横浜市の児童いじめ被害、子どもが150万円を支払わされる。
教育委員会、「いじめ認定困難」、一転謝罪

東京電力福島第一原発事故の福島県以外への自主避難者(=避難区域以外からの避難者)に対する政治の「不作為」が、ついに子どもの被害を生んだ。神奈川県横浜市をはじめとして、新潟、群馬、千葉など、全国各地に避難している子どもに対するいじめ問題だ。

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「いじめを認めて対策を」と記者会見で訴える「横浜いじめ放置に抗議する市民の会」=1月26日



横浜のいじめ問題の経緯は次のような内容だ。
問題が明らかになったきっかけは昨年11月の新聞報道だった。

原発事故後の2011年8月に福島県から横浜市の小学校に転入した児童(現在は中学1年生)が、この6年間、繰り返しいじめ被害に遭っていたことがわかった。転校直後から、「〇〇菌」と呼ばれたり、鬼ごっこの鬼をやらされるなど、教室でのいじめやからかいが始まり、帽子がなくなったり、鉛筆が折られることなどが続いた。その都度、保護者が学校に解決を訴えてきたが、いじめがなくなることはなく、さらにエスカレートして深刻になり、その児童は小学校3年の6月から10月まで不登校になった。

自主避難者であるため東京電力から賠償金は受け取っていないが、5年生になると、他の児童から「賠償金あるだろ」と言われ、複数回にわたって、地区のゲームセンターなどで10人程度に、1人5万円から10万円、合計で150万円を払わされた。市教委の調査に対して被害児童は「今までにされてきたことも考え、威圧感を感じて、家からお金を持ち出してしまった」と話した。その後、小学校卒業まで再び不登校になった。

すでにいじめを超えて犯罪行為が疑われる状況だが、訴えを受けていた学校や教育委員会の対応は遅れた。今から約1年前の16年1月。児童と保護者と代理人弁護士が申し入れ書を提出して、ようやく「横浜市いじめ問題専門委員会」を設置したものの、加害者の子どもから直接話を聞くことはせずに「小学校から提出された書類だけで充分である」(調査報告書)という甘い調査。その内容も市議に迫られて開示するなど、終始及び腰。教育委員会は「金銭授受をいじめ認定するのは困難」としていた。

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市の教育委員会に署名を添えて要望書を提出する母親ら=1月26日

6年間にわたり、断続的にいじめの被害に遭い、不登校になった避難の子ども。「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」と代理人弁護士を通じて手記を公表した。

神奈川県内の自主避難世帯、28%の子どもがいじめ被害

筆者は11年以降、全国各地に避難している子どもで、同じようにいじめに遭っている児童、生徒の話を聞く機会があった。言葉のなまりをからかわれたり、転校により学校環境が大きく変わり、ついていけないことをきっかけに、いじめられたりしていた。すべてがそうではないと信じたいが、この中には、横浜市同様に学校や教育委員会、現場の教師が事実を無視したり、軽視するケースがあった。

首都圏に避難し、子どもがいじめを受けていたあるお母さんは言う。「いじめの問題は、表に出ないだけで、避難直後からかなり起きている。ほとんどの自主避難者が国や自治体から支援も賠償金も受けていないのに、『多額の賠償金を受け取っている』ような誤解が流布していて、それが子どもたちにも誤ったまま伝わっている」

「福島原発被害者支援かながわ弁護団」は昨年12月、神奈川県内の自主避難者による原告世帯でのいじめの被害調査を発表。子どもがいる29世帯のうち、8世帯、約28%の家庭の子どもがいじめに遭っていた。社会全体が、原発事故の避難者に牙を向けているかのような「避難者いじめ」は、氷山の一角だ。
こうした事態を受けて、支援者による「横浜いじめ放置に抗議する市民の会」が立ち上がった。1月26日、林文子市長と岡田優子教育長に対し、1898人の署名を添えて、いじめを認めるよう要望書を提出。井上菜穂子共同代表は「これがいじめでないなら、何がいじめというのでしょうか」といじめ問題の深刻さをしっかりと認識することと、解決を求めた。同時に「いじめられても、命を絶つという選択肢を絶対に取らないで。いじめは絶対にいけない」と被害、加害児童に呼び掛けた。

これを受けて同日、林市長は「子どもに寄り添うべきだったと反省している」、2月13日には岡田教育長も「いじめの一部と認識した。気持ちを受け止められなかった」などとそれぞれ謝罪したが、問題の解決は実のところ、まだ緒についたばかりだ。

 (文と写真 あいはらひろこ)

あいはら・ひろこ

福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。

ブログhttp://ameblo.jp/mydearsupermoon/


*2017年3月15日発売の307号より「被災地から」を転載しました。
 




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