ロシアによるウクライナ侵攻により、約200万人のウクライナ難民が押し寄せたポーランド。戦争開始から半年が経った2022年夏、支援現場を視察した米国のネブラスカ大学リンカーン校の政治学教授パトリス・マクマホン(専門は人道主義、非政府組織)が『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。
大勢の一般市民がホストとなって難民を受け入れている
大勢の難民が到着した現地のようすを確認すべく、ポズナン、ルブリン、ワルシャワ、クラクフ、そしてウクライナ国境付近の小さな街をいくつか訪れた。人道支援の対応は全体的にとてもうまく管理されており、大きな混乱は見られなかった。路上にホームレス状態と思しき人はおらず、金をせがまれることもなかった。「文明国として、女性や子どもを路上で寝かせるわけにはいかない」とワルシャワで出会ったソーシャルワーカーは語った。いわゆる難民キャンプは一切目にしなかった。
それよりも、たくさん出くわしたのはウクライナ難民を自宅で受け入れ、ポーランド社会に溶け込めるよう自腹で支援している市井の人々だ。ポズナンでは、女性3人とその子どもたち合わせて10人の世話をしているポーランド人家族がいた。安全な滞在場所は確保できたようだが、子どもの世話、アパートの家具を揃える、仕事を見つける等、諸々のサポートが必要だ。友人や隣人らで協力し、空き家や公共の建物をシェルターとし、大勢のウクライナ人難民を受け入れているところもいくつかあった。
ウクライナ難民に食料を配るポーランド市民(2022年5月)NurPhoto/Getty Images
2022年7月にポーランドを公式訪問した移民の人権に関する国連特別報告者のフェリペ・ゴンサレス・モラレスも、ウクライナ難民の多くがポーランド市民の個人宅に滞在している状況ならびに、一部のポーランド市民が自己負担で難民たちに経済的支援をしている状況を確認したと報告し、ポーランドの一般市民の寛大な行為を称賛する声明を出した*1。
ポーランドの政府や自治体の役割は?
ポーランド政府の迅速かつ寛大な対応には、良い意味で衝撃を受けた。難民が到着し始めるやいなや行動計画を策定し、ロシアの侵攻開始からわずか2週間後の3月12日、議会は包括的な法案を可決し、ウクライナ人難民にポーランド国内での保護と就労の権利を与えるとし、18ヶ月の合法滞在と社会福祉制度の利用を認めた。また、無料の医療ケアや学校教育(大学入学も含む)も受けられるとした。
地方自治体の動きはさらに早かった。実際、地方自治体が救援活動の中心的役割を果たしている現場をいくつも見た。例えばルブリン市では、戦争が始まるや否や「ウクライナ人支援社会委員会(Lublin Social Committee to Aid Ukrainians)」という組織が立ち上がった。NGO職員と市民たちが連携し、食事、法的支援、子どものケア、翻訳支援などの支援を24時間体制で提供している。他の都市でもさまざまなレベルの支援が、政府の活動とは別枠で、資金援助も受けずに行われていた。支援や受け入れ体制の具体的な方法は自治体ごとに異なるが、いずれも地域の市民社会団体、医療専門家、市民団体と積極的に連携している。
しかし、自治体関係者たちからは不満の声も上がっている。というのも、多くの自治体は野党側の首長が率いているため、ポーランドが“スムーズな危機対応”について称賛されるとき、その手柄を国が独り占めしているとの思いがあるのだ。実際に支援現場で資金を提供し、仕事をしているのは自分たちなのだ、国際的な支援および評価がもっと自治体や民間の人々に向けられるべき、との声を聞いた。
ウクライナ語と英語に翻訳された地図が難民にとってはありがたい。Artur Widak/NurPhoto via Getty Images
支援の持続性
ただし、現在のような支援のやり方はそろそろ限界にきている、との声も何人かから聞いた。ポーランドの民間人が支援に費やした金額は、戦争開始から3ヶ月間で総額20億ドル(約2890億円)以上になるとの試算もある。政府からの補償ももうもらえなくなったと、多くの人から聞いた*2。
*2 当初、ウクライナ難民を受け入れている家庭には1日40ズロティ(約1200円)の補償が支払われていたが、6月1日より一部の例外を除いて支払いを停止していくと政府は発表した。
参照:Poland begins to withdraw special benefits for Ukrainian refugees
ポーランドは決して豊かな国ではない。諸外国と同じく、経済は物価上昇のあおりを受けている。インフレ率は97年以来最高の16%に達し、特にエネルギー価格の高騰が著しい。ウクライナ難民の救済に乗り出した一般市民の多くが懐を痛めている。難民キャンプが設置されるのも時間の問題かもしれない。
海外からの支援金が現場に届きにくい現状
ポーランドには援助国や国際機関などから多額の支援金が届いているが、それらを現場の支援団体にどうやって届けるかが各地で課題となっている。「英国人道イノベーションハブ(UK Humanitarian Innovation Hub)」の報告書では、国際的な支援金の大半がうまく使われていないのは、コンプライアンス要件が、現場で活動する小規模のボランティア団体にはあまりに煩雑なためと指摘している。今回取材した人たちからも、資金援助側と支援現場の間のすれ違いを指摘する声が多く聞かれた。
By Patrice McMahon
Courtesy of The Conversation / International Network of Street Papers
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