はじまりは、ひとつの図書館から
この路上脱出ガイド、どのようにして必要な方に届けているのでしょうか?
一番多い配布方法は、掲載しているホームレス支援団体をはじめ、相談や夜回りの現場で当事者の方に手渡しするケース。また、「近所でよく見かけるホームレスの方に何かしてあげたい」という市民の方からガイドを手渡ししてもらうこともあります。その他、webページからダウンロードすることもできるため、「宿泊中のネットカフェで見つけて・・・」とインターネット経由で相談に来所される方もいます。
ガイド配布中の様子
そんな路上脱出ガイドの配布先として、力強い役割を担ってくれている施設があります。近年、地域のつながりや学習支援、起業支援といった課題解決支援の場としてその役割を見直されはじめた公共図書館です。ホームレスの方の中には読書や情報収集の他、暖を取る、お手洗いを利用する、という様々な用途で図書館を利用する方も多いことから、ビッグイシュー基金では公共図書館でのガイド配置のご協力をお願いしています。
東京では、昨年9月~今年8月までの1年間で1,280冊のガイドを公共図書館にお渡ししてきました。実際に図書館で路上脱出ガイドを見て相談に来られ、適切な支援につながった方や、雑誌販売の仕事を始められた方も数多くいらっしゃいます。
夜回りや相談活動の現場だけでは出会えなかった方への大事な情報提供の機会となっている公共図書館でのガイド配置。実はこの取り組み、東京都のひとつの図書館から始まったものです。その図書館が今回ご紹介する新宿区立四谷図書館です。広報担当の遠藤ひとみさんに、四谷図書館の取組やガイドを置くようになったきっかけについて、お話をお伺いしました。
新宿区立四谷図書館 企画・広報担当 遠藤ひとみさん
「情報を提供して、そっと支える」。 路上脱出ガイドを配置した理由
新宿区立四谷図書館は、東京版路上脱出ガイド初版発行後すぐにガイド配置の第1館として名乗りを上げてくれました。
遠藤さんが四谷図書館で勤務を始めたのは2010年。当時の四谷図書館には、大きな荷物を抱えたホームレス状態と思われる方の来館も多かったそうです。図書館に何かできることがあるのではないか、そう思っていた矢先に、ビッグイシューのスタッフから路上脱出ガイドを紹介されました。
食べもののことや利用できる制度のこと、雑誌販売の仕事のことなど、いろんな情報が1冊にまとめてあって、見た人が自分でアクションを起こせるのがいいなと思いました。あと、押し付けがましくないところもよかった。ガイドを置いておくことで自立を目指す人をそっと支えることができればいいなという思いがありました。
路上脱出ガイド(東京23区編)
遠藤さんたちはガイド配置にあたって、ホームレスの方がよく新聞を読みに来館することに気づき、彼らの目に留まりやすいよう新聞棚の上に配置することにしました。
ガイドを置き始めてから数か月たった頃、図書館でビッグイシューの鞄を下げた販売者らしき方を見かけました。ここでガイドを見たことがきっかけで雑誌販売の仕事についてくれた人だったら嬉しいなあと思いましたね。
その他、支援者と思われる方がガイドを何冊かまとめて持っていく様子を目にするなど、ガイド配布の輪が広がっていくのを感じたそうです。
「本を貸す」だけが図書館じゃない。 四谷図書館の魅力
新宿区立四谷図書館は、新宿御苑・大木戸門のすぐそばにあります。1日平均1200~1300人が来館するこちらの図書館は、新宿区名誉区民であるやなせたかしさんの絵本も充実しており、他の図書館に比べて雑誌の種類も豊富で、幅広い世代に利用されているそうです。
四谷図書館の特徴は、住民や地域が主体となった企画・イベントを数多く開催していること。遠藤さんによると、これまでに、ママ向けのイベントを当事者であるママを集めてチームを組むところから企画を進めたり、新宿の歴史ある名産品として脚光をあびている「内藤とうがらし」を使った調理ワークショップを開催したりと、「本を貸す、借りる」以外の取組みを続けてきたといいます。
地域の方々と関わっていると色んな面白い話を聞くんです。その話の中から突き詰めたいものを取材して、3ヵ月に1回、広報紙としてまとめています。その中でも評判の良かった題材を中心に、1年に1回の館内展示を開催しています。最新号の題材は『信仰』、その2号前は『江戸火消』でした。新宿区には今でも火消の「組(くみ)」が存在しているんですよ。
広報紙『よつば』
直近の展示で評判の良かった企画は、「どこコレ」。四谷を中心とした昭和の街の風景写真を展示し、来場者に「ここはどこでしょう?」と質問を投げかけるもの。お客さんは付箋を使って回答することができ、ただ展示するのではなく双方向にコミュニケーションができるよう工夫したそうです。
これは新宿区の小学校ですね。付箋には『職員室があった。よく連れていかれた(笑)』と書いてあります。ただ見るだけではなくて、『昔はこんなことがあったなあ』と思い出してもらったり、『昔はこんな街だったんだ!』と新発見してもらうことを通して、地域への愛着を深めてもらうことが目的です。
図書館で、シビルプライドを醸成する
このような企画からも分かるように、四谷図書館で意識していることは「地域密着」。地域の人たちが行き来し様々な情報が集まる図書館だからこそ、より地域に根差した質の高い情報を届けることができるといいます。
なぜ地域密着の情報にこだわるかというと、図書館は単なる情報提供以上の役割を担うことができると思っているからです。地域の本当に貴重な資料、面白い歴史、あっと驚く話を、私たち職員が質を追求してこだわって紹介することで、『あ、この地域っておもしろいな』と知ってもらう。四谷であれば、例えば火消の歴史とか、内藤とうがらしの話などです。地域のシビルプライドは、地域の誇れる歴史、面白い話を知ることから生まれるのではないでしょうか。地域の方の中に、『いいな』が積み重なっていくと、次第に『じゃあこの地域をどうしていこうか』という主体性が一人ひとりに生まれるのだと思います。
路上脱出ガイドの配置を始めてからは、ホームレス問題や福祉に興味のある利用者から声をかけられることも多いそうで、ガイドが地域にご縁を広げるひとつのきっかけともなっているとのこと。
情報のもとにあるのも、情報の先にいるのも『人』だと思っています。その、人と人の間の情報を想いと共に運ぶ者として、図書館の役割をこれからも考えていきたいですね。
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様々な人が訪れる公共図書館だからできる「図書館でのホームレス支援」。ビッグイシュー基金では、公共図書館へ路上脱出ガイドを送付させていただいております。ご希望の方は、ビッグイシュー基金までご連絡ください。
路上脱出ガイドについてはこちらから(ビッグイシュー基金HP)