農業は世界的にみると13億人以上の人々が従事している産業であり(*)、大きな雇用をもたらすとともに、人々の主要な所得・生計手段となっている。

ところで、世界中の「耕作に適していながら開墾されていない土地」の6割をアフリカが占めているのはご存知だろうか。なのに、アフリカ諸国は飢餓や貧困の問題に直面している。その理由は、小規模農家の多くが高齢化し、作物の生産量が落ちていることにある。そこで、若者が「農業に持つイメージ」を挽回しようとアクションを起こす若い起業家たちが現れ始めている。


 ※国連食糧農業機関のデータより

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農業普及の学士号を持ち、英国の大学院で情報システムを専攻中のモーリシャス人のナウシーン・ホーズナリー(29)は、「若者」がテーマの会議に出る度に、農業の扱われ方に苛立ちを感じていた。そして、若者が農業に持つイメージを挽回させたいとの思いに至った。

そこで、ブルキナファソ人でジャーナリストの夫と共同で、「アグリビジネスTV」を立ち上げることにした。農業分野で活躍している若手起業家を動画で紹介するウェブサイトだ。

「農業のイメージを変えるには、若者たち自身に登場してもらうのが効果的ではと思ったんです」とホーズナリーは言う。

「当チャンネルのキャッチフレーズは『Seeing is believing(百聞は一見にしかず)』。農業でのサクセスストーリーも、文字で読むより映像の方がインパクトがあります。少しずつですが、若者の農業への見方も変わってきています」

Agribusiness TV
http://agribusinesstv.info/en/
agritv


ホーズナリーのようにアプリやYouTube、Facebookなどを活用して、「農業のイメージ」を変えようとする若手起業家たちがアフリカ各地に増えている。

農業は、アフリカ経済を回復させられる大きな可能性を秘めている。しかし、若手の農業従事者を増やし、アフリカ大陸全人口の60%以上を雇用する産業に育てていくというのは、これまた大きな課題である。

人口学の専門家は、40年以内にアフリカの人口は現在より倍増し25億人に達すると予測している。 そのため、アフリカの各国政府は、さらに多くの食料やエネルギー、雇用確保、より良い生活水準や健康管理を国民に提供するよう迫られているのだ。

「農業のデジタル化によって、若手起業家には農業の近代化を加速させる革新的ビジネスモデルを生み出すチャンスがある」とオランダに拠点を置く「農業・農村協力技術センター(CTA)」のマイケル・ハイル所長は言う。

「若者はつながりを生み出すのが得意ですし、他の若者の活躍が刺激になるでしょう。若くで成功している農家や起業家の姿を目にすることで、農業の捉え方が変わり始めています」とホーズナリーは言う。インスピレーションや農業に関するヒントを得ようと、アグリビジネスTVを視聴する若者は増えている。

アグリビジネスTVには専用アプリもあり、2012年のリリース初年度だけでアプリのユーザー数は50万人、動画は半年で100万再生を達成した。そして2019年現在、アプリユーザー数は800万を超え、Facebookページのフォロワー数は18万人、YouTubeのチャンネル登録者数は約18,000人となっている。

「ターゲットは若者だったので、スマートフォン向けのサービスを考えました。アクセス数も非常に好調で、ユーザーは増え続けています。ストーリーを伝えるという意味では、寄せられるフィードバックに大きな効果を感じています。動画を公開するや否やバズが起き、もはやその人はスター同然。24時間以内に10万ビューを獲得した人もいるんです。彼らの活躍ぶりを可視化することで、新たなつながりやチャンスが生まれるのです」とホーズナリーは言う。

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写真:Busani Bafana/ IPS
ジンバブエのブラワヨ市郊外で、園芸で精密農業技術を使う兄弟プロスパー・チクワラとプリンス・チクワラ


あるブルキナファソの養豚家は「事業を拡大させて作物生産にも乗り出したい、だけどトラクターがないのです」と語った。すると、この動画を観たスペイン在住のブルキナファソ人が、この若者にトラクターを寄贈してくれた。

「こういった効果を望んでいたんです。農業をビジネスとして考える若者も増えていくでしょう」そう言うホーズナリーは、自国の若者や女性が天然素材で作った商品をFacebookページ経由で販売する「アグリビジネス・ショップ」も運営している。

農業のロールモデル

「ガーナの若者たちは高齢の貧しい農家ばかりを見てきたせいか、農業を軽んじているところがあります」コンピューター科学の専門家で、小規模農家と大規模農民団体をつなぐオンラインプラットフォーム「アグロセンタ(AgroCenta)」の創設者マイケル・オカンジーは言う。

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(c)photo-ac

「若者の多くは、より良い環境を夢見て、農村から都市へ飛び出しています。『アグロセンタ』ではこの現状を変えるべく、小規模農家の経済状態を改善し、若い世代にとって農業がもっと魅力的なものになるよう取り組んでいます」

とはいえ、生活が苦しい農家は現に存在するため、若者が「農業」や「農家」に抱くイメージをガラッと変えることは難しい。その点は認めつつも、多くの成功談を共有していくことで捉え方が変わり、農業の道に進もうと考える若者を増やしていけるはず、とオカンジーは考えている。

ケニアを拠点とする能力開発機関「ウスタディ基金(Ustadi foundation)」のプログラム責任者リリアン・マボンガもこれに同意する。

「多くの若者は農業に良いイメージを持っておらず、リタイア後にするものと考えています。ケニアでは若者が人口の大半を占めており、その40%以上が農業に携わっています。農業がGDPの26%を占め、人口の80%以上の生計手段となっているのです」とマボンガは言う。

若手起業家への障壁

しかし、若手起業家が農業でやっていこうとなった場合、大きな困難に直面することがある。利用できる土地やインフラがない、スキルや知識も十分でない、農業に関する情報・市場・資金を得るのも簡単ではないからだ。

アフリカ開発銀行(AfDB)の予測によると、アフリカは開発の障壁を取り除くことさえできれば、2030年までに農業生産高を年間8,800億ドルにまで増加させられるとしている。障壁とは、投資の不足、農家に対する税控除の欠如、市場アクセスの制限、最新の農業資材や機械化の活用不足などだ。

お金を稼ぐために

その一方で、「農業でお金を稼げるという『イメージづくり』には、重労働も必要という点を忘れてはいけません」と警鐘を鳴らすのはローレンス・アフェレ(35)。ナイジェリア・オンド州にて生産者と地方起業家のオンラインネットワークサービス「Springboard」を創設した人物だ。

「農業で経済的にやっていけると若者に伝える際、それは一朝一夕で成し遂げられるものではなく、自ら汗を流す必要があることもしっかり伝えるべきです」

彼が運営するプログラムでは、国内6つの州で、3000人のメンバーたちと、プランテーン(調理用バナナ)、豆、米を栽培している。農家に情報やトレーニングを提供し、彼らの作物を買い取り、加工して付加価値をつけている。

Springboard
https://springboardnig.com

農業においては、いかに資金調達するかが最優先事項だ。そのため、若手起業家が破産することなく農業に参入できるようなサポートも行われている。

FAOの若年者雇用に関するプログラムでは、若者に農業技術を学んでもらうことで貧困を克服しようとしている。ギニアビサウ共和国では、若手起業家たちには決定的に養殖に関する技術的スキルが不足していることが判明したため、若手の農家に水産養殖のスキル育成をすすめている。

「アグリビジネスで成功する起業家を育てるには、スキル・効果的な政策・環境整備が基盤となります」とガーナ共和国のFAOで若年者雇用の専門家として働くトニー・ンサンガニラは述べる。

起業家精神に加えて教育も必要

「農業起業家」たちの成功事例は数多ある。にもかかわらず、経済協力開発機構(OECD)が実施した調査では、「起業家精神」に頼っているだけでは多くの若者世代を巻き込むという課題は解決できないとされている。

世界銀行と国際農業開発基金(IFAD)によると、今後20年間で、サハラ以南のアフリカに暮らす4億4000万人の若者が労働市場に参入する。「彼らの大多数は農村部に暮らし、十分な教育の機会もなく、労働市場で期待されるようなスキルも持ち合わせていない。なのに、仕事への期待値は高く、農業に従事することを望んでいません」とOECD開発センターのプロジェクトマネジャー、チユン・リムは言う。

OECDが2017年に実施した「開発途上国の若者たちの願望」に関する調査(参考)によると、若者の76%が高度な技能を持つ職業を希望していながら、実際にそうした仕事に就いているのは13%のみだった。

リムはこの4年間、開発途上国9ヶ国(アフリカ、アジア、ラテンアメリカ)の若者を対象とした「若者包括プロジェクト(Youth Inclusion Project)」のコーディネートを務め、各国政府の若者に関する政策改善を支援している。

OECD の若者包括プロジェクトの紹介動画


OECD若者包括プロジェクトについて(英語)
https://www.oecd.org/dev/inclusivesocietiesanddevelopment/youth-inclusion-project-about.htm

By Busani Bafana
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo


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