秋晴れの好天に恵まれた10月のある日、ビッグイシュー日本スタッフと、大阪府枚方市駅の販売者のSさんとともに訪れたのは、滋賀県にある龍谷大学の瀬田キャンパス。

現代福祉学科、川中大輔先生担当の『社会企業論』の講義は学部生全体に開かれており、福祉学科の学生のみならず、社会学科やコミュニティ・マネジメント学科の学生も参加できます。
今回は11名の学生の前で、出張講義をさせていただきました。


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格差社会、貧困問題、高齢化社会など、社会が抱える問題がホームレス問題となってあらわれる

まず、スタッフからビッグイシューが紹介されたDVDを見たあと、「ホームレスというのはその人そのものを表す言葉ではなく、あくまで状態を表す用語」とお伝え。
また、なぜ、そういう状態に陥るのか、なぜ、そうなってしまうと仕事に就くことが難しくなるか、一口にはホームレス状態に陥ると言っても、その理由は様々であることなどを説明していきます。

最近では、親の介護のため仕事を辞める、いわゆる介護離職なども増えています。親が亡くなってから再び仕事に就こうと思っても、その時には年齢的に再就職が非常に困難で蓄えもなくなり、ホームレス状態に陥ってしまう可能性もあるのです。

「ホームレス問題は放置するべきではない」。これは、そのホームレス状態の人だけが抱える問題であるというだけではなく、格差社会、貧困問題、そして高齢化社会など、日本の社会が抱える問題がホームレス問題となってあらわれている、ということ。つまり、ホームレス問題を考える、その意味は、日本の社会の問題を考えるということにつながる、とスタッフは強調しました。

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その後、『ビッグイシュー』の活動として夜回りなどを行ったりすることと、また人とのつながりを持つためにクラブ活動のようなこともやっている、ということを説明し、フットサルやウォーキングのグループもあること。横のつながりを育てていることなどを紹介しました。

自分の関心との接点、そして「知らなかったこと」を知る「6分間リーディングのワークショップ」

スタッフの講義が終わったあと、学生に3つのグループに分かれてもらい『ビッグイシュー日本版』のバックナンバーを6分間読み、その後ひとりひとり読んだ内容を語ってもらう時間を持ちます。

学生が関心を持った記事は、東日本大震災のあった石巻で、居場所づくりをしている団体の記事、ノルウエーの警察犬の育成の記事、障害を持つ人たちを積極的に採用する食品加工会社の記事・・・など。それぞれの学生が気になった記事を紹介し、自分の関心や初めて知った驚きなどをシェアしていきます。

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Sさんが語る「ビッグイシューは“セーフティロック”」?

その後は本日の講義のメインは販売者Sさんの話。
この講義の前日、どこで寝ようか、ということで迷い、マックやネットカフェなどを渡り歩いて、あんまり寝られず、ちょっとハイな状態だというSさん。

「『ビッグイシュー』は‘セーフティロック’」だと言います。

「ダークなところで生きてきた」というSさんは、ビッグイシューを売るということで、再びダークな部分に行ってしまわないように「セーフティロック」は、安全のために鍵をかける、という意味です。

それでも夜に酔っぱらいに「こんなところにいて目障りだ」という言葉をあびせかけられるなどの苦労も多く、つらい思いもすることもあるそう。それでもSさんはわざわざ自転車に乗って買いに来てくれる常連さんがいることなどのやりがいを語り、地元の人にもっと買ってもらえるように努力したいと述べました。

 

水商売での失敗、借金を返すためにダークサイドへ

その後、Sさんは少年時代から大人になるまでのことを学生に順を追って語りました。
「自分で事業を広げたい」「とにかく現金がほしい」「人脈を広げたい」という思いがあったSさんは、水商売の世界へ。
その後、知人と水商売のお店を始めますが、意見の対立からその店は半年ほどで潰れてしまいます。Sさんいわく、「水商売で落ちていくと、這い上がることは難しい。一度、店を潰してしまうと二度と信用されない。」とのことで、この頃が人生にとって最悪の時だった、と話しました。多額の借金を抱えたため、危険な仕事も含めあらゆる仕事に手を出していきました。「借金を返して、とにかく現金が欲しかった」からです。

ここで、再び、Sさんから「『ビッグイシュー』は‘セーフティロック’」という言葉が出ました。深くは語られませんでしたが、危険を伴う苦労をされてきたことが想像できました。

そして30代になったSさん。とにかく逃げたいという気持ちが強く、フリーターのような形で各地を転々としました。その後、大手の電機会社などの派遣の仕事などに携わり、その間にコンピューターの資格をとるなど、順調に行きそうに見えたところで、2008年、リーマン・ショックが起こります。この当時は東京にいたSさんは、派遣切りという憂き目にあい、日比谷公園で野宿をせざるを得ない日々に。

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その後も各地を転々とし、最後は資金が尽きて大阪で、『ビッグイシュー』の販売者として働き始めることになります。
一度ビッグイシューを卒業するも、体調の問題などがあり、再び販売者となりました。「自分は出戻り」とSさんは笑いました。

 

Sさんからのメッセージ:皆が生きやすい社会になるには?をみんなで考えて

話の最後で、Sさんは皆へのメッセージを伝えました。「皆が生きやすい社会にするために、たとえば予期せぬ事態に遭遇した時にどんな制度があれば助かるか? ビジネスを通しての社会企業というテーマでぜひ考えてほしい」ということなどを語りました。

学生たちからの質問:「販売者がつらい言葉を浴びせられたときのフォローは?」

質疑応答タイムでは学生からは「販売者が厳しい言葉を投げかけられることがあるそうですが、そういった時の会社としての対処は?」という質問が。 販売サポートスタッフは、常時販売者の傍に立っているわけではないため販売者がしんどいときに話を聞くことくらいしかできません。
スタッフは「販売者はストレスのはけ口にされがち。社会全体のストレスを減らすにはどうしたらいいか、を会社としてというより、みんなで考えていきたい」と回答。
Sさんから「自分も一所懸命やっている。売り場の人たちは努力していることを理解してほしい」と話しました。

最後に講義担当の川中先生から「偏見を持っている人たちがいたら、‘それは違う’と言ってほしい。そして今日の体験をシェアしてほしい。それがビッグイシューを知ってもらうことになるから」と学生に呼びかけ、『ビッグイシュー』にエールを送ってくださいました。

大学の授業にビッグイシューを招く狙い:「共感に基づきつつ、考えていってほしい」

その川中先生に、授業でビッグイシューを招いた狙いを聞いてみました。
「この授業の目的は、現代社会における社会的企業の役割について知り、その活動上の課題について考えていくことです。今回のビッグイシューの方にお越しいただいたのも、社会的企業で働くスタッフの方々がどのように社会を捉え、どのような情熱で突き動かされているかを、学生に感じてもらうためです。

とりわけ販売者の方の人生の歩みにほんの少し触れる機会があることが、非常に意味深いものとして捉えています。当事者と呼ばれる方々への共感に基づきつつ、現代社会のなかにある不正義を捉えて、社会的企業について学び、また考えていって欲しい、そのような願いを抱いています」

川中先生は、以前、他大学で行なったビッグイシューの授業を受けた学生にまつわるエピソードを教えてくれました。 「授業の数日後に大学の近くの居酒屋で飲みに行ったとき、店内で学生の一人に呼び止められました。『先生、あの時のビッグイシューの授業で、自分がどれだけわかっていなかったかを痛感したんです』と言って、大泣きするのです。びっくりしましたが、こうして若者の内にある痛みへの共感が大きく刺激された様を見て、やってよかったなと思いました。」

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川中大輔先生

学生たちのアンケートより:Sさんへのエール

「ビッグイシュー」を全く知らなかったという人の中でも、本日の話に関心を持ってくれた人がほとんど。Sさんへの嬉しいエールもありました。
「アルバイトしかしたことのない自分が言うのもおかしいが、『ビッグイシュー』を売りに売りまくって、たくさん稼いでください。(自分も)帰りの電車で読んでみます。」
「枚方に行ったらSさんから買いたいと思います」
「応援しています。つらいことを言ってくる人には、私も怒っているのでがんばってください」
 など、Sさんへの応援の言葉を書いてくれた学生がいました。

そして
「雑誌を売ることに意味があり、これが“セーフティロック”になっている」と、Sさんの伝えたかったことに応えてくれた学生もいました。この学生は「私も販売者を見たら、勇気をもって声かけて買いたいと思います」と結んでいました。

Sさんは授業の後、紅葉が色づき始めた、穏やかなキャンパスを後に『ビッグイシュー』を売るために、再び販売所へ向かいました。

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写真・取材協力:中尾まり

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人権・道徳・格差・貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。