「決して、海はゴミ捨て場ではありません!」:インド洋に浮かぶ島国モーリシャス共和国女性大統領からの強いメッセージ

2015年6月5日、科学者として世界的に知られるアミーナ・グリブ・ファキムがモーリシャス共和国第6代大統領に就任した。世界でも数少ないイスラム系女性国家元首のひとりだ。

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モーリシャス共和国第6代大統領アミーナ・グリブ・ファキム
Credit: Nasseem Ackbarally/IPS


モーリシャスでは男女格差の是正と女性の権利拡大を目指し、公的かつ民主的領域における女性の起用を推進しており、彼女の指名も非常に画期的な出来事だった。

1987年、彼女のキャリアはモーリシャス大学農学部講師として始まった。その後、国内の学界で中心人物の一人に数えられるようになり、大統領就任前にはその名声はインド洋以遠まで届くほどだった。

地域・地方・国際レベルの多数の組織でさまざまな役割で活躍してきた彼女の講義内容は広範囲にわたり、「生物多様性の保全」及び「持続可能な開発」に関する書籍は単著・共著含め26冊に及び、学術記事も多数執筆している。

今回IPS(Inter Press Service)の独占インタビューに応じた彼女は、島国のトップに立つ人間として世界のリーダーたちに向け海洋保護の重要性を強く訴える。海洋という重大な生態系は何百万もの人々、とりわけ小さな島国や沿岸地域に暮らす人々の生活に影響を及ぼすと指摘。

人間活動は世界の海に巨大な足跡を残した。海をゴミ捨て場のように考えてきましたが、それは違います。

「持続可能な開発」という重要性において海洋をどのように評価していますか?

海洋は地球表面の7割を占めていますが、いまだにその全容は解明されていません。ただ、海洋空間が人々の暮らし、特に島々や沿岸地域の人々に影響を与えていることは間違いありません。

例えば南西インド洋の数カ国では、漁業なくして生計はほぼ成り立ちません。2013年の統計によると、魚介は世界人口が摂取した動物性たんぱく質の約17%、たんぱく質全体の約6.7%を占めていました。サンゴ礁に生息する魚種も重要なたんぱく源です。

世界経済産出量の6割以上が沿岸地域および一部のアフリカ諸国でまかなわれているなか、海洋経済は収益の25%、輸出収入の30%以上をもたらしています。海洋が持つ大きな可能性がますます明らかになっています。

世界海洋サミットの目標次第では、人間・地球・われわれの繁栄に必須である「健全な海」を取り戻せると思いますか?

サミットには海洋問題の関係者が一堂に会します。資金拠出という厄介な問題は常にあるものの海洋生態系のいくつかの分野ではデータ収集が急がれていますから、その約束を各国から取りつける場でもあります。サミットでは政策立案者ならびに研究者に海洋の役割の全体像が示されるので、汚染回復の必要性に一石を投じてくれるのではないでしょうか。

われわれ人間はきれいな海に巨大な足跡を残してしまったという事実を忘れてはなりません。これまで、海をゴミ捨て場のように考えてきましたが、それは違います。海洋空間には、酸性度や気温がわずかに上昇するだけで壊れてしまう非常にもろい生態系があるのです。

モーリシャスは海洋国家ですが、環境資産である海の重要性に十分な配慮をしてきたようには思えません。今回の海洋サミットで何か考え方は変わるでしょうか?

モーリシャスは国土面積はとても小さいものの、周囲には220万キロにも及ぶ広大な海洋が広がっています。海洋サミットを通じて、海という存在がモーリシャス経済にもたらす多くの課題ならびに機会を再び前面に押し出すことができればと思っています。

先ほどお話したように、そのひとつは「持続可能な漁業」で、経済の重要要素として位置付けることができます。モーリシャスおよび南西インド洋海嶺における水産業は危機的状況にあります。魚資源の3割が乱用または枯渇させられ、十分に活用されているのは4割どまりです。ずさんな管理が原因で年間約2億2500万ドルもの損失が出ています。

しかも、海は魚だけでなく、持続可能な観光資源や再生可能エネルギー(波エネルギー等)の源でもあります。

「健全な海」は人類が存続する上で非常に重要です。これまでにも多くの国際会議が開催され、誓約が行われてきたにもかかわらず、地球上の生態系はどんどん壊されています。今回の会議を通して、国際的・地域的にどのような変化があるでしょうか?

決して、海をゴミ捨て場や二酸化炭素の吸収源のように扱ってはなりません。

川からの流出物もしっかり確認すべきです。最終的にはすべて海に流れ込むのですから。プラスチック汚染も深刻な問題です。リサイクルされないプラスチックが野生生物に甚大な被害をもたらすことが分かっているのです。

サミットではライブ映像や現場を知っている人たちの証言など、汚染活動がもたらす影響を視覚的に確認できますから、人々の意識が変わり、これまでとは違う持続的な視点で考えられるようになるでしょう。とにかくわれわれは、ビジネスのやり方や海そのものを全く新たな観点で捉え直さなければなりません。

人類が存続する上で気候変動は大きな課題ですが、アメリカがその対策を見直し始めています。トップを争う二酸化炭素排出国による政策転換をどうお考えですか?

私からすれば、気候変動は人類に対する最大の脅威です。というのも、海だけでなく地球上のあらゆる生態系に影響するからです。

気候変動により多くの種が消滅するでしょう。すでに17,000種が絶滅の危機にあります。万一これらが消滅した場合、生態系の回復力も弱まります。私がいつも言っていることですが、地球上の生命は生物の多様性に支えられており、海も例外ではないということ。海の生態系のバランスはとても脆弱なのです。

ですからどんな小さな変化でも、水温が0.5度上昇するだけでも、海洋生物には耐えられるものではなく絶滅してしまいます。それは私たちが目指す未来ではありません。

一部の国では気候変動協定を撤回しようとしていますが、多くの国が排出抑制に向けて必死に努力してきたことを思うと、非常に残念な流れとしか言えません。

インドを始めとする経済大国は再生可能エネルギーに関する国際協力に取り組み始めました。中国もその意思を表明しています。ですから、気候変動協定から離脱する動きは残念でなりません。これは短期的な話ではなく長期的な、人類に大いに利することですから。

いまだに経済発展に化石燃料が必要だと考える国々に対しては、環境技術でも同様の成長を維持できることがすでに証明されています。化石燃料への投資をやめても変わらず経済成長できるという事実から目をそむけてはなりません。クリーンエネルギーがその答えなのです。

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© Pierre Benker/freepik

海洋サミットに期待することは何でしょうか?

各国が誓約を守ることです。人類は重大な転換期に差しかかっているものの、まだすべてを失ったわけではありません。今求められているのは、迅速な対応と誓約を実行し結果を出すこと。そこに私たちの未来がかかっています。

大統領就任から丸二年が経とうとしています。モーリシャスにおける男女平等問題は改善しているとお考えですか?

独立当時(1968年)のモーリシャスでは、国民一人当たりの所得は200米ドルほどでした。その後、国民の幸福を保証する決定がいくつかなされ、そのひとつが1976年の全国民の教育無料化です。教育は確実に人々の社会的流動性をもたらしてくれます。子供が就学年齢に達した時に親は教育を受けさせるかどうかを悩まなくてよくなったのです。

あれから40年以上が経ち、この決定がもたらした変化が表れています。多くの専門領域において女性の割合が増えました。医療、法律、教育の各分野では半分以上を女性が占めています。役員レベルや政界ではまだまだですが、それも変わりつつあります。

この問題に対する私のメッセージは非常に明快です。発展を望むのであれば、どんな国も労働力および才能の52%を占める存在を無視してはなりません。

文:ナシーム・アクバラリー
翻訳監修:西川由紀子

ビッグイシュー日本版の『海』に関するバックナンバー

306号:スペシャルインタビュー 『モアナと伝説の海』

https://www.bigissue.jp/backnumber/306/

240号特集:海と放射能。三陸の世界的漁場は?

https://www.bigissue.jp/backnumber/240/

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