ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。
今回の訪問先は「中野区社会福祉協議会」。「地域活動担い手養成講座」として開催されている50回の講座の一つを受け持たせていただきました。
ビッグイシュー日本のスタッフ、そして販売者のヤマノベさんがお邪魔しました。



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地域や年齢層などによって、ビッグイシューの認知度に差があるのですが、この「地域活動担い手養成講座」に参加されているのは中野区にお住まいの方で「福祉に関心のある仲間を見つけたい」「地域のためにできることをしたい」という方が中心のため、半分弱くらいの方が『ビッグイシュー日本版』の購入経験があり、半分弱くらいの方が「知っている」とのこと。

福祉や助け合いに関心が高い人々が多いためか、興味深そうに聞いてくださる方ばかり。まずは「ホームレス問題」について簡単にお話させていただきました。

国が把握しているより実際には多いホームレスの人の数。
自力での路上脱出は困難

厚労省が発表した、最新の「路上生活者」の数は4,977人。
しかし実際には、厚労省が日中にカウントしているより、夜間のほうが2倍以上多いという民間の調査結果があります。

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また、「路上生活者」ではなくても、自分の住まいを持たない人々や、寮つきの日雇い労働者など、住まいを失う恐れの高い人はもっとたくさんいます。

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参考:稲葉剛『ハウジングプア』

そして、どんなものを失うとホームレス状態になってしまうのか、下記の(  )の中に入る要素を参加者の皆さんに考えていただきました。

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仕事を失う、家族とのつながりを失う(または家族に頼れない事情がある)、そして住まいを失い、貯金がなくなるなどの意見が出てきます。それらを次第に失うプロセスのなかで、周囲のサポートや各種の支援を受けられない・受けない場合には路上に出てしまうことになります。

さらに、ホームレス問題が厳しいのは一度路上に出てしまうと自力での脱出が困難だということです。

住所や携帯電話を持たない人、保証人のいない人を雇いたいという人はあまりいない上に、いたとしてもお給料の支払いが1か月後ではそれまで生活ができません。

現在の日本において自力で路上から脱出するには、「そびえたつ壁」のようなハードルにいきなり立ち向かうような状況なのです。

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地域の担い手は、左の階段を一気に転げ落ちてしまわないよう、セーフティネットとして地域を見守る網の目を細かく張ることで、路上に転落してしまう人を減らすことができるかもしれません。

保証人や貯金、住まいがなくてもすぐに始められる仕事を提供する「ビッグイシュー」

そのために、無理なく上がれるステップを用意しようとしている取り組みのひとつがビッグイシューです。

まったくお金を持っていない、頼れる人のいないホームレス状態の人でも、すぐに始められるお仕事として『ビッグイシュー日本版』という雑誌を発行していること、350円の雑誌を販売して、一冊あたり180円が販売者の手に入ること、それを少しずつ貯めていき、また、読者の皆さんとの日々の交流に支えられて路上を脱出していく事業であることを説明しました。

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日比谷の販売者が、ホームレス状態になった理由

続いて、日比谷駅の日比谷交差点にあるJALプラザの前で販売をしているヤマノベさんがホームレス状態になるまで、ビッグイシュー販売者になってからのことを話しました。

東北の実家には病弱な父、仕事でいない母。「他人が一つの家にいるみたいだった」

ヤマノベ:
僕は、東北の出身です。父は板前で、母は、僕が生まれた当時は夜の仕事をしていたので、僕と妹は、すぐそばに住んでいた母方の祖母の家で一緒に生活をしていました。
僕が小学校の頃に父が病気になり、子どもはおばあちゃん家っていう感じで生活をしていました。

スタッフ:
「他人が一つの家にいるみたいだった」と、おっしゃっていましたが、ご自身の居場所はありましたか。

ヤマノベ:
時間帯がまず合わないし、父を見るのも月に1回とか、2ヶ月に1回という感じでした。
学校に行って帰って来る頃には母親も仕事に行くので、休みのとき会ってもかしこまったような感じで、「おばあちゃん家行って来るね」って、言っていました。うちの家族は、箱の中にたまたま一緒にいるという感じでしたね。

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顔を合わせることすら少ない家族のために家計を支え・・・

スタッフ:
家計を支えておられたと聞きました。

ヤマノベ:
父は血圧が高くて、腎臓を2つとも取らないと駄目だっていうくらいの重い病気で、人工透析をしていました。そのときに目も駄目になって、知り合いの寿司割烹で働くにも切ったり、煮たりはできても、目が悪くて色が分からず、匂いを嗅ぎながらやるわけにもいかないので思うように働くこともできない。だから、返せていた借金が返せなくなってしまいました。そんなこんなで家計の方は結構大変で、僕は当時、ガソリンスタンドで月給制の仕事をして、家計の大きな部分を担っていました。妹にそれをやらせるのはかわいそうかなと思って、僕が長男なので当時の人にしてはお金を家に入れていました。

でもただ仕事をして、家にお金を入れる。家に帰っても、誰とも話をするでもなく、だから何回か家出をしていました。

スタッフ:
その頃に親御さんの経済状況も本当に難しくなってきたそうですが、生活保護とか社会資源を使うのは難しかったんですか。

ヤマノベ:
今、私は52なんですけど、当時、生活保護は一般的ではなかったと思います。テレビとかメディアで言うこともなかった。東京だったらあり得るかもしれないですけど、地方の田舎になると、なかなかそういう援助をしてもらっている人も見たことなかったんですよね。

スタッフ:
そうすると、家の中で頑張れる人が頑張らなきゃ、ということでヤマノベさんが頑張るっていうことだったんですね。

ヤマノベ:
僕がやんないとしょうがなかった。だから、選択肢はなかったような気はします。

東京に出て、日雇いや日払いなどの仕事をたくさんやってきた。
でも気づけばホームレスに…

そんなかで、東京に行けば仕事があるかもしれないという思いだけで来てしまいました。
上野に着いてすぐに、日雇いとか日払い、あと建築関係とか土木とか、いろいろな仕事があったので、すぐ仕事に就けました。

午前中に仕事をやって、昼からまた別の仕事に行ったりと、数で言うと3桁に近いぐらいの仕事をしてきました。

スタッフ:
仕事の行き先が転々とするから、安定した住まいを構えるのではなく、仕事がもらえる場所の近くに泊まるみたいな感じだったんですよね。

ヤマノベ:
今とは違って、事前予約とかネットでの申し込みじゃなくて、先着順っていうのが多かった。その事務所が杉並だったら、前日に杉並へ行って駅のそばで休むと。そうしないと先着で仕事が取れない。そこの会社で何回も仕事をして、指名が入って「明日も何時に来て」とか、あるいは「現場に直接行って」っていうふうになれば別ですけど。

そんな感じで過ごしていたらいつの間にか今の感じになってしまいました。

編集部補足:ヤマノベさんのカフカの階段。
若かった頃のヤマノベさんに似た人が自分の地域にいるとき、地域の担い手の方々には、何ができるでしょうか?

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ビッグイシューの仕事を続けられる理由は、お客さんのことを想うこと

スタッフ:
ビッグイシューに登録されたのは、いつでした?

ヤマノベ:
8月末で、登録そのものは丸2年になります。九段下の販売者さんに声を掛けて「やってみようかな」と。「売れても売れなくても何とかなるだろう」ぐらいの簡単な気持ちで、その日に電話をして、次の日に面談をしてもらって、次の日から販売を始めました。

スタッフ:
今まで短いスパンでたくさんの仕事をされてきましたが、ビッグイシューの仕事は続いているんですね。

ヤマノベ:
元々、人と接する仕事が、それほど嫌いなわけではないんです。夜の仕事とか水商売も結構やってたし、接客業が多かったので。ホームレスになってからしばらく経って公園の清掃の仕事をしていたとき、話しかけてくれるおばさまがいて、「仕事を一生懸命やってると人は見てるから」「いつも綺麗にしてくれてありがとう」って言われて。そのときに「人と接する仕事はいいな」と思ったことがあるのを覚えています。

ビッグイシューでも、お客さんが2~3回買ってくれると「暑いよね」とか声をかけてくれるので、向いてるとは言えないかもしれないけれど、嫌ではないんですよね。

いつも買ってくれる人が前を通るだけでも嬉しい

スタッフ:
ビッグイシューの仕事の面白さとか難しさは。

ヤマノベ:
いいなと思うのはやっぱりいつも買ってくれる人が、ただ通るだけでも「今日も通った」とか「通んない」とか想うこと。お客さんとお話ができるのはいいと思います。
難しさに関しては、今年は特に暑い。天候に左右されるのは一番難しいところだと思います。

参加者:
ヤマノベさんは、今はもう決まった住居に住んでらっしゃるんでしょうか。

ヤマノベ:
今は、販売場所に行きやすい駅の近くでそのまま寝ています。ビッグイシューの事務所の仕入れにも行きやすいので。

これまでに2回救急車で運ばれたこともあり、体調があまり良くないので、家があったほうが体は楽だなっていう気持ちはあります。

パソコンを使えるようになって、SNSでつながりたい

スタッフ:
ヤマノベさん、つい最近、パソコンクラブに参加されていますよね。

ヤマノベ:
僕の年代でパソコンができないと、この先、どうしようもないと思って始めました。
他の参加者にはパソコンを使って、文章を書いて販売に役立てたいという方もいれば、ビッグイシューはイギリスが発祥なので、それでイギリスの販売者さんとメールのやり取りをしたいと。だから、パソコンを覚えなきゃならないと始めた方もいます。

自分はいろんな証明書をパソコンで作りたいから。

それと、前の販売場所のときに「載っけていい?」って言われて、「いいですよ」って言って3人ぐらいでFacebookに載せてもらったことがあったんですよ。で、自分もそういうのをやりたいなと思って始めました。

ボランティアの先生も面白いので、続けていきたいと思っています。

参加者からのアンケートの声

「地域の担い手養成講座」ということで、参加者の皆さんは興味深くお話を聞いてくださいました。自分の地域に若いころの「ヤマノベさん」がいたとしたら、何ができるかをそれぞれが考えてくださったようです。

「ビッグイシューの設立思想は大事だと思う。半面、社会的課題として一人ひとりの市民が助け合える社会をつくることが重要と考える。」

編集部:
その通りだと思います。ビッグイシューが目指すのは「孤立する人を生み出さない社会」です。『ビッグイシュー日本』の誌面では、そのような社会づくりのヒントになる取り組みなども多々ご紹介しています。


「社会的資源の利用につながらず、ホームレスになってしまう方が多い。情報をどのように伝えられる(もしくは本人が気づく)ことが課題の一つではないかと思う。」

編集部:
助けを必要としている人にこそ伝えたい情報がなかなか届かないのが現状です。
ビッグイシュー基金では、夜回りなどを通して「路上脱出・生活SOSガイド」という、様々な支援につながる情報を冊子にしてお届けしています。ぜひこちらの配布にもご協力いただけると幸いです。

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中野区社会福祉協議会 地域活動担い手養成講座 



長崎友絵
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大手人材派遣会社を経て、2010年よりビッグイシュー日本で販売サポートの仕事を務める。現在東京事務所長として、販売サポートのほか企画・マネジメント・広報等幅広く活動。

▼長崎による販売サポートの仕事紹介
http://bigissue-online.jp/archives/1063814884.html


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「野垂れ死のう」と思っていた元自衛隊員の販売者がインターナショナルハイスクールの高校生たちに伝えたこと
小学生からビッグイシュー販売者へ鋭い質問!/大阪市立八幡屋小学校6年生の”キャリア教育”の出張講義
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小・中・高校での人権・道徳・キャリア教育の授業
大学での貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

まずは学校でビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

図書館年間購読制度 

※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/ 






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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。