(2008年4月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 93号より)
タネまきは自由への一歩。発芽の感動を伝えたい
ガーデニングと無縁のあなたにこそ、「ひやかしでも、おもしろ半分でもいいので、とにかくまずはタネをまいてみてください」とすすめる、作家の藤田雅矢さん。発芽の体験は、あなたをきっと変えるはず?!
発芽の感動に目覚めて始めたタネまき
アボカド、レモン、グレープフルーツ、ブドウ、メロン、リンゴ、カキ、モモ、サクランボ、ナシ、ミカン…。あなたが、それらを果物屋さんから買ってきて食べてしまったら、残ったタネはどうしますか?
普通、それらのタネは生ごみとして捨てられる。だが、藤田雅矢さんは違う。なんと、そのタネをせっせとまくのである。それは、なぜ? 藤田さんの答えは単純明快だ。
「タネまきが好きなんです。芽が出てくるのがうれしい。動物も小さいときがかわいいですけれど、植物も芽が出てくるときはかわいいですからね」
タネに興味を持ったのは、幼少のころ。
「小さいときから、花が好きだったんです。亡くなった祖母が植物好きで、それをまねてタネまきをしたり、タネ屋のカタログを取り寄せてタネを頼んだりもしました」。
取り寄せたのは、サボテンや食虫植物のモウセンゴケなどの、ちょっと変わった植物。幼少のころからマニアックだった藤田さん!
そして、もう一人の祖母宅での出来事が、藤田少年に決定的な影響を与える。
「田舎の祖母のところに遊びに行って、スイカを食ったんです。そのタネをまいたら、芽が出たんですね。それが大きく育って、夏休みに再びそのスイカの実を食べさせてもらったんですよ。感動しました。本当に『芽が出るんや』と思って」
タネの戦略、発芽ずらして危険分散
「タネは、赤ん坊をつつんだゆりかご」だと言う藤田さん。
タネの内部をのぞいてみたら、それがよくわかる。
「特にカキのタネは、よくわかるんです。カキのタネを縦にスパッとナイフで切ると、白くて小さい葉っぱがはっきりと見えるんです。本当にタネの赤ちゃんが入っています」
植物はタネで子孫を増やしていく。だからこそ、タネには大小いろいろな種類があり、タネはさまざまな戦略をめぐらしている。果物が甘いのは動物に食べさせてタネをまいてもらうためだ。例えば、棘のある雑草のタネは何かにくっついて動こうと考えているし、綿毛のタネはかなりの長距離を飛ぶ。ヤシの実は大きいがタネそのもの、水面の長旅にも耐えられるようになっている。小さいタネは魚の卵と同じで、数が勝負だ。
発芽の時期も一定ではない。タネ屋さんで買ったタネの説明書には「2週間で発芽します」とあるが?
「人間に改良された作物は、まけばすぐに芽が出るようになっているんですが、野生のタネは違います。いっぺんに芽を出してしまうと、何か悪条件がくると一気に死んでしまうリスクがあるので、順番に発芽するんです。地面に落ちてその年にすぐに芽が出るもの、2年目に、3年目に、さらに何年もたってから芽を出すものもある。危険分散をやっているんです」
そういえば、雑草は抜いても抜いても、出てくる?
「出てきますね。土を動かしたりするとそれがまた刺激になって、土中のタネが今回は起きてみようかとか考えて発芽する。雑草のタネはなかなかしぶといですよ」
発芽したときの外的条件を予測できないので、発芽時期をずらすのが、「たぶん彼らの戦略ですよね」と藤田さんは言う。
タネの生命力を感じさせる代表的な例が、大賀ハスだ。
「ハスのタネはもともと長生きですが、1951年、大賀一郎さんは落合遺跡で発見した約2000年前のハスの実の発芽・開花に成功したんです。それが大賀ハス。植物園へ行けばそれらの子孫が見られますよ」。
植物の方が動物より、ものの考え方がロングスパン。時間意識が違うのだ。
<後編へ続く>