日本で年金生活に余裕があったのは昔のことで、今ではかなりの高齢になってもアルバイトをしないと生きていけない人が増えている。年金が足りないのは日本だけではなく、ドイツも同様だ。ドイツのストリートペーパー、『ヒンツ&クンツ』誌の元販売者に話を聞いた。
年金と生活保護でギリギリの生活を送る元販売者
スタチェク(仮名)は若い頃、ポーランドの海運会社に勤め、20年の月日を海上で過ごした。80歳になった今、月々200ユーロ(約2万9千円)の年金給付をもらっている。当時、雇用主から違法業務を強要されていたため、正規の年金保険料を支払えず、受給額は本来より少ない。清掃員として6年間働いていたことによる年金は、月に数ユーロだ。何とか生活できているのは、400ユーロ(約5万8千円)の生活保護があるから。また、理解ある友人宅を安くで間借りできているので、まだ助かっている。でも、「以前は毎年1〜2週間は田舎に帰れてたが、最近の物価高ではそんな余裕は全くない」と、あきらめなければならないことも多い。健康上の問題もあって、状況はますます厳しくなっている。
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ハンブルク市、貧困高齢者の割合が15年で倍増
スタチェクのように老齢になって困窮し、生活保護が頼りの高齢者はハンブルクだけで約5万人(ハンブルク市の人口は約178万人)。15年前と比べるとほぼ倍増だ。実のところ、支援を必要とする人はもっと多いとみられている。しかし、生活保護の受給資格がありながら利用していない高齢者は6割にのぼり、スティグマ(偏見)や周知不足、申請の煩雑さがその理由だ。「この街には、月末になると姿を見せなくなる人がいます。人と会って『お茶でもしませんか』と誘われるのを避けているのです。コーヒー代も残っていないのです」とドイツ社会協会のクラウス・ウィッチャー会長は話す。
名ばかり!?の基礎保障年金制度
労働社会相フーベルトゥス・ハイルは、目玉のプロジェクトとして基礎保障年金制度なるものを打ち出した。しかし、この年金を受給できるのは、対象となる職で最低33年働いたうえで、その他の要件も満たした人だけ。仕事をしていなかった期間がある人、短期の仕事にしか就いたことがない人、個人事業主だった人は受給資格がない。「恩恵を受けられるのは、高齢困窮者の約50人に一人くらい。あくまで補足的な給付金で、とても基礎年金とは呼べません」とウィッチャー会長は指摘する。
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統計からも明らかなように、特に女性は少ない年金額でやり繰りしなければならないケースが多い。ウィッチャー会長は、年金額の底上げ、男女間賃金格差の解消、育児や介護に費やした時間を就労期間とみなす等の対応が必要と訴えている。「単発の支給金では、ほぼ意味がありません。月々の年金を大幅に増額する必要があります」
市議会に求められる対応
これら連邦政府の介入が必要な政策に加えて、市議会でもできることがある。ミュンヘン市では、市の予算を使って年金額を10%上乗せしている。2019年、当時の政権は「データ不足」を理由にこの案を却下しているが、「言い訳にすぎない」とウィッチャー会長は一蹴する。「政治信念の問題で、必要な予算をつける意思があるかどうかです」。
公共交通機関の無料パス、スポーツ活動への無料アクセス、美術館の入場無料サービスなど、困窮者に配慮した施策を早急に講じてほしいと、具体案を社会保障事務所や政府に何年も前から訴えているが、実現には至っていない。
ドイツ・ディアコニー事業団(プロテスタント教会の社会福祉機関)で高齢者の貧困問題に取り組むマイケル・デイビッドは、年金受給を申請する際に「受給額が低い」と判明した場合に、社会福祉事務所に自動的に通知が届く仕組みをつくるべきと主張する。そうすれば、社会福祉事務所で、その人が受給できるほかの公的扶助を確認でき、必要な人に確実に支援を届けられると。このように今こそ、高齢者の“隠れた貧困”を未然に防ぐ具体策が求められている。
By Ulrich Jonas
Translated from German via Translators without Borders
Courtesy of Hinz&Kunzt / International Network of Street Papers
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