「ナノプラスチック」問題–マイクロプラスチックより小さく、飲料水にも混入?

「マイクロプラスチック」の問題は義務教育でも取り上げられるなど、ずいぶんと社会に浸透してきた。そして昨今は、マイクロプラスチックよりもさらに小さく、あらゆる場所に行き渡りやすい「ナノプラスチック」問題に注目が集まりつつある。その小ささから生体の細胞や組織にも浸透しやすいため、より深刻な影響をもたらすと見られる。ウィスコンシン大学マディソン校土木環境工学准教授モハン・チンが『The Conversation』に寄稿した記事(2024年5月)を紹介する。


マイクロプラスチックが直径5ミリメートル以下のものをいうのに対し、ナノプラスチックは直径1~1000ナノメートルのものをいい、肉眼では見えない(ちなみに、人間の髪の毛の平均的な太さはおよそ8万~10万ナノメートルだ)。しかし近年の技術進歩により、ナノプラスチックの検出・分析がしやすくなっていることで注目が集まっている。

マイクロプラスチックは、高いところではエベレスト、低いところでは深海でも発見されていることはよく知られているが、ナノプラスチックはさらに広い範囲に行き渡っているとのエビデンスが増えつつある。この2年間でも、ヒトの血液、肝臓や肺の細胞、生殖組織(胎盤、精巣など)、さらには世界各地の大気、海水、雪、土壌から発見されたとの研究が発表されている*1。

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c1a1p1c1o1m1/iStockphoto

*1 参照:Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular EventsMetabolomics Reveal Nanoplastic-Induced Mitochondrial Damage in Human Liver and Lung CellsAdvances in Ultra-Trace Analytical Capability for Micro/Nanoplastics and Water-Soluble Polymers in the Environment: Fresh Falling Urban Snow など。

さまざまな日用品から検出されているナノプラスチック

ナノプラスチックは、日用品(衣類、食品や飲料の包装・容器、家具、ビニール袋、玩具、トイレタリー製品、シャンプー、スキンケア製品など)が長時間太陽光にさらされたり、機械的作用による磨耗などで劣化することで生成される。私たちの日常生活で広く使われているさまざまな種類のポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどの重合体)からも発生すると考えられ、ナノプラスチック自体の発生をなくすことは難しい。

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Photo courtesy of Naja Bertolt Jensen on Unsplash

プラスチックがナノレベルまで小さくなると、表面の組成や特性が変化し、特有の現象や問題が生じる。その小ささから細胞や組織にも浸透しやすく、生物の体内に蓄積すれば悪影響を引き起こすおそれがある。ナノプラスチックはさらに小さな粒子やポリマー(高分子化合物)に分解されるのかどうかについての研究も進行中である。

1リットルの飲料水に10万個以上のプラスチック粒子を検出

非常に小さく、化学組成や構造も多様なナノプラスチックを発見するのは難易度が高い。研究者たちは、ラマン分光法、クロマトグラフィー、質量分析法といった、ナノプラスチック粒子の形状を確認し、特性を分析できる技術向上に取り組んでいる。

2024年になって、米国コロンビア大学の研究者たちが、ボトルに入った水の中に含まれるナノプラスチックを高い感度と特異性で検出し、その数をカウントできる新技術を発表した。従来は検出できるナノプラスチック粒子の量に限界があったが、この新しい手法では、1リットルの飲料水に10万個以上のプラスチック粒子を検出し、そのほとんどがナノプラスチックだった。すべてのボトル入り飲料水にナノプラスチックが含まれているかどうかを結論づけるのは早計だが、この技術がさらなる研究の扉を開いたのは間違いない。

有害性、分解プロセスについての研究は日進月歩

ナノプラスチックの有害性についての研究も進められている。すでに、生態系や人間の健康に重大な危険性をもたらしうると示唆する研究や、心臓病の危険因子となる可能性を示唆する研究も出ているが、どのような脅威をもたらすのかの見極めには、さらなる研究や情報が必要である。

また、化学汚染物質や重金属、病原菌がナノプラスチックに付着して濃縮されると、生物が高濃度の有害物質にさらされるおそれもある。「量が毒をつくる」とは毒物の研究者がよく使う言い回しだ。つまり、重要なのはどのくらいの量にさらされるかであって、実際の濃度がわからない現段階では有害性を評価することは難しい。さまざまな環境下でのナノプラスチック検出・分析結果をもって、人間や地球に与える影響を緩和する対策を編み出していく必要がある。

By Mohan Qin
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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