(2007年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第78号より)




企業、NPO、市民がつくった「東京ホームレス会議」--人あふれる、排除された人々の声を聞く場



ビッグイシュー主催、NEC協賛でNEC・NPOサロンが、7月25日、NEC本社ビルで開催された。100名をこえる参加者が熱心に静かに耳を傾けた「東京ホームレス会議」とは?





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企業戦士にも起こりうるホームレス化



「今はビッグイシューのおかげでデパ地下の最高のお弁当が食べられるんです。夜の9時とかになると、お弁当におまけのお惣菜がつくのが楽しみでねぇ。マンガ喫茶に泊まったりして、シャワーも100円で浴びられるし、最高の環境ですよ」

渋谷駅東口の販売者、小倉正行さんの言葉に、思わず会場からはドッと笑いがわきおこる。小倉さんのそのしみじみとした語り口に誰もが思い浮かべただろう、シャワーで一日の疲れを癒す小倉さんの立ち姿。マンガ喫茶、ネットカフェが最高の環境に思えてしまうほど、そのホームレス生活は長かったのだろうと気づかされる話だ。




ビッグイシュー主催、NECが協賛したNEC・NPOサロン「東京ホームレス会議」前半に行われた「本音トーク」の一場面では、こんな話が聞けた。ビッグイシューから3人の販売者が登場し、彼らに根ほり葉ほり、ホームレスの、そして販売者としての本音を聞いてみようと企画されたコーナーだ。




会場にやって来た100名をこえる参加者たちが熱心に耳を傾けるなか、3人は時にしんみり、時に笑いを誘ってそれぞれの話を続けていく。それでもホームレスになった当時のことが話題となると、小倉さんの明るい声がすこしだけ小さくなった。

「昔、母親と暮らしていて、日韓ワールドカップの年ですか、二人でしし座流星群を見た思い出があります。その母親が死んでしまいショックを受けて、もう生きているのがどうでもいいというふうになりました。友人の連帯保証人になっていたことで借金も背負い、恋人にも去られ、そういう人間関係の問題が続いてホームレスになったんです」




単に仕事と家を失うだけではなくて、孤独な状況に追い込まれてしまうことがホームレスとなる「第三の条件」。小倉さんの置かれた状況は、まさにそうした「第三の条件」に当てはまるものだった。

この話に共感を寄せたのが、NEC社会貢献室として会議を共催した東富彦さん。
「小倉さんの話で人とのつながりについて考えさせられましたね。母を亡くしたり、恋人が去ることのショックは一般の企業戦士にも言えることです。家庭とのつながりがなくて、運悪く会社がつぶれたら、誰にでも起こりうる話なんだと感じました」




公開されたホームレス販売者会議



「まだまだ聞きたりない!」という雰囲気は残ったまま、やがて時間が尽き、次のプログラム「販売者定例ミーティング」へとバトンタッチ。各地の売り場から販売者が続々と駆けつけてきて、総勢26名の円卓、それを囲む一般参加者からの大きな輪がたちまちのうちにでき上がった。

「東京ホームレス会議」は、日頃社会から排除されているホームレスの人たちの声を聞くために開かれた場所をつくろうとするもの。それならば、これまでに44回、月1回のペースで開かれてきたビッグイシュー販売者とスタッフによる定例会議も、今回は一般の人々に公開してみようと特別に企画されたのだ。




当日の会議のテーマは、「どうしたらビッグイシューをもっと広めることができるのか?」。それぞれが智恵と経験を出し合ってアイディアを練ってゆく。会場からも「こんな販売者さんから買いたくなる」と、雑誌購入者としての視点からビッグイシュー体験が披露された。

「販売者が雑誌と一緒にプレゼントしている折り紙をお守りにする読者もいるんです」「雨の日に雑誌をビニール袋へ入れてもらって、そういう小さな心づかいが嬉しかった」「ボソボソとしゃべる人がいるんだけど、あの人は笑顔がいいんだから、笑ったほうがいいよね」 

大学生の坂崎あゆみさんは、「私はやっぱり心を打たれる人から買いたい。ビッグイシューのポスターのシルエットのように、腕を伸ばして売っている人って単純に”カッコいい“んですよね」と発言。

これが神保町の販売者・吉田十三さんにとっては、心に響く、嬉しい一言だった。

「自分も声を出すタイプじゃないからね。手を掲げてるだけでも”カッコいい“と言われたのが嬉しかったよ」

かつて、こんなにも深く、温かく、多くの人々に支えられる雑誌が存在しただろうか?

ホームレス会議で再び原点に立ち返ったビッグイシューは、今号で4周年を迎え、更なる一歩を読者のみなさんと共に歩んでいくだろう。

(土田朋水)
Photo : 高松英昭