奴隷労働は、依然として存在する――ノーベル平和賞受賞、カイラシュ・サティヤルティ氏

児童労働・人身売買問題に長年取り組み、2014年に、マララ・ユスフザイさんと一緒にノーベル平和賞を受賞したインド人人権活動家カイラシュ・サティヤルティさんをご存じですか?

『ビッグイシュー日本版』289号に、サティヤルティさんが福島の子どもたちを訪ねた際の記事が掲載されていますが、オンラインでは、今年の初めに行われたイタリアのストリートペーパーScarp de’ tenisによる、独占インタビューをご紹介します。

これまで8万人を超える子供たちを奴隷労働の現場から解放し、その根絶のために闘ってきたサティヤルティさん。グローバリゼーションがいかに奴隷労働や人身売買に影響を与えてきたか、そして、これらの問題の解決のためには若者の力が重要だと語ります。

また、記事中にはありませんが、国際NPO「グッドウィーブ」を設立し、児童労働によらない製品を評価するネットワークを築いています。
http://www.goodweave.org/home.php

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8万人以上の子どもを奴隷労働から解放し、職業訓練・教育・社会復帰の道へ

ミラノで50年以上前から飢餓と南北格差の解消に取り組んでいる慈善団体Mani Teseの本部を訪れると、モノトーンを優雅に着こなしたカイラシュ・サティヤルティ氏が笑顔で迎えてくれた。

カイラシュ・サティヤルティ氏はインド人の電気技師で、子どもの権利のために闘う人権活動家だ。2014年には、子どもや若者への抑圧に反対し、子どもの教育を受ける権利のために活動してきたパキスタン人のマララ・ユスフザイ氏とともにノーベル平和賞を受賞した。サティヤルティ氏は、自ら設立したNGO Bachpan Bachao Andolan(「子どもたちを救おう」運動)を通じて、これまで8万人以上の子どもたちを奴隷労働から解放し、職業訓練・教育・社会復帰の道へとつないできた。

サティヤルティ氏は、グローバリゼーションがどのように奴隷労働や人身売買に影響しているか、そしてこの問題を解決するためにいかに若者たちの力が重要となってくるかを語る。

ヨーロッパでは「行方不明」という新しい形の奴隷労働が登場、何千人もの子どもたちが姿を消し人身売買の対象になっている。

Q. 子ども時代のストリートというと何を思い出しますか?

A.私が育った家は、舗装されていない小さな路地にありました。その通りは子どもたちにとってサッカー場でもありました。石や枝をゴールポスト代わりにしたものです。私自身はサッカーは上手ではありませんでしたが。歩行者や自転車で通りかかると、ゲームを中断しなければなりません。狭い道でのサッカーは楽しかったものの、なかなか大変でした。ゲームは頻繁に中断を余儀なくされるし、まさにゴールを決める瞬間に中断する時だってあるわけです。それに、ボールが行方不明になることもしょっちゅうでした。

通りでなんでもして遊びました。舗装されていない道だったので、雨が降ると泥だらけになって、よく滑って転んだものです。これらが、私の子ども時代のストリートについての思い出です。

Q.児童労働や人身売買の実情を教えてください。

A.今日、世界中で1億6800万人の子どもたちがフルタイムで働いており、他方で2億人の失業者がいます。

550万人の子どもたちが強制的に労働させられており、その数は減るどころか増える一方です。ヨーロッパでは「行方不明」という新しい形の奴隷労働が登場しました。何千人もの子どもたちが姿を消しています。ユーロポール(欧州警察)では、こうした子どもたちは、様々な目的――性的虐待、奴隷労働、物乞い――をさせるために人身売買の対象になっているのではないかと疑っています。

人身売買は1500億ドル(約170兆円)産業です。これは新しい奴隷労働の形であり、犯罪組織による犯罪行為であって、無視することはできません。シリアやイラク、アフガニスタンなどの国では、とても幼い子どもたちが誘拐・監禁され、性労働のために売られています。私たちが直面する新たな問題です。

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問題解決のキープレイヤーとなるのは市民社会と企業。

Q.新しい形の奴隷労働を撲滅する方法はありますか?

A.奴隷労働が依然として存在することを一般市民が認識しなければなりません。認識を広めるためにはマスコミやソーシャルメディアは重要な役割を担っています。

20年前までなら、ヨーロッパでもその他の地域でも、人権に関わる個々の問題を解決するのは主に政府の役目でした。しかし、最近では状況が変わり、キープレイヤーとなるのは市民社会と企業です。

今後、重要な役割を果たすのは、国家、企業、市民社会の三者ということです。しかし、残念ながら、三者間には多くの隔たりがあります。企業と市民社会との信頼関係はせいぜい慈善活動どまりです。同様に、どこの国でも政府と市民社会の関係には改善の余地があります。三者が相互に信頼しあって行動を起こすことができれば、奴隷労働の問題は解決されるはずです。

Q.グローバリゼーションが果たす役割は?

A.グローバリゼーションは経済成長とチャンスを人々にもたらした一方で、発展途上国における安価な労働力需要を生みました。だからこそ、製造や流通の現場に搾取や児童労働が多いのです。

大企業は現地の下請け製造業者に大きく依存しています。強制的に労働させられている子どもたちの手で、アパレル、靴、かばん、それに電子部品までが製造されているのです。

消費者も企業もこの現実に直面し、目を覚まさなくてはなりません。これら商品の製造のために子どもたちが搾取されるべきはありません。

大企業はしばしば慈善団体に寄付を行いますが、それ以上のことをしません。しかし企業は、社会的責任を果たすためにもう一歩を踏み出す必要があります。

製造プロセスを明らかにし、納入業者についても透明性を高めること。今後10年の課題です。解決のプロセスには大企業と協力しあっていくことが重要になります。なぜなら、大企業は金儲けマシーンというだけでなく、社会変革を生む設計者という側面もあるからです。

大企業が個人に対する責任を果たすだろうかって?ただ次の原則に従えばいいのです。容易に利益を生むために人間を犠牲にしてはならない、というたった一つの原則です。

自由はアナーキズムと同じではない。社会の自由度が高ければ高いほど、個人もより自由になるのです。

Q.あなたにとって自由とは?

A.自由とは神が人間に与えた最高の贈り物、神の恵みです。

私たちが皆、自由な存在として生まれたのは、神がそう望まれたからです。神は人間が自由であること、自由に成長することを望まれている。この自由を侵す行為は何であれ、神にはむかうことです。

自由を侵す行為とは、人が成長するためにくだす一般的な選択や決定、学び、教育を受け、自分で決断し、楽しみ、幸福な生活を送る自由を妨げる行為すべてのことです。

自由は社会に対する責任を伴います。決してアナーキズムと同じではありません。自由とは外部から強制されず、自主性を持てる状態のことです。自由は文明とともに発展します。社会の自由度が高ければ高いほど、個人もより自由になるのです。

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Q.今後の計画を教えてください。

A.奴隷制は根絶されていませんので、これからも闘いつづけていくつもりです。新たに設立したカイラシュ・サティヤルティ児童基金では次の3つを目標に掲げています。

まず、総合的な支援を行っていくための組織を作ります。今の児童政策は、健康、教育、保護、法的支援など縦割りに細分化されていますので、総合的な支援が必要です。

2つめが、国や市民社会、企業の素晴らしい取組みを紹介していくこと。そして3つめは、あなた方のような世界各国のストリートペーパーにも力を貸してほしいのですが、子どもの権利保護のために史上最大最強のキャンペーンを始めることです。

子ども時代を奪われ、自由や教育、ヘルスケア、食べ物にことかく何百万人もの子どもたちがいる一方で、アイデアにあふれ、社会に貢献したいと考える熱意とエネルギーにあふれた若者たちがたくさんいます。ですが、こうした有為の若者たちに社会が活躍の場を与えなれば、彼らも自分勝手で自己中心的になり、不満は不寛容や暴力に姿を変えてしまうかもしれません。

そうした若者たちに向けたキャンペーンを行い、自分たちの手で社会を変えられると感じてもらいたいのです。スピーディでコストのかからないソーシャルメディアの果たす役割も大きいでしょう。

INSPニュースサービスの厚意により
www.INSP.ngo /Scarp de ‘tenis

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