住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編 レポートpart.7を読む


住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編 レポートpart.8

司会:改めまして。第3部「市民が語ろう!!」住宅問題というところでみなさまから質疑を含めてお話いただければと思います。質疑やご意見等ありましたら、会場の方からお伺いさせていただければと思います。


ソーシャルワークと住宅支援をどのように関連づけていくか

オーディエンスA:今日は貴重なお話をありがとうございました。2点ほどお聞かせいただきたいです。

住宅扶助と住居の最低基準についてちょっと教えていただきたいのですが、住居の最低基準という問題で言えば、結局は生活保護の救護施設1人あたり3.3平米。これしか確固たるものがないように思うんです。誘導居住水準などいろいろありますけど、最終的には3.3平米。そうすると無料定額第2種の事業でいくと、そこはもう辛うじて上回るんですね。

たとえば私の遭遇したケースですと2DKを5つにベニアで区切ってそこに住まわせている貧困ビジネスがありました。1人当たりの面積は辛うじて3.3平米を上回るように設定しているんですね。そうすると厚労省のガイドラインを上回って、そこに規制できるかというとなかなか難しい問題があって、そのあたりの最低居住水準をどのように設定して規制していくべきなのか。どのように考えたらよいのかというのが一点目の疑問です。

もう一つは、家賃に生活保護の住宅扶助額を貼り付けて、実際劣悪な物件との差額はソーシャルワークなのだ、ということで「就労支援をやっているんだ」とかそういうことを言っているのですけど、中身はほとんどやっていない、そういう貧困ビジネスがありますが、そこを良心的なところはどうされているのでしょうか。そのあたり情報があれば教えていただきたいです。その2点です。

平山:私の方から1点目についてお話しします。住宅に関する公的政策には国交省系と厚労省系があります。貧困問題に対する対応では、厚労省系が中心になります。しかし、この系統の政策・制度には「建築物としての住まいをどうするのか」という視点がほぼ全くない。

厚労省は福祉、労働、社会保障などの問題を扱います。それらと違って、住宅は建築物です。この点についての認識が決定的に欠けています。ですから、厚労省系の住宅施策には、建築上の基準をどうするのか、という問題が入ってこない。

このため、生活保護を受ける人たちがどれほど劣悪な建物に住んでいても住宅扶助の満額が支払われ、大阪でも東京でも賃貸マーケットの劣悪な物件の家賃が住宅扶助にすり寄ってくるという現象が報告されています。

昨日の社会保障審議会の資料をみますと、住宅扶助を切り下げようとしている、ということが読み取れます。しかし、住宅扶助の額は、建物の最低基準がどうあるべきで、その基準を満たす建築に住むには、どの程度の支出が必要なのか、という検討をふまえる必要があります。

論理的に考えれば、そういうことになります。最低基準の家に住むには、どの程度の扶助が必要か。しかし、審議会の資料を見る限りでは、最低でもどういう建築が必要なのかの検討は弱く、とにかく住宅扶助を切り下げるという結論に向かっているように見えます。

では、建築物としての住宅の基準のあり方をどう考えればよいのか。国交省系の住宅政策では、最低居住水準という基準があって、この水準未満の世帯はなくしていく、というのが公式目標になっています。ですので、この最低居住水準が政策形成のうえで重要な指標になります。こういう基準が公的に定まっているというのは大事なことです。基準以上の住宅をみんなに保障しないといけないということが公式目標になり、そのためにどういう施策が必要になるのかが公的な問題になるからです。

ちなみに、先進諸国の家賃補助制度のほとんどすべては、建築物としての住宅に基準を設けていて、その基準を満たす建築に住む世帯に家賃補助を支給するという仕組みになっています。

アメリカは、貧困者の住宅対策が不十分な国です。しかし、このアメリカでさえ、バウチャーという方式の家賃補助制度をもっていて、そこでは、これこれこういう水準の住宅であれば、家賃補助を支給するという制度設計になっています。

この仕組みは、家賃補助を通じて、家主に住宅の物的改善を促すという効果をもっています。家主は、家賃補助をもつ借家人をお客さんにしようとするのであれば、住宅を一定以上の水準に保つ必要があります。家賃補助という政策は、貧困世帯を助けると同時に住宅建築の改善を刺激するインセンティブになるということです。この点に、所得保障一般と異なる、建築関係の施策としての住宅政策における家賃補助の独自性があります。

藤田:2点目のソーシャルワークを住宅とどのように関連、位置付けているのかというのはおそらく今後の課題だと思っています。住宅だけではケアがないと住み続けることはできない、という形はこれから相当数出てくると思います。養護老人ホームでも特養でも救護施設でも全く足りないですし、最近だと漂流老人とか居場所がない高齢者はこれからどんどん増えていきますので、居住でケアや見守りを入れていくソーシャルワーカーというのがやはり必要なのだろうと感じています。

これは本来ケースワーカーがやるべきだと私は思っているのですが、おそらくもうケースワーカーだけでも足りない状況になってくると思っています。これは前から日弁連でも生活保護を受けている方たちに対して、ケースワーカー以外の人が支援するのであれば自立支援給付という新たな項目を設けて、そういった人たちに住宅扶助費とは別に支給できるような給付を設けたらどうかということが提言されているんですが、財源がないので結局難しいという話になってしまいます。財源をどうするのかということを考えると。

来年できる生活困窮者自立支援法というところで一部そういった居宅で生活する生活保護受給者であるとか、生活困窮者をひとくくりにして相談支援するような、そういったものには一部分ですが、ほんとに微々たるものですが、補助金つけましょうというものができてきているので、そういったものを少しずつ活用して広げていくということが現実的なのではないかと思います。あとはソーシャルワークというものが必要なんだということが広まっていませんので、そういったものを周知徹底していくことが大事なのではないかと感じております。


貧困ビジネスと福祉の課題

オーディエンスA:聞きにくいのですけれども、藤田さんのところであればソーシャルワーク部分の対価というのはどういうふうにされているんですか?ボランティアですか?

藤田:ボランティアではないです。私たちのところは40世帯あるので40世帯の部分で大家さんと取り決めをして住宅扶助費部分に織り交ぜてもらっています。それだけでも全然足りない部分がありますからあとは会費、寄付、補助金でまかなっています。その内容でスタッフ4名の人件費を捻出している状況で、たぶんこれは、生活困窮状態の方を支援しようとなると、必ず財源の問題にいきついて、これは民間であればどこも避けて通れないと思うんですね。その部分で「貧困ビジネスとの差はいったい何なのか」ということに尽きるのですが、ソーシャルワークや社会福祉士がどのように目に見える形で支援していくのか、効果測定というのでしょうかね。そういうようなものも必要だと感じています。

阪井:今日はこのお話をするつもりはなかったのですが、三枚ほど写真があります。この方も生活保護をもらっている精神疾患をお持ちの方でした。この方はこの2DKの部屋に、20年住んでおられたのですが、生活保護のワーカーはこの部屋を訪ねているというお答えだったんですね。

これ、雨漏りしているんですね。雨漏りのせいで畳が腐ってシロアリが出たので畳を上げようとしたらこんな状態になったのです。私はこのことについて福祉事務所のワーカーに抗議をしました。何ヶ月前にあなたは部屋にいったんですか?という話をしたら、「お邪魔をしたらいらっしゃらなかった」ということでしたので「じゃ20年間いらっしゃらなかったんですか」と話をしました。

会場:(笑)

阪井:そうですよね?こういう信じられない現実はいろいろなところであります。もう少しソーシャルワーカーさんがしっかり頑張ってくれればなぁというのが私の思った感想です。

それからもう一つは、2DKの部屋を2部屋共同グループホームで使っていて、大家さんからは55000円で借りているんですけれど、入居者からは1部屋37000円(岡山の上限額)で貸しているケースがありました。(37000円×2=74000円)-55000円でその残りはどこに行ったのかな?というケースがありました。これについて私はどうともコメントはできませんけれども、福祉の方はもう少し考えくださったらどうかなというのが私の思いでした。


 

地域社会とのつながりをどう作るか

オーディエンスB:質問なんですけど、緊急の課題として住宅の供給、質と量とともにやはり考えなければいけないということはよくわかるのですが、物件の次はやはり社会との繋がりだと思うんです。

特に生活というのは、生きる、働く、暮らすという部分で人間の営みとしていちばん必要なところだと思うんですよ。自治会、子供会、老人会、となり近所の方を含めた地域とのつながりの中で、今なされているような活動は、どのような形で発展していけるのだろうか、またはどのような現実があるのかな、というところをお伺いしたいです。

阪井:今日お配りした中に「岡山入居支援センターのご案内」という本が入っています。1ページを開けていただきますと入居支援ネットワーク概念図というのが出て来ると思うんですが……実は私はこの概念図を使って、おひとりおひとりの入居を支えています。

岡山の取り組みは、その方が病気の場合は必要な病院、生活保護だったらケースワーカーさん、それから、民生委員さん、町内会、子供さんだと児童相談所。そういったものを一枚のカルテのようなものに組み立てています。その方たちに住みやすいように、何かあったときのために、貼ってもいいと思う人にその紙を、玄関に貼ってもらっています。

うちの物件は週に1回警察官に警邏してもらっています。警察の人に「きっとこういう人なんだろうな」と事前に察知できるようにもしています。地域にこういう方がいらっしゃるかもしれない、でもご理解くださいということで、地域とのネットワークを必ず組んでいます。

たとえば、ある人が仕事へ行く途中に体調を崩したとき、その時はケース会議を開きます。集まって開くときもあります。メールで会議をすることもあります。その人その人によって、さまざまな形で、その人が「孤立していない」「自分は見捨てられていない」ということを、まずその人の立場になって考えて、やっています。ケース会議は、月に50本ぐらいあります。1本1時間ぐらいですが。メールでやるケース会議も月100本ぐらいあります。その中には大家さんも不動産屋さんも入ります。

本人のことをすべて分かった上で、みんなが受け止めているんです。そうすると本人も苦しくないんです。黙って嘘をついて部屋に入るとどうでしょう。大家さんが来ただけでもう、薬が1錠いるんです。そういうことを全部私は回避したい。

本人がどうしても拒絶された場合には申し訳ないですけれどもご入居いただけないこともあります。でもほとんどの方は、大家さんが自分のことを考えてくださっているってことがわかったら、家賃の支払いが遅れることもありません。昔は、大家と店子は一心同体だったのですが、今は通常の繋がりしかないんです。そこをもう少し考えることができさえすれば、みんなが住みやすいところになると思います。

私は日曜日になると親から子供への虐待がないか、わざとあるアパートに草抜きに行ったりします。1時間もいれば「ぎゃー」という声があるかもしれない。そういうふうにみんなが少しずつ考えながらコミュニティーを作っていくことが大事ではないかなと思います。自己主張だけではなくてみんなとも交わる、人を受け入れるということを考えればみんなが住みやすいんじゃないかなと思います。答えになりましたか?


part.9に続く

住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編

part.1
徳武聡子さんが語る「追い出し屋問題」のいま:目立つ過酷な家賃取り立て

part.2

part.3


part.5


part.7

part.8
ソーシャルワークと住宅支援をどのように関連づけていくべきか?(本記事)

part.9

資料
「住宅政策提案書」:2013年11月1日