2017年8月に米国テキサス州を襲った「大型ハリケーン・ハービー」は、人々の住む家をあっけなく奪い去っていった。しかし、ハリケーン以前から家の無い人、不安定な生活を送ってきた人たちはどうなるのか。
オーストラリアとニュージーランドでホームレス支援を行っている163の団体に調査したところ、ホームレスの人の約3分の1が異常気象によって更なるトラウマに苦しめられているとのこと。さらに回答者の19%が、彼らの支援対象者がホームレス状態に陥ったそもそもの原因は「異常気象」と回答した。
オーストラリア法務省の代理でメルボルン拠点の独立系ニュースメディア『The Conversation』が実施したこの調査では、アンケート調査、個人インタビュー、ホームレス経験者を含むグループインタビューに加え、ホームレス支援スタッフや緊急時サービス関係者にも話を聞いた。
結果、ホームレス経験者の39%が「異常気象」が原因で家を失っていたことが判明した。
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不安定な生活環境
国内外のメディアで気象災害が報じられる時、「何軒の家屋が被害を受けたか」が注目されるが、ホームレスの人々にとって「家」が意味するところはもっと広い。調査で着目したのは、すでにホームレスの人もしくはそのリスクがある人たち。 つまり、路上生活者、カウチサーファー(他人の家を転々とする人)、トレーラーハウスなど無防備ともいえる状態で暮らす人、家庭内暴力から逃げ出した人など幅広い人々が含まれる。
こうした人たちは、持ち家なり賃貸なりの「家」がある人や、収入や保険など財政的安定が確保されている人たちよりも異常気象の影響を受けやすい。社会からの孤立、精神疾患、薬物乱用、失業などの問題に悩まされる可能性が高いため、事態が深刻化しやすいのだ。
彼らは回答した。テント、トレーラー、一時的な寝床としていた輸送用コンテナやダンボールシェルター、野外で使っていた毛布や寝袋を天災の際に失ったと。 ホームレスコミュニティにとって「住まいを失う」とは、これまで安全に眠ることができていた場所が泥や雨に浸かり、辺り一帯が乾ききるまで使えなくなるケースもある。
住まいを失うことのインパクトは、人々の健康を考える上でとても重要だ。 異常気象に見舞われると、こういった人々はとりあえず教会や公衆トイレなどに身を寄せる。 一時的に雨風を凌ぐことはできても、やがて立ち退きを命じられる、暴行を受けるなどのリスクがある。
調査回答者の19%が、自然災害がホームレス状態に陥った要因と回答した
ホームレス支援団体のスタッフが、山火事に遭ったある男性の話をしてくれた。彼はかつて農場の管理人として生計を立てていましたが、山火事に遭い、家を失いました。そこには支援団体がなかったので遠く離れたアデレード の街まで歩き、数日間、公園で寝泊まりしていたところ、警察が私たちのところへ連絡してきたのです。異常気象は住まいを奪うだけでなく、精神疾患を引き起こす、体調を悪化させることもある。 地域支援団体の報告によると、ホームレス経験者の30%が災害後に精神的トラウマを抱えていた。
こうしたインパクトを考えると、住み家を見つけるお金やリソースが足りていない人たちにとって、異常気象がどれほどの苦境をもたらすかが分かる。
コミュニティとして支援できること
適切な避難場所の提供が極めて重要である。家を失い、悪天候下に置かれた人々にとって、手頃な価格で長期的に滞在できる施設、洗濯機やシャワーが使える「ドロップインセンター」の不足が最大のリスク要因だった。 我々が調査した異常気象の25%で、家を失った人が利用できる公共施設が存在していなかった。気象情報や警報にアクセスできることも大切だ。 調査からは、ホームレス状態にある人の50%が警告を受け取っておらず、45%が異常気象が起きた際にどう行動すべきかについての情報を持っていなかった。情報や警告を受け取っていた人のほとんどは、地域のホームレス支援団体を通じて情報を得ていた。
例えば地方や人里離れた地域では、スタッフが自動車に乗り込み情報提供をサポートすることも可能だ。 そうすれば緊急警報を知らせるだけでなく、ペットボトルの水など物資の配布、避難場所や病院に行きづらい人の「足」となることもできる
しかし、支援団体自体が自然災害の被害に遭う確率も高いのが実状。最近のオーストラリアの研究では、異常気象でインフラ設備が被害を受けた場合、支援団体の25%が復旧できなかったとある。災害によってシェルターやコンピュータ・ネットワークなど重要インフラ設備が被害を受ける。スタッフたちは、避難所・寝具・食糧・非常用物資の需要に応えるため奔走しなければならない。道路が寸断され、携帯電話が使用できなくなった場所では、援助活動がさらに困難になる。
ある支援団体スタッフが言った。
ただでさえニーズに応えきれていない中、災害時は限界ギリギリの対応となります。住まい、気象情報や緊急警報、防災グッズやホームレス支援サービスを利用できない人々は、異常気象によってホームレス状態への負のスパイラルに陥ってしまう。
クイーンズランド州南東部の支援団体関係者が言った。
一番大きな災害は2013年1月に起きた洪水です。私たちが管理する借家30軒以上と町内の何百軒もの家が被害に遭いました。 ホームレスの人たちは川の近くや低地に野宿していたので、何百人もの人が被害に遭いました。 住まいや野宿できる場所を失ってしまったので、18ヶ月経った今も、知り合いの家を転々とする、人がごった返す場所で暮らしている人がたくさんいます。
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今後の対策としては、防災袋、保護服、靴、携帯電話の充電器、キャッシュカード、食糧、水などの物資を支援団体が用意し、普段から災害に備えること。「オーストラリア社会サービス協議会(Australian Council of Social Service)*」が提供するオンラインツール「復興のための6ステップ (The Six Steps to Resilience)」(英語のみ)を利用するのも良いだろう。
*団体や機関の災害対策強化を目的とし、災害に備えるツールキットを提供。
https://resilience.acoss.org.au/
状況が改善されない限り、不遇にも家を失ってしまった人々は、多くの人が自然災害からなんとか立ち直り再スタートを切った後も、災害の後遺症を引きずったまま生きていかなければならない。
By Danielle Every (Senior Research Fellow in social vulnerability and disasters, CQUniversity Australia)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo
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