連載開始以来、多くの反響と書籍化のご要望をいだたいた東田直樹さんのコラム「自閉症の僕が生きていく風景」が、ついに書籍化します。
ビッグイシュー単行本第3弾『風になる―自閉症の僕が生きていく風景』の出版を記念して行った記者会見のようすをお届けします。
12月1日、東京・赤坂にあるスワンカフェ&ベーカリー赤坂店で、出版記念記者会見を行いました。
昼過ぎまで雨もようだった空も、会見が始まるころにはすっきりと晴れ、青空から柔らかな光がさし始めました。ガラス張りの明るい店内には淹れたてのコーヒーの香りが満ち、温かな雰囲気の中で会見が始まりました。
著者の東田直樹さんは重度の自閉症のため、頭にうかんだことばを覚えていることが難しく、通常の会話ができないそうです。そこで、手作りの紙の文字盤を指差しながら、一音、一音、発し、一かたまりのことばとして発語します。
「今日は、僕のついに出ることになった本の記者会見の会場に来てくださり、ありがとうございます。この本を書いたのは、自閉症の人たちは特別な存在ではなく、みんなと同じように悩み、苦しみ、そして喜んでいたり、楽しんでいたりしていることをわかってもらいたかったのです。自閉症の説明をしていると思われるかもしれませんが、どちらかというと、僕の価値観を表現したものです。どうか多くの方に読んでもらいたいです。どうぞよろしくお願いします。おわり」
筆談を経てたどり着いたこの独自の発語方法で、ゆっくりと発語する直樹さんのご挨拶で、会見は始まりました。
文字盤を使って発語する直樹さんと
隣でサポートする美紀さん
夕焼けがあるからこそ今日の日に終わりがある。
聞いてほしいと思うような一日に感謝ができる。
直樹さんからのご挨拶の後、会場からは次々と質問の手があがりました。
―文字盤を指しながらことばを発するのに、訓練が必要だったのではありませんか?
「僕は、話そうとすると頭の中がまっしろになってしまうのです。そのために、自分のことばを思い出すという訓練が一番大変でした。おわり」
―ビッグイシューで連載を始めてから、心境の変化はありましたか?
「自分のことは、自閉症という障害を知っている人にだけ理解してもらえるものだと思っていましたが、いっぱいの反響をいただいて、誰にも伝わる内容であるとあらためてわかりました。おわり」
―演出家・宮本亜門さんとの対談(ビッグイシュー190号)はどうでしたか?
「対談は初めてでしたが、とても楽しかったです。1人の人と時間をかけて話すことで、僕自身も新しい自分を知ることにもなりました。」
―「夕焼けのオレンジは命の色」(単行本収録のコラム)について。今も東田さんにとって命の色はオレンジ色なのですか?
「僕の命のイメージは、今でも夕焼けのオレンジです。なぜなら、夕焼けがあるからこそ、今日の日におわりがあることを知り、聞いてほしいと思うような一日に感謝ができると思います。だから、夕焼けは命のいろんなものを宿しています。おわり」
―これから先は何をしたいですか?
「作家として、もっとたくさんの文章を書きたいことと、どんな人にも内面というものがあり、それぞれが大事な人間であることをわかってもらいたいです。」
―ビッグイシューを販売するのは路上生活者ですね。路上生活者も、直樹さんのように障害を持つ人も、またその他にもいわれのない差別や偏見をうける方は多くいらっしゃると思います。差別や偏見をなくすためにどのような社会になったらよいと思われますか?
「僕は差別や偏見は誰もがもっているものだと思います。それは人間が集団で生活しているからです。そうして強い者がリーダーとなり、社会がなりたつのでしょう。
できることは、無理に差別をなくしてしまおうと思うより、みんなが今より少しだけ優しくなることを目指すことの方が現実的だと思います。おわり」
質問が相次ぎ、60分を予定していた会見は、5分の休憩をはさみ90分に及びました。
会見の終盤、発語の途中で「つかれるー」ということばがもれ、会場の雰囲気がより和やかになる場面もありました。長時間の会見は、初めてのことが苦手な直樹さんにとっては心身ともに大変な体験であったことでしょう。
直樹さんからのご挨拶で会見は締めくくられました。
「僕はビッグイシューに連載させていただいてよかったと思っています。なぜなら、こうして多くの人に僕のことを知ってもらえたからです。今日の会見はうまく話せないところもありましたが、僕は初めてのことが苦手なのです。今日、来てくださって本当にありがとうございました。どうぞ、これからもよろしくお願いします。おわり」
手作りの文字盤。
直樹さんは、一文字ずつ指してことばを思い出しながら発語します。
「わかっているのだけれど、思い出せない人の名前を思い出す感じ」に近いのだと美紀さんは話してくださいました。
誰もが豊かな内面を持ち合わせている
直樹さんの発語には、不意に途切れる瞬間がたびたびおとずれます。
質問の途中、席を立ち、外を走る車をガラス張りの窓から眺めたあとにすっと席に戻ったり、美紀さんの腕時計を確認したり(美紀さんは直樹さんが落ち着くよう「終わったら」「3時」と応えます)、また、「おかあさーん」「タクシー」「福岡空港」「柿がふたつ」など、それまでの発語や質問の内容とは直接関係のないことば、1フレーズくらいの歌や英文を口にすることもあります。
直樹さんのことを何も知らない人がいあわせたら、びっくりするかもしれません。
直樹さんの質疑応答のあと、美紀さんから次のようなことばがありました。
「重度の自閉症の直樹は言動のコントロールがうまくいきません。自分の意思とは関係なく動いてしまうことがあります。好きでやっているわけではなくて、つい気をひかれてしまう。今も、直樹は車が見たくて席を立っているのではなくて、会見をちゃんとやりたいという気持ちはあるのです。しかし、コントロールがうまくいかないために、他人から見たら変わった行動に見え、“どうして今あんなことを?”という見方をされてしまうのが、一番の直樹の困難だと思います。
これまで、重度の自閉症で内面を表出できる方がそれほどいらっしゃらなかったということもあり、“そういう人は知能が低くて、わかっていないから、周囲には理解できないような行動をしてしまうのだろう”と考えられてきたと思います。けれど、私たちでも話すのがすごく上手な方も、口下手な方もいらっしゃるように、それぞれに豊かな内面があってもそれを外に出せないだけ、という人が世の中にはいらっしゃるのではないかなと思います。直樹だけが特別なのではなくて、障害が同じならば他の人にもそういう内面があるのではないのかと考えています。」
完成した本を手にする直樹さんと美紀さん
直樹さんの口から一音、一音、発せられることばは、簡潔でありながら、「人はなぜ生きるのか」という大きな問いへの答えを一人ひとりが考える手がかりに満ちていました。自分のことも、他の人のことも、「生きている」というただそれだけで賞賛したくなるような記者会見でした。
『風になる―自閉症の僕が生きていく風景』は、連載コラムを加筆・再構成し、宮本亜門さんとの対談(ビッグイシュー190号)も収録しています。何度も読み返し、ゆっくりと長く読み続けていただけるような本になりました。大切な人へのプレゼントにもおすすめの一冊です。
発売から約1ヶ月間はビッグシュー販売者による独占先行販売となります。ぜひお近くのビッグイシュー販売者からお求めください。
ビッグイシュー単行本第3弾『風になる―自閉症の僕が生きていく風景』(東田直樹著)
(ビッグイシュー日本 東京事務所 販売サポート 長崎友絵)
BIG ISSUEから東田直樹さんの本が2冊出ています。
社会の中で居場所をつくる 自閉症の僕が生きていく風景(対話編・往復書簡)
東田直樹・山登敬之 著
作家であり重度の自閉症者の東田直樹さんと、精神科医・山登敬之さんの立場をこえた率直な往復書簡。「記憶」「自閉症者の秘めた理性」「純粋さ」「嘘」「自己愛」「自分らしさ」など、根源的な問いが交わされる。
2015 年12 月発売
定価1600 円(税込)
B5判変型
(800 円が販売者の収入になります)
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風になる 自閉症の僕が生きていく風景(増補版)
東田直樹 著
発話できない著者が文字盤で思いを伝えられるようになるまでの日常や、ありのままの自分を率直に語る。連載エッセイ74 編、宮本亜門さんとの対談も収録の増補版。路上で一万冊突破。
2015 年9月発売
定価1600 円(税込)
四六判
(800 円が販売者の収入になります)
2016/10/14よりクレジット決済が可能になりました。
<ご購入方法>
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