(2008年4月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 93号より)
大海勝子さんの春の「道草料理」入門
野草や山菜採りなどの自然遊びを始めて30年という、大海勝子さん。季節の光につつまれ風に吹かれて自然の中で「道草」を摘む喜びと楽しさを聞いた。そして、大海さん直伝の「道草料理」を紹介。
家のそばにあった。山にしかないと思い込んでいた野草
春は身近にある草木を最も意識しやすい季節ではないだろうか? 枯れ果てていた大地に草が芽吹き、花が咲き、木々が青々と茂っていく。その姿に春の訪れを知り、生命のエネルギーを感じる。それは都会でも同じ。ちょっと意識するだけで、私たちの身近にはたくさんの野草(道草)があることに気づく。
そんな身近にある道草を摘み、おいしく食べる方法を紹介しているのが、料理研究家の大海勝子さん。大海さんを訪ねると、桜のお茶で歓迎してくれた。
「おめでたい席で出される桜茶は塩漬けするんですけど、今回は砂糖漬けにしてみました」
ほのかな甘みと桜の香りが鼻腔に広がり、桜色の美しさに心が和らぐ。
大海さんは道草のほか、きのこの見分け方やハーブを使ったレシピ本を出版するなど、身近な植物のプロだ。今も毎週末、家の近所や郊外の山へ出かけては自然に親しむ生活を続けている。ところが昔はアウトドアが好きではなかったのだという。
「私は街っ子だったので、道草のことなどまったく知りませんでしたし、興味もありませんでした。でも夫が田舎育ちのアウトドア派で、休みといえば子どもを連れてテント担いで出かけていく。私はテントじゃなくて旅館に泊まってのんびりがよかったけど、お金もないし、子どもも小さいからしかたないかと……」
最初はしぶしぶついて行ったアウトドアだったが、大海さんは次第に自然にある野草やきのこ、ハーブ、木の実などに魅せられていく。
「自然の中には、なんて香りよく、おいしく、素晴らしいものがあるのか。知れば知るほどおもしろくなっていったんです。例えばよもぎなら、昔から知られているよもぎ餅から始め、今度はそれを雑炊に入れて、というふうに展開していきました。自分で探し出して摘んだという実感とともにいただく喜びは何ものにも換えがたいものなんですよ」
こうして植物に詳しくなっていった大海さんは、山にしかないと思い込んでいた野草が家のそばにもあることに気づく。大海さんが住んでいるのは、東京都東久留米市。市内には川が流れ、自然も多少残っているが郊外というほどでもない。都心から電車で20分ほどのごく普通の住宅街だ。
「東久留米に限らず、例えば、荒川とか、日比谷公園とか、至るところに道草はあります。遠くに行かなくても、自宅の近所で目を凝らしていればいいんですよ」
そこで早速、道草の見分け方とおいしい食べ方について、教えてもらうことにした。
入門編—のびる、つくし
まずは誰でも目にしたことがある道草から。野草料理と聞くと、おひたしやてんぷらが定番だと思っていた。おばあちゃんの知恵料理、さっぱりしていて身体にいいけどパンチにかけるといったイメージがあったのだが、大海さんは韓国料理やイタリアンなどにも道草を各国料理へ展開させている。
●のびる
これも公園の片隅など、どこにもある道草の一つ。上に向かって細く伸びている(名前どおり!)ので見つけやすい。
「ねぎやあさつきの仲間と思ってもらえればいい。特に韓国では人気の野草で、ナムルやキムチ、チヂミ、卵焼きなどにして普通に食べられています」
【のびるのチヂミ】
〈材料〉のびるの葉、小麦粉、卵、水、塩少々、炒め油
㈰のびるは1.5センチの長さに切る。小麦粉、卵、水、塩少々で濃いめの天ぷら衣ぐらいの生地を作り、のびるを混ぜる。
㈪フライパンに油をしき、5〜6センチに丸く生地を流し、焦がさないように返しながら両面を焼く。好みでイカなどを入れても。
●つくし
つくしは昔からおひたしなどにして食べられていた定番道草の一つだろう。
「かすかな苦味と見た目のかわいさが特徴。味は淡白で、歯ざわりを楽しみます。定番パスタにさっとゆでたつくしを加えるだけでぐっと春っぽい味になります。パンケーキに入れるのもおすすめ」
春のおすすめ編—はるじおん、西洋からし菜
どこでも見かけるが、驚くほどおいしい道草。
●はるじおん
空き地や草むらなど、至るところで見かける、はるじおん。「ビンボー草」と呼んで嫌っている人も多いのでは?
「私もそうでした(笑)。まさかこれが食べられるのかと半信半疑でしたが、ゆでると春菊によく似た香りとほろ苦さが出て驚くほど美味しいんです。てんぷらにしてもいいけど、練りゴマやマヨネーズなどを使ってこっくりした味つけにするのがおすすめです」
【はるじおんのゴママヨネーズあえ】
〈材料〉はるじおんの花芽、スリゴマ、マヨネーズ
㈰はるじおんは開花していない蕾で、手でつめる柔らかな部分を使う。
㈪さっと湯がいて水にさらした後、すりゴマを入れたマヨネーズであえる。
※はるじおんは秋にも咲くが、春のもののほうが甘くておいしい。
<後編に続く>