国連が発表した最近の報告によると、障害のある子どもは社会で最も疎外されているグループのひとつであり、そのなかでも差別を受ける可能性が高いのは女性や女児だという。障害のある子どもや女性が暮らす世界の現状について専門家に話を聞いた。

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障害のある子どもが暴力を経験する可能性はそうでない子どもと比べて最大で4倍、なかでも最もリスクにさらされているのは女児であると「国連児童基金(ユニセフ)」は報告している。
障害のある子どもたちは、社会で最も疎外されているグループのひとつです。社会が子どもであることよりも「障害」に目を向け続ける限り、排除と差別のリスクは存在し続けるでしょう。
ユニセフのメディアコンサルタント、ジョージナ・トンプソンは言う。

「世界保健機関(WHO)」によると障害を持つ人は世界全人口の15%、つまり世界最大のマイノリティを構成しているのだ。そのなかでも、割合が多いのが子どもと女性なのだ。

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© 2018 Pixabay


社会に深く根付いた障害者に対する差別問題に対処すべく、2018年7月24日にロンドンのクイーン・エリザベス・オリンピック・パークで初となる「グローバル障害サミット」が開催され、700名を超えるNGO、民間企業、政府の代表者が集まった。
障害のある子どもたちに他の子どもたちと同等の機会を与え、より平等な世界を作ることはすべての人の責務です。
「国連障害者権利条約」の行動計画には、これまでに300以上の組織と政府が署名している。この行動計画には「障害者のインクルージョン(*1)」を確立するための、さまざまなステークホルダーによる170の公約が含まれている。

ケニア、英国の両政府と国際障害同盟が主催したこのサミットでは、障害のある市民を守るための法律の可決、障害者向け技術の利用促進などを最重要課題として議論がおこなわれた。

*1 インクルージョン: 包括、包含、一体性などを意味する言葉で、あらゆる人が排除されず、社会や教育に参加できる状態をいう。

障害者コミュニティのなかでも差別を受けやすいのは女性と子どもだ。「障害のある女性と女児の状況」について国連事務総長に提出された報告書(*1)によると、障害有病率は男性の12%に比べ、女性は19%(*2)。

*1『Report of the Secretary-General: Situation of women and girls with disabilities and the Status of the Convention on the Rights of Persons with Disabilities and the Optional Protocol thereto』(2017年7月28日)

*2 その原因として、女性の方が長寿で認知症を発症しやすいこと、主に途上国における不十分な妊産婦医療などが絡み合ってるとの記述がある。世界的な高齢化と女性障害者の増加の関連性はこれからの時代の課題である。


さらに、障害がある子どものなかでも、女児は男児より小学校を卒業する可能性がはるかに低く、性的暴力の対象になりやすい。

英国国際開発省によれば、5歳未満の乳幼児死亡率が全体で20%以下に下がった国に注目すると、障害のある子どもの死亡率は80%に達することがある。

子どもや女性たちが直面するリスクに関しては強く意見が一致している。「ヨーロッパ障害フォーラム(EDF)」の外部コミュニケーション担当官、アンドレ・フェリックスも「障害のある女性は差別や暴力の対象となりやすく、平均的な女性の3~5倍にもなる」と述べた。

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権利を求めるデモを行う障害のある女性たち(アフガニスタン) 写真:Ashfaq Yusufzai/IPS 

この問題にどう対処すべきかを問われ、「UNウィメン」で「障害者のインクルージョン」グローバルタスクチームで共同リーダーを務めるA.H. モンジュルール・ジャービルが見解を示した。 戦略の実施には、職場、同僚、パートナーら、現場レベルの意見を吸い上げるボトムアップ手法が必要となる。

ジャービルが続けた。
「UNウィメン」の戦略は、職員および主要ステークホルダーを支援し、障害のある女性と女児をすべて受け入れ、彼女たちが本格的に社会参加できるよう推進すること。これはUNウィメンのすべての優先領域(*)において実施してまいります。業務および組織内部のバリアフリー化を通じて男女平等を達成し、障害あるすべての女性と女児に力を与えていきます。
* 優先領域についてはこちらを参照。

トンプソンはユニセフに次のような戦略を提言した。
補聴器、車いす、人工装具、眼鏡といった障害者向け支援技術の開発と生産への投資を増やすべきです。これらの技術によって、障害のある子どもたちにも、自身が能力ある存在だと気づく機会を与えられるのですから。しかし、低所得国では支援技術を必要とする人の5〜15%しか、その技術を利用できていません。
この戦略は、サミット中に共同で創設された「支援技術のためのグローバルパートナーシップ」が掲げる目標に組み入れられた。

障害者の8割が途上国で暮らしている現状があり、「インクルージョン政策」の実施においては、緊急事態への対処や教育の欠如も解決すべき重要課題となってくる。
私たちは人道的な対応を包括的に行わなければなりません。緊急時、障害のある子どもは二重の困難に直面します。健康と安全、栄養不良、強制退去、教育の喪失、虐待のリスクといった一般的な脅威と、障害者ならではの困難です。インフラ損傷により移動が制限されると、危害から逃れることが難しくなり、必要な緊急援助を利用できなくなるのです。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、途上国に住む子どもの9割が教育を受ける環境がありながら学校に通えていない。
私たちは教育を包括的なものにしなくてはなりません。障害のある子どもの約半数が学校に通えていません。偏見、不名誉とみなされる、学習環境がないためです。通学できている子どもでも、約半数は質の高い教育を受けていません。専門の訓練を受けた教師、バリアフリー施設、専用教材が不足しているためです。

障害のある子どもを教育から排除すると、国民所得が失われ、その国のGDPは最大5%減少するリスクがあります。

障害者の包摂に責任を負うのは誰なのか

障害者のインクルージョンに責任を有するのはサミット参加国だけではない。国連機関、NGO、民間企業も、格差を縮小して差別をなくすべくさまざまなプログラムを立ち上げている。
各ステークホルダーが負うべき責任と市民社会についてフェリックスが説明した。
サミット参加国は政策立案者であり、すべての人が国際的な開発と包括的政策の恩恵を受けられるよう保証するのは国側の責任です。その過程で市民社会の意見を聞く必要もあるでしょう。
そして、市民社会の役割は、プロジェクトを監視し、助言すること。そして市民社会(とくに地方の市民社会)が国際的開発の一部となる場合、そのリソースは参加国から提供されるべきです。 両者の活動は本質的にリンクしているのだ。
障害者支援はコミュニティに根差したものでなければなりません。つまり、障害者を差別している組織をわれわれはサポートしません。
当事者同士は緊密に連携する必要があり、それぞれの役割を切り分けるのは難しい、とトンプソンは言う。その意見に同意して、ジャービルが結論を述べた。
すべての人、すべての当事者、すべてのステークホルダーに責任があります。それぞれが別々に行動するのではなく、連携を取ることが大事。単独アプローチやたこつぼ型思考の時代は終わりました。

By Carmen Arroyo and Emily Thampoe
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo

参考: 『グローバル障害サミット』紹介動画



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