東京電力福島第一原発事故は予測され、防ぐことはできたのか? 被告の東電役員の責任は? 数えきれない人々を巻き込み、生活や人生を一変させた史上最悪の原発事故をめぐる世紀の裁判が始まった。

317hisaichikara2
初公判の開廷を前に行われた原発告訴団のアピール(6月30日、東京地裁前)


「不起訴不当」の検察審査会の議決
検察役指定弁護士が3被告を起訴

 原発事故に伴い避難した大熊町の病院患者や介護老人保健施設入所者44人が死亡した事件で、業務上過失致死傷罪に問われた東京電力の事故当時の会長ら役員3被告の初公判が6月30日、東京地裁で開かれた。

 検察官役の指定弁護士は、東電社内でやり取りされた200通をこえる内部メールや、津波対策を具体的に検討しながら見送られた原子炉建屋を囲う防潮堤建設の図(子会社作成)など、これまでに明らかにされなかった内部資料を提示。これらをもとに「被告が対策を講じていれば事故が防げた」として、有罪を主張した。

 一方、被告の勝俣恒久・元会長、武黒一郎、武藤栄の両元副社長は、謝罪ののち「事故は予測できませんでした」と述べ、被告側弁護士も「津波の予見可能性も、事故の回避義務も認められない」などと無罪を主張した。

 公判は今後、証拠調べや証人尋問などが行われる。このなかでは、津波被害を予見でき、対策を講じていれば防げた事故であったのか、どうか。そこでの3被告の関与をはじめ、東電や政府など関係機関の対応の経過と責任の所在がどれだけ明らかになるのかが注視される。

 この日の初公判は、福島県民ら住民の刑事告訴を、検察庁が2度にわたって不起訴処分としたのち、検察審査会で「不起訴不当」の議決を受けて、検察官役指定弁護士により3被告が強制起訴(※)されて開廷された。事故から6年、告訴からすでに5年も過ぎている。この間、遺族や告訴人だけでなく、原発からの放射能を避けるために避難した人々、環境汚染に伴って影響を受けた農家や漁民など、計り知れない人々が、自分たちの生活と人生に影響を与えた史上最悪の原発事故の真相を知りたいと願い続けてきた。

正義とは、真相とは、責任者は誰か-告訴人、告発人は1万人余

 公判では検察官側に被害者参加制度で遺族が座ったほか、傍聴席には福島県民の姿が多数あった。事故前後の原発施設と、それを動かす東電や関係機関の安全管理の仕組みや役職員の役割がブラックボックス化されたままの中で、どれだけ真実が明らかにされるのか。国民の知る権利を実現する最後の砦としての公判に期待がかかる。

 初公判後の集会で原発告訴団の共同代表の武藤類子さんは「ようやく刑事裁判が始まったが、昨年、一昨年にも多くの被害者が裁判での責任追及を見ずして、亡くなっている。その無念を胸に、最強の検察官指定弁護士たちを支援し、公正な裁判が守られるよう、注目してほしい」と語った。

 7月17日にはいわき市内でも、原発告訴団主催による報告集会が開かれた。同じく原発告訴団の共同代表で、津波で叔母を亡くした佐藤和良さん(いわき市議)は、検察審査会による議決で強制起訴になった経緯に触れ、「国民、市民から選ばれた22人の方(検察審査員)が、法治国家として瀬戸際まで追い詰められた状態から、正義とは何か、真相とは何か、責任者は誰かを満天下に明らかにする土俵を切り開いた。この刑事裁判は、市民・国民自らの手で勝ち取った刑事裁判であることを確認したい」と意義を語った。

317hisaichikara1
海渡弁護士による初公判の解説が行われた集会(7月17日、いわき市内)

 その上で「1万余の告訴人、告発人をはじめ国民が、甚大な犠牲を出し続けているこの事故の責任は、誰が負うべきなのか、注目している。被災者、避難者の救済はここから始まるのだと思う」。  海渡雄一弁護士が公判廷の流れや検察官指定弁護士が提出した証拠について解説し、質疑応答や参加者によるアピールも行われた。

※ 検察が不起訴と結論づけた事件に対し、市民の判断で起訴しうる仕組み。検察が不起訴処分とした被疑者に対し、一般人で構成する検察審査会が二度にわたって「起訴すべきだ」と議決した場合、強制的に起訴できる。 (あいはら ひろこ)

あいはら・ひろこ

福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。

ブログhttp://ameblo.jp/mydearsupermoon/


*2017年8月15日発売の317号より「被災地から」を転載しました。
 




過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。