なぜ増える?見えない女性ホームレス。単身女性3人に1人が貧困(雨宮処凛)

社会に受け皿がない。単身女性3人に1人が貧困

女性ホームレスはめったに見かけないという人が多いかもしれない。
しかし、女性ホームレスは確実に存在する。
雨宮処凛さんが出会ったホームレス状態の女性たちとは?

夜間は「身を隠す」ことに必死

「単身女性の3人に1人が貧困」。昨年末に発表されたこの数字はこの国の人々に大きな衝撃を与え、「貧困女子」なる言葉も生み出した。

が、考えてみれば、女性が貧困なのは当然なのだ。男女合わせての非正規雇用率は4割弱だが、女性に限ると5割を超える。また、労働者に占める女性の割合は42パーセントなのに、女性の賃金は非正規雇用まで含めると男性の約半分。それなのに、なんとなく「どうせ結婚するんだから」という根拠のない思い込みによって長い間、社会的に放置されてきた。

「だけど、ホームレスはみんな男性で、女性ホームレスなんて見たことがない」という人もいるかもしれない。が、数こそ少ないものの、「見えづらい」だけで女性ホームレスは確実に存在する。

女性の場合、路上生活はさまざまな危険にさらされることから、本人が必死に「気づかれない」ようにしていることも多い。年越し派遣村の翌年、09年末から10年明けにかけて開催された「公設派遣村」にも、女性の姿はちらほらとあった。中には、20代の女性もいた。

さまざまな事情があって実家には頼れず、ルームシェアをしていた友人との関係悪化から住む場所を失い、所持金も尽きて路上生活となってしまった女の子。夜間はとにかく「身を隠す」ことに必死になっていたという。

a2e4d6682b572c48430c52f32c6f490f_s

また、別の女性は、夜間に路上にいることが怖いので、毎晩ネットカフェやファストフード店で夜を明かすことを告白してくれた。

40代の彼女は、精神的な病気を長く患っていたという。一時期はアルバイトしながら一人暮らしをするなど自立生活をしていたものの、失業が長引き、実家に戻ることに。しかし、家族と折り合いが悪く、ある日とうとう家を追い出されてホームレス状態になってしまったのだ。

その後、路上で出会った男性とカップルとなったものの、男性が施設に入ったため、単独行動に。日雇いの仕事がある時は働き、夜は横になれないまま、ロクに睡眠も取れない日々。しかし、深夜のファストフード店にいる彼女を、誰もホームレスとは思わないだろう。

DV、風俗、ホームレス、3つの選択肢しかなかった

一方で、「女性ホームレス」問題と切っても切れない関係なのが風俗産業だ。

20代のカナエさん(仮名)も、風俗産業に長らくかかわってきた。やはり家族と折り合いが悪く、10代で「勘当同然に」実家を追い出された彼女は田舎から上京すると、そのまま風俗店に。住み込みで働ける上、すぐに現金収入が得られる仕事はそこしかなかった。その後、恋人ができて同棲するものの、今度はDVが始まってしまう。

しかし、そんな生活に彼女は数年間、耐えた。ある意味で、DVを受け続けることを「選択」したのだ。なぜなら、選択肢は「DVを受け続けるか」「風俗で働くか」「DVを続ける彼の家を出てホームレスになるか」しかなかったからである。

結局恋人と別れ、家を出たことで住む場所を失ったカナエさんは再び風俗産業に戻った。が、うつ状態となって働けず、ゲストハウスの家賃が払えずホームレス状態になってしまう。今は生活保護を受給し、精神科の治療を受けている。

女性の貧困、そしてホームレス化。その背景にあるものは、とても一言では言い表せない。不安定雇用や賃金格差という問題はもちろんあるが、一方で風俗産業やDV男性との関係が、ある意味でセーフティネットになってしまっている面も否定できない。

また、そこから逃れようとしても、社会には「単身女性が駆け込める場所」やその後の生活を支える「安定した雇用」などの受け皿が圧倒的に不足している。しかも、本人が自らの身の安全のために「気づかれない」ことに必死なので、そもそも「見えない」。

若い女性ホームレス問題を考える時に思い出すのは、10年の夏、自らの子ども2人を餓死させてしまった下村早苗被告のことだ。就労経験もほとんどなく、子ども2人を抱えて離婚した彼女が生きるために飛び込んだのが、やはり風俗の世界だった。

女性がそんなふうにしか生きられない状況にこそ、この国の「女性の貧困」問題の根深さがあるように思うのは、私だけではないはずだ。

(雨宮処凛)

あわせて読みたい

関連書籍

妊娠したホームレスの女性が子どもを産み落とす…女性がホームレスになり、妊娠したいきさつとは。

下村早苗被告の事件の経緯を追い、母親の人生をたどることから、幼児虐待のメカニズムを分析。現代の奈落に落ちた母子の悲劇をとおして、女性の貧困を問うルポルタージュ。

「一億総活躍社会」の掛け声の陰で、ひっそりと困難を抱えて生き抜こうともがく女性たちの等身大の姿に迫る。