「ホームレス問題はもはや戦争犯罪」強い口調でそう言い張るのは、活動休止中のロックバンド「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(以下RATM)」のギタリスト、トム・モレロだ。2016年の米大統領選に合わせるかたちで、アメリカを代表する他のロックバンド、サイプレス・ヒルおよびパブリック・エナミーのメンバーらとともに「プロフェッツ・オブ・レイジ(Prophets of Rage)」というバンドを結成した。彼らが目指すのは、体制から権力を取り返し、ホームレスの人々に支援の手を差し伸べること。

※この記事は2016年10月20日にINSPに掲載された記事を翻訳したものです。

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(左から順番に)『プロフェッツ・オブ・レイジ』のメンバー、DJ ロードとチャックD、トム・モレロと一緒にポーズをとる米国・ワシントンD.C.のストリートペーパー『ストリート・センス(Street Sense)』の販売者で自身もラッパーのロナルド・ダドレー(a.k.a.Pookanu)と編集長エリック・ファルクエロ
Credit: Rodney Choice



プロフェッツ・オブ・レイジの活動を「政治的」とひと言で片付けるのは十分でない。ABCテレビ、スタンダップコメディアンで人気テレビ番組司会者のビル・マー、ローリング・ストーン誌などは、錚々たるメンバーで結成されたこのバンドを「スーパーグループ(*1)」と呼ぶが、トム・モレロは直ちにこれに反論する。
俺たちは、大統領選があるこの年に次から次へと起きるバカげた現実に立ち向かうと決めた革命的ミュージシャンの精鋭部隊なのさ。

権力を取り戻し、社会の底辺から変化を起こそう!

「アメリカに再び怒りを(Make America Rage Again)」と題した彼らのツアーが共和党候補ドナルド・トランプを批判していることは明らかだが、だからといって彼らは民主党候補ヒラリー・クリントンを支持しているわけでもない。民主党乗っ取りを試みたバーニー・サンダーズ議員に一目置いてるまでだ。

プロフェッツ・オブ・レイジの主張は保守的だ。破綻してしまった体制はもはや内部からは修復不可能なのだから、社会の底辺、大衆、文化から変化を起こそうと言うのだ。

それぞれのバンドで革命的な楽曲を作ってきた彼らだが、その歌詞の多くがかつてないほど現実問題と直結しているとメンバーらは感じている。

こんな言い方をすると、共和党全国大会での抗議集会の日にデビューシングルを発表したバンドの単なる宣伝に聞こえるかもしれないが、メンバーは史上最も世論を二分させた今回の米大統領選でどちらかの陣営に肩入れしているわけではない。それよりも、各陣営に対する不満を超党派的な動機に変え、社会分裂や現状維持のためではなく抜本的変化を起こそうというのが彼らの主張だ。

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プロフェッツ・オブ・レイジの3人にインタビューする『ストリート・センス』編集長エリック・ファルクエロ(右端)と販売者ロナルド・ダドレー Credit: Rodney Choice

パブリック・エナミーのリーダー、チャックDは音楽活動以外でも「ロック・ザ・ヴォート(Rock the Vote)」という若者の選挙参加を支援するNPO団体の全国代表や大学生向け講演活動をおこなっている。
https://www.rockthevote.com/ (英語)

誰が大統領になろうが、彼/彼女はひとりの人間であることに変わりない。有権者が4年に1度投票し、たった一人の人間に何もかもを解決してもらおうと期待するだけでは不十分。それよりも自分たちが日常レベルで互いに助け合い、権力を自分たちの手に取り戻すべき、というのがチャックDとモレロの考えだ。

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ロナルド・ダドレー(右端)の質問に答えるトム・モレロとDJ ロード。Credit: Rodney Choice

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チャックD (左端) とトム・モレロ(右端)と出会い握手するロナルド・ダドレー(中央)。Credit: Rodney Choice

ホームレスの人々が多く暮らす街で無料ライブを敢行

そうしたポリシーを踏まえ、プロフェッツ・オブ・レイジが前面に打ち出すのは経済格差だ。クリーブランドでの共和党全国大会中に行われた抗議デモ「End Poverty now(貧困に終止符を、の意)」で演奏する前には、ロサンゼルスのとある建物の屋上でスキッド・ロウ(*2)に暮らす路上生活者のためだけに、宣伝なしで無料ライブを敢行した。「手錠ではなく鍵を」「下がれと言われれば反撃だ」と書かれた垂れ幕を下げて。
スキッド・ロウの多くの連中が、プロフェッツ・オブ・レイジをコミュニティーに迎え入れたことに大喜びしていた。
そう感想を送ってきたのは、ロサンゼルス・コミュニティー・アクション・ネットワーク(LA CAN)のコミュニティ主催者兼コーディネーターを務めるエリック・アレスだ。彼らが作るストリートペーパー「The Community Connection」もINSP(国際ストリートペーパーネットワーク)に加盟している。スキッド・ロウでのライブの垂れ幕には“LA CAN”のロゴがプリントされていた。
普通のコンサートではなく、ホームレス状態を犯罪として扱うことを終わらせるためにホームレスや極貧の状態の住民たちが団結する機会となった。プロフェッツ・オブ・レイジの売名行為なんかじゃなく、皆で団結して、スキッド・ロウが直面している諸問題に注目を集めるためだったのさ。もちろん音楽も最高だったけどね。
アレスは言う。

その3週間後には、カリフォルニア州立刑務所にて700名を超える模範囚の前でパフォーマンスすることになっていたプロフェッツ・オブ・レイジだが、地元CBSニュース系列の報道によると、この計画は土壇場でカリフォルニア矯正局から物言いがつき流れてしまった。そこで、メンバーらは刑務所の塀の外に路上ステージをつくり、建物の中まで聞こえる大音量で3曲を短めバージョンで演奏した。当プログラムのパートナーで入所者に楽器を届ける活動をしているNPO「ジェイル・ギター・ドアーズ」(*1)への楽器寄贈もおこなわれた。

ツアー収益の一部は各地域のホームレス支援団体に寄付

2016年8月19日から、プロフェッツ・オブ・レイジは首都ワシントンD.C. 近郊のフェアファクス・イーグル・バンク・アリーナを皮切りに北米ツアーをスタートさせた。曲の合間には、サイプレス・ヒルのB-リアルと、チャックDが聴衆に呼びかける。
自由のために戦え!
自分のために考えろ!
拳とピースサインをかざせ!
ライブ途中、トム・モレロが今夜の売り上げの一部はワシントンD.C.のホームレス支援NPO「ブレッド・フォー・ザ・シティ」に寄付することを発表すると、アリーナを埋め尽くした1万人から大きな歓声が湧き起こった。
明日からは、自分の家、学校、地域、職場、国、世界、どこであっても、自分が暮らしたいと心から思える世界にするために戦うんだ。誰かに謝る必要も妥協も要らない。すべてはおまえら次第だ!
NPOの活動ミッションを紹介すると、モレロが観衆に向かっていった。そしてバンドは、この夜のラスト5曲を立て続けに演奏した。

このように、売上がその地域のホームレス支援団体に寄付される仕組みは、今回のツアーでまわる全ての会場でおこなわれる。

寄付を受けたブレッド・フォー・ザ・シティ代表のジョージ・A・ジョーンズは本誌にコメントを寄せた。
私たちの活動をさまざまな創造的な方法で支援してくださるパートナーの皆さまに感謝しています。活動資金を集めることはとても重要です。それがあってこそ、私たちがこの街で実施している数々の貧困対策を知ってもらうことができるのですから。プロフェッツ・オブ・レイジが寄付先としてわたしたちを選んでくれたこと、そして大勢の観衆の前で勇気づけるメッセージを述べてくださったことを光栄に思います。
こうした支援活動はプロフェッツのメンバーにとって新しいことではない。

パブリック・エナミーは2009年にワシントンD.C.での「Sasha Bruce Youthwork」というイベントや、2012年にはロサンゼルス・コミュニティー・アクション・ネットワーク主催のスキッド・ロウ支援イベントで演奏している。RATMは2010年に英国のホームレス支援団体「シェルター」のために16万2千ポンド超の寄付を集めた。2016年7月には、ベース担当のティム・コマーフォードが自身の別のバンド「ワクラット(Wakrat)」と海外公演をおこない、「シェルター」に追加寄付をおこなった。それ以外にも、RATMは長年、いくつかの若者ホームレス支援団体をサポートしている。ドラム担当のブラッド・ウィルクはRATMの活動とは別に、トム・モレロとサージ・タンキアン(アルメニア系アメリカ人のシンガー・ソングライターで活動家)によるNPO「Axis of Justice」が企画したチャリティーショーに参加し、フードバンク支援にあてた。サイプレスヒルも2008年にホームレス問題に取り組む「シカゴ・アライアンス」の慈善プログラムに出演したことがある。

(訳注)
*1 スーパーグループ: 結成以前から各メンバーが相応の実績や実力、知名度を有していたミュージシャンが集まって作られたバンドに使われることば。
*2 スキッド・ロウ:ロサンゼルス市ダウンタウンの中心部にある地区名。路上生活者が多く住み、犯罪多発地区とされている。

インタビュー後編はこちら

Prophets of Rage - Prophets Of Rage (Official Video)





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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。