日本人の主食、コメ。あなたはコメの品種をどれだけご存じだろうか。

コシヒカリ、ササニシキ、あきたこまち、ゆめぴりか、ひとめぼれ、つや姫…。10種類以上挙げられる人はなかなかの通かもしれないが、じつは日本全国の都道府県では合計300種ほどのイネのタネがストックされており、農家はそこから自分の水田に合った品種を選んで育てていることはあまり知られていない。



 しかしいま世界では種子企業がタネを独占しつつあり、日本の「コメ」の「タネ」も例外ではない。種子法が2018年3月で廃止になったことを受け、『ビッグイシュー日本版』336号では「コメ」と「タネ」を見直す特集を展開。

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原原種の植え付け風景 Photo:横関一浩

次世代にタネを残すため、1回ずつ10年がかりの慎重な作業が行われている

「米粒=タネ」じゃないの?と思う人もいるかもしれないが、話はそれほど簡単なわけではない。 全国の都道府県は地域の条件に適合したイネのタネを農家に供給するために、品種改良と試験栽培をし、そのタネで栽培されたお米が私たちの食卓にのぼる。品種改良、品種の選定、選ばれた種を増やし、食卓にあがるまで、およそ10年近くかかっているという。

なかでも、おおもとのタネ「原原種」を栽培するには、種たちが交じり合わないよう特別な方法が採られていると茨城県農業総合センター農業研究所の担当者はいう。たとえば……

・タネを栽培する圃場での田植えは手植え、収穫も手で刈り取り、干すのも天日干し
・違った品種、同じ品種の系統など、百を超えるタネを圃場に植えるので、機械は使わない
・こぼれ種との交雑のリスクを避けるため、圃場の畑と水田は交代しながら3年に1度だけ種採りに使う
・田植えの後も、除草、間引き、刈り取り、脱穀・選別にかかる人手は気が遠くなるほど
(詳細は『ビッグイシュー日本版』336号特集にて)。

コメのタネは戦後70年、「種子法」に守られ、このような慎重な作業を経てきたおかげで、私たちは食卓でおいしい白ご飯をいただくことができていることを忘れてはならない。


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©photo-ac 

地域ごとに合ったタネの選定がなくなるとどうなるか?

30年ほど前は、野菜のタネは100%国産だったが、現在は9割が輸入に頼っている状態だ。いつの間にか大手の種子会社が固定種を集めて交配し、海外でも作られた新しい品種(F1種)を作って販売するようになった。このタネは、1 代目は収量性が高く性質もそろうが2代目は異なる性質が現れるため、種をとる自家採種には向かない。つまり、花が咲いて種(子ども)ができても親と同じ性質を持っているわけではないため、農家は種を買い続けるしかなくなる。

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©photo-ac

種子法が2018年3月で廃止になったことを受け、野菜の種と同じことが米にも起こるのではないかと懸念されている。

地域ごとに合ったタネの選定がなくなり、民間が種をコントロールするようになるとどうなることが懸念されるだろうか?
1.多様性が失われ、災害や気候変動に対応できない
2.タネの価格が上がり、コメの価格も上がる
3.どの地域においても病気に強く倒れにくい品種のタネが作られ、肥料、農薬をセットで購入しなければならなくなる
(詳細は『ビッグイシュー日本版』336号特集にて)

タネは人類、すべての生物の共有財産のはず。タネや農法も含めて、我々は次の世代に何を残せるのだろうか。

自殺者も出かねない、えげつない「種子」ビジネス

育てた作物からタネを採ると罪になる―?
いま、世界中で大手種子企業による種子の独占が進んでいる。「日本の種子(たね)を守る会」事務局アドバイザーの印鑰智哉さんは、農民から種子を奪い、種子企業(多国籍企業)の権利を拡大する動きが全世界で進んでいると話す。すでに世界の種子市場の約7割弱、農薬の8割弱をわずか6社の企業が握り、今後、独占企業間の買収合併も進み、独占はさらに強まりますとも。

かつてインドでもグローバル企業が遺伝子組換え綿花を展開したものの、高価な種子と農薬と肥料を借金して買った農家が不作で返済できず、自殺が相次いだ。農民から在来種を奪えば、同様の悲劇が各地で起こる危険性がある。ちなみにインド政府はその後、在来種の種子を再供給することを目指しているという。

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©photo-ac

このタイミングで、なぜ日本は「種子法」を廃止したのか。私たちが命を守るために取れる選択の余地はあるのか、考えてみたい。

ビッグイシュー336号ではこのほかにも、

・スペシャルインタビュー:「万引き家族」主演 リリー・フランキーさん
・国際:ドイツ、フードバンク「ドイツ人優先」で国内騒然/“受容と寛容”の「クィディッチ」とは?『ハリー・ポッター』から生まれた新しいスポーツ
・「ダイバーシティカップin 関西」を初開催
・ワンダフルライフ:土器片をクッキーに変換した「ドッキー」おかし作り考古学者下島 綾美さん
・ホームレス人生相談:11歳男子からの「星はたくさんあるのに宇宙人はいないのですか」の相談
など盛りだくさんです。

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『ビッグイシュー日本版』の「タネ」関連号

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世界44ヵ国の市民と連携して「タネの銀行」を広げてきた「ザ・シード・セイバーズ・ネットワーク」を紹介。
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https://www.bigissue.jp/backnumber/295/






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