編集部より:NPO法人山友会が2015年、クラウドファンディングプロジェクト「無縁仏となってしまうホームレスの人々が入れるお墓を建てたい!」を実施しました。プロジェクトページより、吉間慎一郎さんの文章を掲載させていただきます。無縁仏の現状について理解を深める記事となっておりますので、ぜひご一読ください。
「無縁仏」の現状
孤独で亡くなり引き取り手のいない人の「無縁死」は年間3万2千人にのぼるといわれています。その中には名前さえわからない人が千人近くもいるのだそうです。
そうした人々は、誰も引き取る人がいないため、自治体によって火葬、埋葬されます。東京都の島を除く区市町村では、ここ5年間で行政が火葬や管理をする遺体の数は増加傾向にあるそうです。
自治体が火葬や管理を行う場合、多くは一定期間自治体で遺骨を保管し、その後合葬しているようです。近年では、無縁仏の増加により、無縁墓に入りきらなくなるケースも出てきています。そうした自治体の中には、遺骨を粉骨して合葬しているところも。
遺骨の保管年数を短縮する自治体も出てきています。保管する遺骨の数の増加、遺族が遺骨を引き取る例が少ないことなどが原因にあるようです。
弊会無料診療所の患者さんや、生活相談の相談者の方々など、弊会と関わりがあった方々で他界された方の写真を事務所に飾り、弔っています。
無縁死する人は家族や身寄りのいない人だけではありません。
むしろ、無縁死のほとんどが、身元が判明して家族がいるのに引き取られない方なのです。こうした引き取り拒否が近年急増しています。「関わりたくない」とか、「縁は切れている」、「もうしばらく会っていない」といったことが引き取り拒否の主な理由なのだそうです。
そうして引き取りを拒否された遺骨は、自治体の無縁墓地や、そこがいっぱいの場合は、そうした遺骨を受け入れているお寺に送られるのです。
最近では献体になった後で送られてくることもあるといいます。
献体は、医学部や歯学部の実習のために自分の遺体を提供することをいい、その多くは、生前に自ら献体となることを申し出る篤志体なのですが、篤志体で実習に必要な献体の数が集められない場合に、身寄りがなかったり、引き取り手がなかったりといった無縁死の方の遺体が用いられるのだそうです。献体として提供された方は自治体では無縁死として数えられておらず、3万2千人のなかには含まれていません。
生前から共同墓に入ることを決める人も多いようです。血縁がない人同士が入る共同墓は急増しています。先祖代々の家のお墓に入ったとしても、ずっとそのお墓が子孫に管理してもらえるとは限らない、疎遠だった親族と同じ墓に入るよりも、一緒に過ごした仲間と同じ墓に入りたい、といったことから共同墓に入ることを希望する人もいます。
共同墓は、遺骨を納めるだけでなく、そこに縁を感じることができる場所でもあるのです。
無縁仏となった遺体への自治体の対応
無縁仏となってしまったご遺体への自治体の対応は、法律によって定められています。身元が判明しない遺体を行旅死亡人と呼びますが、行旅死亡人は「行旅病人及行旅死亡人取扱法」、身元のわかる遺体は「墓地、埋葬等に関する法律」(墓地埋葬法)が適用されます。
行旅病人及行旅死亡人取扱法は明治32年に施行されたとても古い法律で、漢字とカタカナで条文が書かれていてとても読みづらい法律が、いまでも使われています。
その1条2項には、「住所、居所もしくは氏名が知れず、かつ、引取る者がいない死亡人は行旅死亡人とみなす」と書かれています。
そして、7条には、「行旅死亡人がいるときはその所在地の市町村が、その状況や容貌、遺留物件などの本人の認識に必要な事項を記録した後で、その遺体の火葬、埋葬をしなければならない」と規定しています。すでにご紹介した自治体の対応はこの規定に基づいてなされています。また、墓地または火葬場の管理者はこの火葬や埋葬を拒むことができないとされています。
さらに、9条には、「行旅死亡人の本人の認識に必要な事項を官報等に公告しなければならない」としています。官報には、毎日のように、しかも何人もの行旅死亡人に関する事項が掲載されています。そこに掲載されているのは、死亡した方の体格や推定年齢、所持品、衣服の特徴、発見時の状況などですが、この情報でどこまでその人の身元がわかるまでの情報が得られるかはわかりません。
身元のわかる遺体の取り扱いについては、墓地埋葬法が規定しています。
9条は、「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない」と規定しています(比較的新しい法律なので(とはいっても昭和23年施行ですが)条文は読みやすいですね)。自治体はこの規定に基づいて対応をしていることになります。
ちなみに、埋葬又は火葬は、原則として、死亡又は死産後24時間を経過した後でなければ行ってはならず(3条)、埋葬は、都道府県知事の許可を受けた墓地以外ではできず(4条1項)、火葬も同様の許可を受けた火葬場以外ではできないとされています(同条2項)。これらの規定に違反した者には罰則が科せられます(21条1号)。
(当会の無料診療所の患者さんのうち亡くなった方々の過去帳。1984年の活動当初から書き留めているものです。)
「死して孤独」という悲劇を乗り越えるために
無縁社会という言葉の広がりからもわかるとおり、私たちの社会は確実に変化をしています。コミュニティの消失、格家族化といった言葉がメディアをにぎわせています。
つまり、無縁死は決して他人事ではないということです。無縁死した人にもかつては家族がいたはずです。結婚して子どももいたかもしれない。いわゆる、「普通」の暮らし送っていたのかもしれないけれど、何かのきっかけで、社会的に孤立せざるをえなかったのかもしれません。それぞれの人生があったはずなのに、社会から孤立し、孤独な想いを抱えながら、死ぬ時も一人、さらには死んでからも行き場がないというのは、あまりに悲しいことです。
こうした現状は、「都市型限界集落」と呼ばれている山谷地域においては、より深刻です。この現実を少しでも改善したい。こうした想いがこのプロジェクトには込められています。
(吉間慎一郎)
【参考文献】
・朝日新聞「寺に宅配、『送骨』波紋身寄りなく…低価格で供養」(2013年12月29日)
編集部より追記:
このプロジェクトは、2015年1月24日(土)23:00に目標金額を達成し成立しました!
ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。