こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。先日行われたビッグイシュー基金主催の「【第3回若者応援ネットワーク研究集会】「見えない当事者」へ、情報をどう届けるか」のイベントレポートをお届けいたします。

Part.1はインターネットを使った自殺予防に取り組む、「OVA」代表の伊藤次郎さんです。

参考リンク:わずか150円で「自殺ハイリスク者」にリーチする:伊藤次郎さんに訊く、これからの自殺予防(2/2) | BIG ISSUE ONLINE

インターネットの力で自殺を減らしたい



伊藤次郎/OVA代表 インターネット・ソーシャルワーカー 2013年6月に若者の自殺が増えていることに問題意識をもち、ネットマーケティングによる自殺予防システム「夜回り2.0」(インターネット・ゲートキーパー)を日本で初めて開発、実施。


伊藤:私は今、自殺リスクが高い方にインターネットを使ってアウトリーチをして、自殺をしようとしている方の予防支援をしています。精神科ソーシャルワーカー(PSW)です。。1985年生まれなので、ギリギリ20代です(笑)

元々はビジネスマン向けのメンタルケアをしていたのですが、若者の自殺について意識が芽生えて、こういう活動をしています。去年(2013年)の7月14日から始まったばかりの活動で、任意団体として基本的にひとりで運営しています。協力者として、和光大学の末木先生と協同で研究などをしております。今回発表する取り組みについては、彼がWHOなどでも発表してくださっています。

2013年の6月に自殺対策白書というものが出ました。そこには全体の自殺は減ったのに、若者の自殺が増加傾向にあるということが書かれていたんです。これは問題だと思い、どのようにしたら彼らにリーチでするかを考えて、やはりスマホ、インターネットだと。

彼らは「死にたい」「自殺の方法」というワードを検索エンジンに打ち込むのではないかと思いまして、検索ボリュームを測ったら「死にたい 助けて」という検索エンジンに打ち込んでいる人が20万人いることが分かりました。

僕はこれにショックを受けました。リアルの世界で言えない悲痛な叫びを検索エンジンに打ち込んだのではないか。こういった声に対して、SEO、リスティング広告で対応できるのではないかと考えました。
仕組みについてですが、例えばスマホで「首つり 方法」、などの自殺関連用語を検索すると、私のサイトが出てきます。そうすると、私の広告が表示されて、彼らにお手紙が表示されます。そこで、私に連絡してくださいね、というメッセージを伝えています。ワンクリックでメールで相談できるようになっているので、ここで何らかの言葉を送れるようになります。最初は「助けて」くらいしかメッセージはないのですが、そこから概ねこのような文章を送っています。そこから支援を始めます。

自殺リスクの高い人は関係性が遮断されて孤独でいるわけです。1つの点という状態になっている。その点の状態にある人をインターネットを通じて私との関係性、線を作ります。関係性ができた時点で自殺リスクを下げることができるわけです。ただ、彼らが抱えている問題は解決しないので、リアルの資源に線をつないでいきます。

映写しているスライドが実際の成果ですが、7月14日〜10月31日の期間に、平均で約23歳、123名の相談者が来ました。全部で数千通のメールを送っています。自殺ハイリスク者にリーチする広告費用は、1人あたり約137円でした。



ネットでリーチするメリットとしては、まずは支援者と私自身のコストを下げています。夜回りなどをしても、自殺ハイリスク者一人にアウトリーチするのは大変ですが、ネットで自動化できています。

一番重要なことは、相談者のコストを下げたということです。電話サービスがありますが、あれはコストが掛かるものなんですよね。匿名性や地理の問題をネットは解決することができます。たとえば北海道で生活に困窮している方からも、メールをいただいたことがあります。活動を私の部屋から一歩も動かずにやっている。インターネットによってこれが可能になったということですね。

大事なのは相談者が状況をコントロール可能にする、ということだと思います。リアルな場だと、相談員がどんな人か分からず、相談に行ったら逃げられません。でも、メールだったら返さなければいいんです。もっとも、それだけメールで支援することには困難も伴います。

最後になりますが、今回のテーマは「見えない当事者へ情報をどう届けるか」という話だと思います。
私は、彼らの「情報を収集する」という行動パターンに注目してアウトリーチしていくことを考えました。「見えない相手にリーチする」ということを考えつづけてきた方がいると思います。それは社会福祉の人ではなく企業です。企業はマーケティング活動を通して、プロダクトを見えない当事者にリーチしているわけです。

そういった意味で、社会福祉に関わる私たちがマーケティングの手法を学んでいくことには、大きな意味があるのではないかと考えています。ありがとうございました。

part.2に続く