コロナ禍が使い捨てプラスチック容器の需要を急激に押し上げている。市場の年間成長率も5.5パーセントとの予測(コロナ禍前の4パーセントからさらに上昇)だ。“買っては捨てる”のライフスタイルのおかげで、英国では一年間に出すプラスチックごみは一人当たり平均99キロにも上る*1。ランカスター大学サステナビリティのシニア研究員、キャサリン・エルズワース・クレブスのプラごみ削減の提案を見てみたい。
*1 参照:US and UK citizens are world’s biggest sources of plastic waste – study
なお、日本の人口1人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量は、米国に次いで世界で2番目に多い。
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-04/y031204-s1.pdf (P.9)
プラごみを減らそうという話になると、マイボトルやエコバッグを使おう!と消費者レベルでできることばかりに目がいきがちだが、これほど大量のプラスチック容器を生産しては捨てられるだけのサイクルを阻止するには、企業側がもっと大きな動きを示し、再利用できるパッケージの種類を増やし、中身を補充して使い続けられるような対応が必要である。
消費者が使い捨てのプラ容器に入った製品を極力買わないで済むようにし、容器は小売店やメーカーが回収し、中身を詰め替え、再びその容器を店頭に戻す。同じ容器を何百回と使うようにする新たな仕組みを、製造業者/販売店/安全衛生機関の協働で構築できないだろうか。
逆向きの発想「リバース・サプライチェーン」
従来は、製造業者が原料を調達し、使い捨て容器に充填、消費者に配送、その後は廃棄で終了だったが、プラスチック容器を何度も利用する循環型の仕組みにおいては、企業は容器の回収・洗浄・保管・中身の充填、再出荷を実施する。そのすべての工程にコストがかかり、事業としては新たなリスクが発生することになろう。
特に飲食関連の商品や化粧品などは、安全衛生面が大きな懸念点となる。従来の一方向型の流通では、商品の遵守事項を守ることは比較的単純だった。シャンプーの容器にしろ、出来合いのカレーのトレイにしろ、容器には固有のラベルが付けられている。商品の中身を詰めたときにそのラベルを付けるだけでよかった。あとは捨てられるだけだから。
しかし循環型だと、同じ容器を何度も使うため、中身を入れ替えるタイミングで内容に合ったラベルに貼り替える必要がある。2020年、ニベア社はドイツのハンブルグに、ボディ用液体石鹸の詰め替えステーションを設けた*2。消費者は空になったシャンプー容器を持参し、中身を充填すると、マシンから新しい生産バッチ*3 が記載されたシールが出力される。
*2 NIVEA launches its first shower gel refill station to reduce plastic packaging waste
*3 一つの同じ生産サイクルで一度に生産された、ある一定量の製品を示す単位。
しかしこのサービスでもまだ、消費者の主体性を前提としている。もっと多くの人が簡単に製品を再利用できる環境を整えるには、もっとすっきりした方法が必要であろう。
その一つとして、企業が製品の「デジタルパスポート」を使って、パッケージを追跡するのはどうだろうか。デジタルパスポートというのはQRコードのようなもので、流通サイクルにおける主なポイントー店舗に容器が返却されたとき、業者の倉庫での洗浄・詰め替え時、再び店頭に並ぶ時やオンライン注文が入った時ーでスキャンされる。一つのパッケージが何百回とスキャンされ、その度に企業は安全衛生基準の順守を証明できる。それぞれのパッケージを特定できるため、必要に応じて回収もしやすい。
著者提供
新しいビジネスモデル
使い捨て容器だと、その容器の生産にかかる費用は商品代金に上乗せされ、商品が捨てられて終わりとコスト計算はシンプルだった。再利用容器は耐久性が重要となるので、生産コストは使い捨てタイプより高くつくだろう。その数字は25倍になる場合もあり*4、かといって25回再利用すればコストを回収できるとも限らない。容器の回収・保管・洗浄・中身の補充、これらにかかる人件費および光熱費などもかかってくるからだ。
*4 紙製ボックスが約30円だが、再利用タイプは約750円。
一つ一つの容器を追跡し、返却率を調べないことには、実際の費用は見えてこない。「デジタルパスポート」を使えば、企業は再利用容器に切り替えることと収益との関連性も把握しやすくなるのではないか。「容器の返却率」は、製品の種類、返却のしやすさ、さらには各国の衛生観念によっても異なるだろう。しっかり追跡を行わないことには、参考となるデータがほとんどないのが現状だ。しかし何度も再利用することをしっかり示し、生産コストを回収できれば、企業としては節約できる可能性もある。
企業にとっては、再利用可能な容器の導入はさまざまなリスクでもある。加熱、冷凍、落下など何百回と使用された後も品質が変わらない容器をどう生産できるか。シャンプー容器の50%が詰め替えタイプに変わる「リバース・サプライチェーン」はどうすれば確立できるのか。
デジタルパスポートだと、一つの容器が何回再利用されたのか、どれくらいの頻度で返却されているのかを追跡でき、ソリューションの第一歩となるのではないか。ぜひこのアイデアを実行に移す企業が出てきてほしい。
著者
Katherine Ellsworth-Krebs
Senior Research Associate in Sustainability, Lancaster University
※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年2月16日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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