
This article first appeared on Context, powered by the Thomson Reuters Foundation. Courtesy of the International Network of Street Papers.
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