タイのマンガ家ウィスット・ポンニミット(愛称タムくん)が描く、まっすぐで優しくて時にちょっぴり哲学的な女の子マムアンとその仲間たちの何気ない日常を描いた人気漫画「マムアンちゃん」。
2007年から『ビッグイシュー日本版」で10年以上にわたって連載されてきましたが、今回クラウドファンディングで、この漫画の「世界をもっとポジティブ&ピースフルに」というメッセージを広げるための書籍化プロジェクトを1242人の方に応援していただき、単行本を出版されました。これを記念した、タムくんとビッグイシュー販売者、スタッフが登壇するトークイベントが、2018年10月25日 (木)に開催されました。
そのイベントの様子を一部ご紹介いたします。
売れ行き好調、ファンの企画で作られた「マムアンちゃん」の単行本
司会(製作委員会メンバー)まず、簡単にビッグイシューとタムさんの紹介をさせてもらいます。長崎さん、「ビッグイシュー」とは。
長崎
雑誌『ビッグイシュー日本版」は駅前などの路上で販売していて、ホームレス状態の方だけが販売者になれる雑誌です。定価350円のうち180円が販売者の収入になるというしくみで、日本では15年前から始まりました。タムさんには、2005年にインタビューをさせていただいていたご縁で、10年前から連載をしていただいています。
司会
つづいて、タイの漫画家のタムさん。
タム
タイ人です。漫画やってて、日本に来ました。気がついたら、日本でも漫画やっています。ビッグイシューでも10年ね。みんなは何年働いているんですか?
上野
僕は、ビッグイシューの販売者になって5年半ぐらいです。
草野
私も同じぐらいですね。今回、私の販売所では、この単行本のことを前から知っていた女性の方がおりまして、発売日に「ありますか?」って。私が仕入れておいた2冊のうち1冊がすぐその日に売れました。ビッグイシューの「マムアンちゃん」の連載が「1番楽しみ」っていうお客さんが多いんですよ。
タム
最初はね、毎号連載って言われたんですけどね。「無理」って言って、1か月1回だけ。
載ってない号もある。
※編集部注 『ビッグイシュー日本版』は毎月1日・15日の月2回発行。「マムアンちゃん」は毎月15日号で連載中。
上野
単行本は、あっという間に売り切れたの。びっくりするぐらい早かった。
司会
10年間連載をさせてもらっていて、「本にまとめたい」という話が出て、今回クラウドファンディングを4月~7月までやらせてもらい、総勢1200名以上の方に参加いただきました。
タム
僕のアイデアじゃなくて「クラウドファンディングどう?」って聞かれて、僕はただ「いいじゃん」って言っただけで、みんながこんなことしてくれたんです。みんな覚えてくれていて、こんな本になりました。ありがとうございます。
司会
でも、こんなに1200人とか集まるとは思わなかったよね。
はじめの目標が150万円だったんだけど、最後は800万円ぐらい。
タム
もう1冊出そうか。(笑)
司会
この本の話が始まったのが、ビッグイシューさんの15周年のタイミングだったっていう。
長崎
ちょうど創刊15周年の企画を考え始める時期に声をかけてくださったんです。「マムアンちゃん」の作品のメッセージと、ビッグイシューのコンセプトの共通点などのお話しをしてくださって「素敵なプロジェクトだな」ということで一緒に活動させていただきました。
上野さんのお客さんで、今回のクラウドファンディングがきっかけで、ビッグイシューを買いにきてくださった方がいたんですよね。そういう話を聞くと嬉しかったです。
上野
「やっと販売者、見つけた」って言って、単行本を買ってくださった方とか。あと、残念ながら手持ちの在庫が切れてしまった後にいらっしゃったお客様に「書店さんでも扱っています」って説明したら、「マムアンちゃんの雑誌(15周年記念でマムアンちゃんが表紙を飾った『ビッグイシュー日本版』343号)のほうを買います」って買ってくださったお客様とかいて嬉しかったです。
タム
ありがとうございます。どこで買えるの、この辺だったら。
上野
渋谷駅とか渋谷東急本店前。あとは宮益坂のドトールの前にも販売者さん立っています。
※ビッグイシューのサイトで全国の販売場所を検索できます。
https://www.bigissue.jp/buy/
長崎
販売者さんが単行本の在庫を持っているかどうかは、わかりませんが、343号は持ってらっしゃると思いますので、寄って買ってほしいなと思っています。
「体のホームは家だけど、スマイルのホームは顔」
司会今回、15周年記念号で、「ホーム」というテーマで漫画を描かせてもらいまいた。今日は、「みんなにとっての家って、どんなものなんだろう」というのをテーマに、タイのこと、日本のこと、いろいろお話しできたらなと思っています。
タイ
これは僕の漫画。「ホーム」っていうテーマなんだけど、特に家のことはあんまり書いてない。読もうか。
地球は、僕たちの家。
僕たちは、私の家。
君の家はどこ?
良かったら、私を君の家にしてもいいよ。
思い出の家は、はじまるところ。
いろんな気持ちの家は、ピュアな気持ち。
笑顔の家は、君の顔。
幸せの家は、どこにでもなく君の心にあるのだ。
だから、家たくさんあるね。家じゃなくて、本当のところね。
司会
住んでいるところじゃないっていうことですか?
タム
いや、体のホームは家なんだけど。例えば、スマイルのホームだと顔じゃんとか。幸せのホームは心とか。でも、今回は人間の家の話だよね。
「どうしてホームレスの人は家がないの?」
タムホームレスは、家があっても出るんだね。タイのホームレスどんな感じかというと、家あるのに家にいたくない人もいたり、喧嘩して出る。外のほうがいいとか。家がない人って、なんでないの? 売っちゃったから?
上野
あったんだけども、家族との折り合いとかが悪くて。あと、いろいろ仕事を失敗しちゃったりして、僕は出ました。
草野
私の場合は、家はあったんです。でも、仕事のトラブルがありまして、私が飛び出ちゃって家を失いました。だから、今タムさんが言ったように、家はあるけど喧嘩して、僕は帰らなくなってしまったので、ホームレスになりました。
タム
帰れないっていうのはなぜですか?
草野
いろいろ事情があって。タイの家の方もいろいろな例があるみたいですけど、日本でもいろいろな事情、悩みがあって家に帰れない。
「タム君の漫画は、ひとつだけでなくいろんなことを感じる」
草野漫画を読ませてもらって、私が思ったのは、一つだけのことを感じるのじゃなくて、たくさんのいろんなことを印象づけられるし、すごく喜ばしい、ハッピーな気持ちになります。
タム
良かった。気持ちを一緒に感じてもらって良かった。読んでくれるのがいいね。嬉しい。みんなビッグイシューを読むんですか?
長崎
ビッグイシューの編集部は大阪にあるので、大阪の印刷所から東京事務所に毎月2回、発売日の前日にトラックで運ばれてくるんですね、1万冊近く。それを販売者さんたちが運び込んで、翌日からの仕入れに備えるんですけど、そのときに事前に読んで感想を話したりしていますね。
「販売者にとってビッグイシューはどんな存在?」
タムみんなはビッグイシューが、安心な場所?
上野
安心というか、居場所としてビッグイシューがあって、とっても良かったと思っています。
草野
仕事がなくなって、「どうしよう?」って悩んだんです。そしたらビッグイシューと巡り合いまして、「あ、これ仕事じゃないか」と。ビッグイシューは自分が働くことを可能にしてもらえた。だから、この本を売ることで、買っていただいた方に楽しんで読んでいただける、これが私の希望です。
タム
友達もたくさんできましたか?
草野
友達が多くできました。だから、いろんな人としゃべることができて幸せです。
上野
気のおけない話しをできる人が事務所の中でできたのは、すごく大きいと思います。路上にいたときは、一人ぼっちだった感じがあったから、そこは大きいと思います。
司会
毎月2回は、会うっていうことですよね、みなさんで。
上野
みんな仕入れで事務所に来るので、結構な頻度で顔を合わせます。
長崎
東京事務所だけで、今45~46人の販売者さんがいらっしゃいます。自分で販売のペースとか仕入れる冊数を決めていただくんですけど、毎日仕入れに来る方も多くて、仕入れの時間に会うと「今号どう?」とか「これと組み合わせて売れるよね」とか「天気が厳しいね」とかしゃべったりしていますよね。
生きていくのに必要なものは、実はそんなに多くない
会場スタッフ:タイムライン(※編集部注:当日、TwitterなどSNSで随時質問を受付)を見ていたら、さっきタム君が自分で描かれた漫画を朗読されていることに、めちゃくちゃ感動されていて、「もうちょっと読んでいただきたい」とのことでもうちょっと読んでいただけますか?
タム
じゃあ、もう1個。
財産って、そんなにたくさんいらないでしょう。実は必要なものは、そんなに多くないんですね、人間って。食べ物も多過ぎるし、友達も1人だけでいいじゃん。お金とかね、たくさんあっても、変な使い方になっちゃうから。価値がわかんないとか。まあ、そんな漫画でした。
友達って、そんなにたくさんいらないでしょう。
家って、そんなに大きいのいらないでしょう。
食べ物ってそんなにいっぱいいらないでしょう。
質疑応答:販売者はどうやってビッグイシューを知る?
司会ありがとうございました。この後はいただいている質問にお答えいただきたいと思います。販売者さんは、ビッグイシューとどうやって出会いましたか?
上野
新宿中央公園で路上生活しているときに、販売サポートスタッフから勧誘のチラシをいただいて、後日、事務所に行って販売者登録をしました。
草野
私の場合はですね、ちょうど仕事が切れちゃって無職だったので、ビッグイシューの販売をしている人にすすめられたのがきっかけです。
長崎
上野さんみたいにスタッフがチラシをお配りするとか、草野さんみたいに販売している人がきっかけで知ったという方の他に、「路上脱出ガイド」を見て来てくださる方もいらっしゃいますね。
「路上脱出ガイド」は路上生活に至る前に、どんなセーフティーネットがあるのかとか、路上生活に至ってから、例えば、炊き出しの場所、生活保護の申請の仕方、あとはビッグイシューみたいな「仕事」、そういう情報をまとめた冊子です。それを、図書館で置かれたものや、ネットでアップされたものを見て来られます。
今は、携帯がないと仕事探しができないんですよね。日雇いの仕事に就くにも携帯が必要だから、どんなに生活が大変でも最後まで携帯は持っているという方が多いので、ネットカフェやWi-Fiのつながるところで調べて来てくださる方も増えていますね。
司会
ビッグイシューの事務所としては、販売者になる方を探しているんですか?
長崎
炊き出しに行って、チラシをお配りするとかはしますね。あとは、夜回りで「路上脱出ガイド」をお渡しするとか。来てくださった方にお話を聞いて、多くの方がそのまま販売されますけれども、なかには心身がだいぶ弱っていらして、仕事ができる状態じゃない方もいらっしゃるので、行政の仕組みをご提案したり、医療にかかることをお勧めしたり。なので、ビッグイシュー以外の選択肢も選んでいただけるようにしています。
タムくんがビッグイシューで連載をしたわけ
司会タムさんの漫画は、なんでビッグイシューで連載が始まったんですか?
長崎
2005年発行の36号で「アジア漫画事情」という特集の1ページ目にタムさんのインタビューが載っています。韓国の漫画家の方とかも出てくれていました。
編集長が、タムさんの熱心なファンだったそうなんです。その後、連載をお引き受けいただきました。
タムくんからの質問:ホームレスの人は家に帰らないの?
タム俺、聞いていい? 家出て、帰ったりしますか?
上野
北海道、帰省するのにお金がかかって行かないけど、GoogleMapで自分の実家の番地を探しました。そしたらきっと親戚誰も寄り付いてない感じの写真が出てちょっと切なくなってしまいました。もう十何年、北海道には帰っていないです。
長崎
家の手入れがされていない感じっていう意味ですか。
上野
そうですね。ふるさとを検索したんですけど、寂しい感じ。
草野
私は両親が亡くなっています。で、兄弟ももう年なので、電話ぐらいですね。声を聞く。
タム
声聞いて、もう怒らなくなったとか。
草野
そうですね。声だけで、顔を見なければ意外とうまくいくもんですね。
特に"ホームレス"は問題ではなくって、問題はみんなの不安な心?
会場スタッフベーシックインカムのメリットとデメリットみたいなものの論争が、繰り広げられていますが、ビッグイシューでベーシックインカムは、どうお考えでしょうか。
長崎
実はですね、12月にベーシックインカムに関するイベントを渋谷で行います。
(イベント情報ページ)
https://www.bigissue.jp/2018/09/7024/
会場スタッフ
タム君はどうお考えですか?
タム
僕の考え方が変かもしれないけど、ホームレスって問題じゃないと思う。だって、家が外、俺の家は自然とかっていう、人っていろいろあるじゃん。特にホームレスであることが問題ではなくって、問題はみんなの不安な心。お金持ちでも、家がたくさんあっても、不安な心がある。それが問題じゃないの? だから、自分がわからなくなっちゃって、幸せが見つからないことのほうが気になるね、僕は。家がある人が時々、仕事をしないとか、人を殺しちゃうときもあるし。
上野
ハウスとホームの違いじゃないけど、僕もそうだったんだけども、屋根だけ与えても、やっぱりそこに居場所がなかったら、いられないと思う。今ビッグイシューはそれなりにフィットしているので、5年以上も続けさせていただいて、今はいい感じの段階になっていますけども。だから、ベーシックインカムはベーシックインカムであったほうが嬉しいと思うけど、やっぱり今タム君が言った通り、結局は心の問題になっちゃうのかな。
草野
8年前に家がダンボールになったときに一番思ったのは、家でもダンボールでも同じことで、レッテルをはるのは自分以外の人だから、他人がどう思うかということよりも、自分の道と自分の考え方を崩さないのが大事だということでした。
これから、日本の制度とかシステムっていうのが、どのような方向に行くかわかりませんけど、は一人ひとりがよく考えて、意見をいうことが大事なんじゃないかな。
ビッグイシュー日本15周年記念・マムアンちゃん×People TreeコラボTシャツ販売中
ビッグイシュー日本15周年記念グッズとして、「世界をもっとポジティブ&ピースフルに」というメッセージを楽しく広げられるようにという思いを込めて、「マムアンちゃん」のオリジナルイラストがプリントされたTシャツを販売中。
エシカルで人と地球環境にやさしいファッションブランドPeople Tree提供のオーガニックコットン100%のシャツです。
https://www.bigissue.jp/shop/
「マムアンちゃん」関連の『ビッグイシュー日本版』バックナンバー
『ビッグイシュー日本版』343号スペシャルインタビュー ウィスット・ポンニミット
漫画との出合い、漫画が生まれる時、「マムアンちゃん」のこと、これからの計画などについて、バンコク在住のタムくんに話を聞きました。
https://www.bigissue.jp/backnumber/343/