米トランプ政権がメキシコ国境からの移民取締りを強化する一連の大統領令を発令した。税関・国境警備局が逮捕する不法移民のうち、約半数は中米からの家族連れや同伴者のいない子どもたちという現状にあって、この大統領令の影響を強く受けるのは中米出身の子どもや若者たちだ。

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2012年より、同伴者なくアメリカに入国しロサンゼルスで不法滞在を続ける若者を対象に徹底的観察とインタビューを実施しているステファニー・L・カニザレスが、その調査結果を報告する。

メキシコ国境で逮捕される子供たちの数は約15万3千人

メキシコ国境では2014年以降、メキシコおよび中米諸国から同伴者なしに越境してきた子どもたちが約15万3千人も逮捕されている。税関・国境警備局で拘留され、難民再定住室(Office of Refugee Resettlement)で手続きを受けた者の6割は身元引受人(ほとんどは両親)に引き取られているが、残りの4割は親以外の引受人に斡旋される。

両親あるいは保護者に引き取られた者は、経済的・法的・健康的・社会的サポートを受けられるが、捕まることなく入国し、同伴者がいないまま不法滞在を続ける若者たちは、経済的に依存できる者もおらず、公的な再定住支援サービスも受けられない。

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トランプ政権が同伴者のいない子どもらの強制送還を最優先する大統領令を出したことで、アメリカ国内に暮らす移民の子どもたちはこれまで以上に危険な状況へ追い込まれそうだ。
私は、同伴者なくアメリカに入国し、ロサンゼルスに不法滞在している若者らを対象に2012年より徹底的な観察および取材を実施している。調査対象者は無許可で居住・労働しているため、機密保持の観点から偽名を使用している。

評論家や学者は、若者の移民は「学生」、成人の移民は「労働者」という枠にはめたがるが、同伴者なく入国した若者というのは自分で生計を立てなければならず、低賃金の職務に就かざるを得ない。継続的な調査をおこなうことで、同伴者のいない若者たちが労働搾取に直面していることが明らかとなった。その上、最近の大統領令により、彼らの不安定な労働環境はさらに悪化すると考えられる。

職場での暴力にも口を閉ざし、黙々と手を動かすのみ

そもそも不法移民として働く若者たちは、母国にいる家族を支えたいという思いでロサンゼルスにやって来る。教育レベルは低く、英語もほとんど話せない。
15歳でグアテマラから移住してきたロメロは、入国後すぐにLAガーメント地区の工場で仕事を探したという。当時の面接を思い出して言う。
面接官から「経験はあるのか」と聞かれ「ある」と答えたら、「まだ子どもだろ。学校に行きなさい」と言われた。そら学校に行きたいさ。だけどお金を出してくれる人なんていない。僕ひとりでやってかなきゃならないんだ、そう内心で思ってました。

ロメロのように保護者のいない未成年の多くは、衣料製造業、サービス業、建設業、家事サポートなどの仕事に就く。縫製業で働く若者の賃金は、週60時間超働いて平均350USドルほどだ。

縫製工場で働く不法移民の若者たちは、薄暗い工場での長時間労働を強いられる。工場主らは立ち入り検査が入らないよう、就業中でもドアや窓を閉め切って工場を極力目立たないようにしている。換気は悪く、工場内の機械から発生する熱や騒音がこもる空間。過酷な労働スケジュールから、子どもたちは肉体的・精神的にもへとへとに疲れ、頭痛・眼精疲労・腰痛などで学校にも通えなくなる。

彼らは一緒に働く大人たちと同様、経済的困窮、そして解雇や国外退去を恐れて、労働搾取が横行していようとも口を閉ざし、黙々と効率良く業務を遂行する。同じ工場で働く3人の若者が悲しそうに口を揃えて話をしてくれたのだが、エルサルバドル人の若い女性がドレスの縫う位置を間違ったことで工場長から床に押し倒された時にも、仕事を失いたくない思いから誰も彼女を助けることができなかったという。

2017年2月初旬、国土安全保障省は米国内12州の職場およびその周辺地域でターゲットを絞った取締りを行い、680人の移民を逮捕するに至った。ロサンゼルスはじめ移民が多く住む地域でおこなわれる強制捜査でにらみ合いが強まっており、労働者たちはただでさえ危なっかしい労働環境をくぐり抜けなければならない状況にある。

今回の研究により、強制送還は子どもたちの精神衛生に悪影響を与え、家族の経済状態を逼迫させることが分かった。2008年にはアメリカ史上最大規模の移民強制捜査が実施され、中米からの労働者(未成年者を含む)が数百人単位で摘発された。こうした取り締まりは、不法滞在している子どもたちの精神衛生および不安定な経済状況をさらに悪化させる。

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困難を乗り越えられたら、地域社会に恩返ししたい

この調査を通して、アメリカで生き抜く術を模索する中で薬物やアルコールに溺れ、ホームレスを経験し、鬱や不安障害に見舞われた若者に数多く会った。彼らはトランプ大統領が「悪いやつら」呼ばわりするような人物像とはほど遠く、困難な状況を克服したいという熱い気持ちがわたしとのやりとりにも溢れ、日々を懸命に過ごしている。事実、多くの若者が自分の家族や地域への責任を果たすべく、職場での暴力に粘り強く耐えている。
17歳でエルサルバドルから移住し、現在22歳になるベレニセは言う。
私は悪意を持って来たわけじゃない。誰かの重荷になりたくて来たんじゃない。

19歳のエルサルバドル人青年もこのように話す。
中米からの移民はギャング呼ばわりされるが、僕たちはみんな夢をもってアメリカに来たんだ。自分の家族を助けたい。自分たちの国に仕事がないから出稼ぎに来てる。わがままなんかじゃない。助けたい一心なんだ。
彼らは、教会・読書会・支援グループ・趣味のスポーツチームなど、さまざまなコミュニティ活動にも参加している。
アメリカ生活9年目という25歳のグアテマラ人青年は言う。
大切なのは、みんなで協力して互いを支え合うこと。困った時は誰かに助けてもらいたいし、自分も誰かを助けたいんです。困難な時に手を差し伸べてくれた人がいたから、私も誰かの力になりたいと思っています。おかげでトラウマを克服できたのですから。


若者たちは仕事を通して道徳的アイデンティティを構築する。その上で地域経済に参加し、団体組織や地域サービスを通じて地域社会に還元する。国を越えたコミュニティ活動にも献身的に取り組んでいる。

16歳でロサンゼルスに移住し、現在24歳になる青年はこの度、英語語学学校の受講を断念したという。一番下の弟がアメリカに移住し学校に通いたいと言い出したから、母国に残る家族への送金を数ドル増やすためだ。彼は言う。
弟にはアメリカでこんな辛い思いをさせたくない。

文:ステファニー・L・カニザレス
翻訳監修:西川由紀子
※写真はイメージです。本文は関係ありません。

University of Southern California, Dornsife College of Letters, Arts and Science博士候補生 The Conversationのご厚意により / INSP.ngo
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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