前編を読む





IMAGE 429





Q: 成功への突破口になった作品は?

S: 僕にとって大切な作品の1つは、ハックニーにある工場の煙突を描いたものです。とても高い場所で、以前滞在していたホステルを見下ろす位置にあって、僕を守ってくれるような気がしたものです。今はもう消されてしまったけど、それでもいい。役目は果たしたからね。




Q: 多くの広告代理店がストリート・アーティストの知名度を利用しようとしていますが、ストリートアートを「飼いならす」ことはできるのでしょうか?

S: よくある話です。昨年ある広告代理店が、僕の作品を広告イメージに使った。僕の許可なしにね。僕は代理店に連絡して、(街に出ている)広告をすぐに回収することと、いくらかのお金をビッグイシュー基金に寄付するように要求した。代理店は合意し、それが今回のポスタープロジェクトの資金となった。




Q: ギャラリー業界はどうですか?ストリートアートの商品化を避けながらも、ギャラリーでの居場所をつくることは可能でしょうか。しばらくしてすぐ撤回されましたが、つい最近、バンクシーの絵が北ロンドンの壁から剥がされ、700,000ドルでマイアミのオークションにかけられました。

S: それについては何が起きたのかは知らないけれど、誰かがアートの「価値」とアートの「値段」を取り違えたんじゃないかな。ギャラリーには、芸術を紹介するという役割がある。動物園と少し似ているね。ただし今は、動物たちは逃げ出して、自由に走り回っている。オウムは街灯をねぐらにしているし、街を疾走するシマウマもいる。ストリートアートは野性であり常に進化している。アーティトになるには今はとても良い時代。アーティストが自分の作品を売買すること自体は当然のことだし、まだ良心的なギャラリーもたくさんある。けれど、ギャラリーは、現れては消えていくからね。アートは永遠に残る。




Q: 企業や公共機関が仕事を依頼してきた場合はどうしますか?

S: 注文ではないストリートアートの作品と同様に、公共機関から依頼された仕事もしている。いってみれば、私たちを取り巻く環境を変化させる権利を与えてもらった気持ちかな。でもたとえ作品を描く許可をもらっても、自分の作品がその場所に何か意味のあるものを加えると感じない限りは描かない。路上はひとつの「場所」だからね。




Q: 路上の「作品」に重ね描きされた落書きを消したりしているそうですが、ストリート・アーティストの間には不文律の倫理規範のようなものはあるのでしょうか?

S: 僕は常に自分の作品のメンテナンスをしている。時には、人物の目を描き変えて、違った方向を見ているようにしたりね。そうすることで、作品が生き返ります。ストリートアートは生きている芸術だ。その場所に長く存在するということは、ストリートアート・カルチャーにとって重要な要素であり、進化し続けることが、その存在を常に最新で生きたものにし続けるためには欠かせない。




Q: エルトン・ジョン、クリス・マーティン、タイニー・テンパーなど、多くの有名なミュージシャンがあなたの絵を所有しています。どんな気持ちですか?うれしい、恐ろしい、それとも奇妙な感じ?

S: 刺激を与えてくれたアーティストの人たちにお返しができるのは、本当に光栄なこと。昨年、ある音楽賞の授賞式で僕の作品のコピーを無料で配布したところ、とても嬉しいことに、僕にとってはヒーローのようなアーティスト達が僕の作品を気に入って持って帰ってくれた。有名人の名前を挙げて自慢したくはないけれど、すごい人達が僕の作品を持っている。自分の一部でもある作品を尊敬する人々に贈ることができるのは、素晴らしい気分だ。




Q: ストリートアートは、真の意味で国際的なムーブメントとなっていますが、外国のアーティストと連携したり、外国の場所の理解を得たりすることは困難なことでしょうか?

S: 僕は作品のおかげで世界を旅行することができた。ハックニーは好きだけど、6年間ほど外へ出なかったから、世界へ出て、新鮮な空気を吸えたのはとてもよかったね。ベルリンでは至る所にストリートアートがあった。そこでは「ベルリンの壁」に絵を描いて有名になったあのティエリー・ノワールと会う機会があり、彼がロンドンに来た時には、共同で大作を描いた。秋にはヨルダンで、ストリートアート展のキューレーターを務め、そこでは、多くの若いアーティストに会って刺激を受けた。ストリートアートは国際的で、かつ本当にオープンだ。完璧なフォーラムだと思う。より多くの人々が参加すればするほど、より美しく、より複雑になる。あらゆる意味で自由であり、人々を芸術でつなげることができるものなのです。





IMAGE 298





Q: すべてがまだ始まったばかりと感じていらっしゃる印象を受けます。自分の作品や人生についてそう思いますか?

S: まもなくニューヨークで大きな壁画に取り掛かる。春には、日本に1か月滞在して制作活動をする予定です。とてもエキサイティングで、2,3年前の自分の境遇からは百万マイルもかけ離れた気がするけれど、まだ夜が明けたわけではない。これまでにたくさんの人々が僕を助けてくれた。特に親しい芸術家の友人シェイラは、僕がホームレスだった時に出会ったけれど、医療を受けながら(ホームレスの人たちが住む)ホステルにいた時でさえ、対等に、同じプロフェッショナルとして認め、扱ってくれた。彼女は、たとえ最も困難な時でさえ、僕には人に与えるものがあるということを気づかせてくれた。

(ビッグイシューUK/2013年年3月11日~17日号掲載)




【The Big Issue UK×Stik コラボレーションプロジェクト】
ロンドンの路上でホームレスをしていた頃に出会った多くの友人を支えてきたビッグイシューを応援したいという長年の願いを実現するために、ストリート・アーティストのスティックが、限定印刷のポスターを寄付したプロジェクト。
ポスターは、青、赤、黄、オレンジの4色でランダムに雑誌に折り込まれています。
4色集めるために複数買う人や、Stikがサインしたポスターが混じっているをの捜し求める人がいたそうです。

*日本でも10周年記念の2013年9月15日号で同様のコラボレーションを実施。4色のオリジナルポスターのうち1色が折り込まれています。





(Photo by 横関一浩)