ホームレス問題にまつわる各国の状況の類似点とは? ソウル大学、台湾大学、京都大学の学生にビッグイシューが出張講義 @京都大学

 2019年8月。京都に、ソウル大学、台湾大学、京都大学の学生たちが集まり、「東アジアジュニアワークショップ」が開かれた。


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ソウル・台湾・京都の大学生たちによる社会課題についてのワークショップ

落合恵美子京都大学教授ら三大学の社会学科の教員が相談し、2009年に開始された同ワークショップは、主に社会学を学ぶ3大学の学生たちが関心のあるテーマを学会さながらに発表するというもの。8月19日〜22日まで京都大学で開催された10回目の今年も、「社会的不平等」をテーマに、「ジェンダー」「社会的排除」「移民」などに関する報告が3カ国からなされた。

4日間のプログラムには、フィールド・トリップや学外からの講師による授業も含まれる。移民の生徒たちへの日本語教育や、部落民に対する政策、ホームレス問題などに焦点が当てられ、そのうちの1コマをビッグイシューが任された。

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講義に聞き入る3大学の学生たち

「なぜ若者がホームレス状態に?」「女性ホームレスは存在するのか?」

まずはビッグイシュースタッフの吉田耕一が、日本のホームレス問題の状況と、それにいかにビッグイシューが対峙してきたかを語る。
フロアからは、「なぜリーマンショック後に、若い人々がホームレス状態に陥ったのか」「『ホームレス』という語の定義が国によって違うということだが、EUの定義に当てはめると、日本では『ホームレス』は何人くらいになるのか」「日本では女性ホームレスは存在するのか」といった質問が上がった。


参考:リーマンショック後の変化
リーマンショック以前は日雇いの方々がビッグイシューの販売登録を希望されることが多かったが、リーマンショック以降は、派遣で働いていたが“雇い止め”に遭った人々の登録が増加。そのような労働環境の激変が背景にあり、ホームレス状態の人の若年化が起こった。

日本とホームレスの定義の違い
日本では公園・駅などで暮らすいわゆる野宿者が“ホームレス”と定義されるが、EUでは友人・親戚宅や、シェルターなどで暮らす人々など適切な住居を持たない人々もカウントされる。その定義によると日本の“ホームレス”の数が何人になるのかの調査はまだなされていない。

女性ホームレスについて
女性ホームレスについては、存在はするものの非常に少ない(厚生労働省による2019年度の調査では3.7%)。その背景には、例えば女性がDVから逃げている場合、保護施設などに匿われることや、託児や寮つきを謳った性産業などに取り込まれてしまうことがある。

ホームレス当事者・経験者が語る「生い立ち」や「ホームレスになった理由」

続いてビッグイシューの販売者が登場。大阪・梅田で販売する濱田進さんと、大阪・淀屋橋で販売している吉富卓爾さんが、ぞれぞれ「自分の生い立ち」「なぜホームレス状態に陥ったのか」「現状」などを語った。

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自らの経験を話す濱田さん(中央)と吉富さん(左)

濱田さんは、大学卒業後、信用金庫に勤めていたが、「司書になりたい」と一念発起。14年ほどパート勤務にて司書を務めた後、様々な理由から職を辞した。ほどなくして、実家を出なければならなくなり、ほとんど何も持たず、路上生活へと至った。

一方の吉富さんは、九州の離島出身。神奈川で働いていた際、寮を追い出され、そこから徒歩で新宿に向けて歩いて行き、ホームレス状態に陥ったと話した。
特にそれぞれが過ごした野宿1日目の心境に話が及ぶと、会場は水を打った静けさとなった。

人前で、ホームレス経験を語ろうと思う理由は「存在証明」

講演の後、「質問がある人?」という問いかけに、次々と手が上がる。「日本ではまだホームレス状態の人々への偏見が根強いが、なぜこのような講演を引き受けようと思われたのか」という問いかけには、吉富さんが「このように人前に出ることは、自分が生きている証、存在している証明なんです」と返答。

また「韓国はソウル、台湾は台北なのに、なぜ日本版は(首都ではない)大阪で始まったのか」という問いには、「ビッグイシューが日本で立ち上がった2003年当時、一番路上生活者が多かったのは大阪だった(※)んです」と吉田が答えた。

(※)厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査結果」(平成15年)

「路上脱出の応援」のはずが、なぜ10年以上も販売を続ける人がいるのか

会場からはさらに突っ込んだ質問も。「雑誌販売の仕事は、次の就職への踏み台となるべきものだが、人によっては10年近くもビッグイシューの販売を続けているのはなぜですか」。

 現実には就労意欲があっても、年齢やホームレス歴を理由に雇用してもらえないことが多いことが一番の原因だが、吉田はさらに「自立のタイミングも、自分で納得した上で決めてほしいと考えています。まだ他の仕事を検討できる状況にないのに『そろそろ違う職を探して』とは言えないからです」と答えた。

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活発に行われた質疑応答

 台湾大学の学生からは、「台湾ではビッグイシューは大学街界隈で販売されていることが多いのですが、日本はそうしないのですか」という問いも。吉田が「日本版の読者は40−60代の女性が多いから、というのも関係しているでしょう。台湾版の読者は若い人が多いと聞いています。これを機会に、京都大学の学生さんたちにも購入してほしいです」と語ると、会場は笑いと拍手に包まれた。

各国学生からの感想「ホームレスの人たちは“私たち”」

 各国でエリートとされる道を歩んできた大学の学生たちにとって、実際にホームレス状態を経験した人たちとの出会い、またライフストーリーに耳を傾ける経験は、刺激的だったようで授業後に記入されたアンケートには、こんな感想が寄せられた。

「販売者さんのライフストーリーを聞くと、誰もがホームレスになる可能性があると感じた」(台湾大学の学生)

「ホームレスの人々は“私たち”であると捉える必要がある」(ソウル大学の学生)

「誰もがホームレスになりうるという話が印象的でした。私も20歳の時に大病をして人生を色々と考え直すことになったので、強い共感を覚えました」(京都大学の学生)

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3カ国の学生間のディスカッションは英語で行われた
 

また、自国の状況との類似点をあげているものもあった。

「韓国の場合、1997年のIMF経済危機によって多くの路上生活者が生まれた。日本の場合も、2008年のリーマン・ショック以後にホームレスが増えたと聞いたので、それが日本と韓国の類似点だと感じた」(ソウル大学の学生)

「台湾でも、空き家がたくさんあるのに若い人たちが住居を持てない問題や、世代間の格差の問題が存在する」(台湾大学の学生)

 「ホームレス問題」は、個人の問題ではなく、社会のしくみの問題-。ホームレス状態に陥っても、前向きに日々を歩む濱田さん、吉富さんによるビッグイシュー出張授業は、確かに国境を超えて若い世代の胸に響いたようだ。

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講義の後の記念撮影。販売者・スタッフ・学生・先生方もいい笑顔

文章:八鍬加容子
写真:越本大達

格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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