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それでもやっぱり冬は苦手という人、都心に住んでいるので近くに自然がないという人もいるだろう。そんな人におすすめなのが、屋内でも育てられる寄せ植え。柳生さんはさまざまな種類の植物を一緒に植えて楽しむ寄せ植えをこれまで多数提案してきた。
中でも簡単に育てられることで初心者にイチオシなのが、多肉植物の寄せ植えだ。多肉植物とは、砂漠や高山など水分がほとんどない場所でも生きられるよう、根や茎などに水分を蓄える性質を持ったサボテンのような植物のこと。多肉植物の寄せ植えは、さまざまな種類の多肉植物の葉を混ぜて土の上に撒くだけでいい。
「僕はこれを“多肉のふりかけ”と呼んでいます。何もせず放っておけば、自然に芽を出し根を張りどんどん育っていく。2〜3週間で根と芽が出始め、徐々に大きくなって、1〜2年後には多肉植物の雑木林ができあがりますよ。水は数週間に一度あげるだけ。これほど簡単なものはないでしょう(笑)。八ヶ岳は寒いので温室に置いていますが、霜が降りない地域なら外で育てても大丈夫ですよ」
無造作に撒いた多肉植物の葉から芽が出て、根がどんどん広がっていく。そのありさまはまさに雑木林のミニチュアといった感じ。
「ちゃんと花も咲きますし、紅葉もします。本物の雑木林では、たとえ側にあったとしても、根を見たり触ったりすることはできないでしょう。でも多肉植物ならそれができる。植物の営みを身近に感じることができるのは、まさに寄せ植えの魅力の一つですね」
柳生さんは、多肉植物以外にも、メダカが泳ぐ水辺の寄せ植えや鳥が好んで集まる実がなる寄せ植え、気軽に食べられる野菜を集めたミックスサラダガーデンなど、いろいろな寄せ植えを作ってきた。
「自分の興味あるところから、気楽に始めたらいいと思います。大切なのはモチベーション。それがなければ長続きしません。『一所懸命世話しているのに枯れてしまった』という相談を受けることがありますが、絶対にそんなことはない。植物はある日突然枯れるのではなく、だんだんに枯れていくもの。だからこそ、モチベーションが持続しそうな、自分の好きなものから始めてみることが大切なんですよ」
柳生さんの家にある夏みかんの枝には一部ネットがかかっている。虫好きな子どもたちが芋虫を観察できるようにするためだ。
「大人にとって夏みかんは収穫して食べるための木かもしれないけれど、子供たちにとっては大好きな芋虫が住んでいる場所です。それを観察することも園芸の一つ。草や花を植えるだけが園芸ではないと僕は思います。植物、鳥、昆虫、水辺の生物もすべてはつながっているんですよ」
雑木林にも、庭にも、植木鉢の中にも、かけがえのない命の営みがある。自然の中を散歩することも、屋内で植物を育てることも生命に触れること。だからそこに無上の喜びがあるのかもしれない。
(飯島裕子)
Photos:浅野一哉
柳生真吾(やぎゅう・しんご)
1968年東京都生まれ。玉川大学農学部卒。10歳のころからほぼ毎週八ヶ岳に通い、父の雑木林作りを手伝う。大学卒業後、生産農家「タナベナーセリー」での園芸修行を経て八ヶ岳へ移住し、雑木林を核としたギャラリー&レストラン「八ヶ岳倶楽部」を運営。2000年からはNHK『趣味の園芸』のメインキャスターを務めるほか、全国各地で講演活動なども行っている。著書に『柳生真吾の八ヶ岳だより』(NHK出版)、『柳生真吾の、家族の里山園芸』(講談社)、『男のガーデニング入門』(角川書店)などがある。
(2007年1月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第65号 [特集 冬、満喫—冬ごもりレシピ]より)