日本の「子どもの貧困」が気になり、子ども食堂に関わる人が増えている一方、アジアの街角で物乞いをするストリートチルドレンのために活動する人もいる。
「アジアより国内の貧困問題でしょ?」という人もいるが、「子どもや若者が貧困のなかにいる理由」には国内外問わず共通点も多い。その共通点を知り、自分たちは何をすべきか、何ができるかを考えるイベントが開催された。
 

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この記事は、子ども・若者の貧困と、私たちになにができるのかを考える機会として2019年5月12日に開催されたイベント“「とことん考える子どもの貧困、若者の貧困-国境を越えて」ビッグイシュー×ACC21” のイベントのエッセンスをレポートしたものです。

フィリピンでは1億人強の人口のうち、5万人~7万5千人がストリートチルドレン

たとえば「フィリピン」や「フィリピンのストリートチルドレン」と聞いて、あなたはどんな国・人を想像するだろうか。暑さ。バナナ。物乞いの子ども-?

フィリピンは日本と同じ島国で、面積は日本の約8割。人口が1億人いるのは日本も同じだがフィリピンだが、平均年齢24歳(日本は46歳)という若い国だ。

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※編集部注:乳児死亡率が高いため、平均寿命が日本人より押し下げられていることと、若い年齢での出産が多いため子どもの数が多いことによる。

そして、日本で路上生活者は厚生労働省の発表で5000人弱、その大半は中年以上の男性だが、フィリピンのマニラ首都圏の路上に暮らす子ども・若者(ストリートチルドレン)の数は5万人~7万5千人といわれている。

さらにストリートチルドレンは、次の3種類に分けられる。

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日中は、路上で物乞いや、ゴミ拾い、車の窓ふき、駐車場の整理、新聞やタバコの販売などでお金を稼ぐ子どもが多く、また買春の犠牲になっている子ども・若者もいる、という。

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ゴミ拾いをする少女たち


食事は満足に取れず、ゴミを漁って食べる子どももいれば、シンナーを吸って空腹を紛らわすこともある。

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シンナーを吸う少女

学校を途中でやめる子どもや、そもそも学校に通っていない子どもも多く、十分な教育を受けていない。

“移動式の路上教育”でストリートチルドレンたちに教育を

そこで、認定NPO法人アジア・コミュニティ・センター21(以下、ACC21)の現地パートナー団体は、そのような子どもたちのために“移動式の路上教育”を行っている。

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移動式の路上教育

路上で暮らす子どもたちは、不衛生な生活環境や栄養不足、虐待、性的搾取などを背景に、病気や怪我になるリスクも高い。 しかし、出生証明がなく健康保険に未加入であることや、公的なサービスについての知識不足から、病気や怪我になっても適切な治療を受けられない。

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病気で歩けなくなった後、路上に寝かされるだけの少年


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若い世代が妊娠・出産していく

「10代や20代前半で子どもをもつストリートチルドレンも少なくありません。 若くしての出産は、母体の健康リスクが高いだけでなく、妊娠・出産・子育てによって学ぶ機会が限られ、収入も得にくく、一層の貧困に陥りやすいです。 また、母親が十分な教育を受けていないことは、その子どもにも負の影響を及ぼします。」とACC21の辻本紀子さんは言う。

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フィリピンのストリートチルドレンを減らすことが難しい理由

こういった実情を見て、
「うわー、悲惨~」と対岸の火事のように感じる人もいるかもしれない。
「生き抜く力がない人が、同じような人間を再生産してる」などと見下す人もいるかもしれない。

しかし日本ではまず目につかない「子どもの路上生活者」が、なぜフィリピンでは多いまま、減らせないのだろう。
それは「フィリピン人の持つ特性」でもなければ、「フィリピンで路上生活をしている人たち自己責任」などではない。

その理由はさまざまな要因が複雑に絡み合った結果だと、辻本さんはいう。

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路上の若者の自立に必要なのはライフスキルと職業技術訓練

そこでACC21では、貧困の連鎖を断ち切るために、路上で暮らす若者たちが自立できるよう職業技術訓練の支援に取り組んでいる。

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「幼い頃から路上で暮らし、“何かをやり遂げた”という経験を持たない若者たちに、職業技術訓練だけを提供しても長続きしない」と辻本さんは言う。

そこで、まずは自立のための心構えや目標の立て方、他人との信頼関係の築き方などの研修を行う。 続いてマニラ市の訓練所での職業技術訓練(40日間)に参加した後にOJT(実際の職場での職業体験)の機会を提供する。 そのほかにも就職に必要な手続きへの同行、それぞれが抱える悩みへのカウンセリングなど幅広くサポートしている。

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この取り組みを通じて、初年度の半年で12人の若者がプロジェクトを修了した。 うち10人が就職または自営によって仕事をスタートさせ、5人が試験に合格し、国家資格II類を取得した。

※“国家資格(National Certificate)”は、フィリピンのTVET(技術教育訓練・職業教育訓練)資格認定制度に基づき、実務能力を4段階で示すもの。II類は「選択に迷うことなくそれほど複雑でない通常の任務を行う」ことができるレベルとされている。

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「5万人~7万5千人というストリートチルドレンの数を考えると、決して大きな成果ではありません。 しかし、“プロジェクトを通じて、人生で初めて他人を信頼できるようになった”といった声が若者たちから寄せられており、それぞれの若者たちにとって自立のための大きな一歩になっています」と辻本さんは言う。

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ACC21は今後、このプロジェクトを続け、改善していくと共に、“2030年までに、マニラ首都圏のストリートチルドレンをゼロにする”という大きな目標に向けて、日本やフィリピンの関係機関や社会を巻き込み、取り組んでいきたいと語る。


【クラウドファンディング実施中】
「ストリートチルドレンをゼロにしたい!フィリピンの路上で暮らす若者に雇用と未来を」
現在、このプロジェクトを継続していくための資金をクラウドファンディングで募っている。
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https://camp-fire.jp/projects/view/138841

なぜアジアの若者の貧困問題にかかわるのか

しかし、社会課題は様々ある中で、なぜACC21はアジアの貧困問題解決に力を入れているのだろう。

ACC21代表理事・伊藤道雄さんこれまでの人生を振り返り、決して裕福ではなかった幼少期を過ごしたこと、そして縁があってアジアの途上国支援のために訪れた40年前のフィリピンで、ストリートチルドレンとの忘れられない出会いがあったと話す。

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「今でも忘れられないのは、40年前、フィリピンの首都マニラを仕事で訪れたときのことです。わずか7~10歳のストリートチルドレンが私に“お金をくれ”と寄ってきました。 不憫に思ってコインを渡すと、それでは足りないと私のポケットに手を突っ込んでくるのです。その手を払うとすごい形相で睨みつけられました」

にこりともしない、物乞いや盗みを行う子どもと出会い、伊藤さんは「人間としての尊厳を失う生活を強いられている人たちや子どもたちの状況を何とかしたい」と強く思ったという。以後国際協力の仕事を続けてきた。

「幸せには色々な形がありますが、苦しい状況に置かれた周りの人たちの手助けをすることでも、幸せを感じることができます。 今日の集まりを子どもや若者の貧困に目を向けるきっかけにし、皆さんが問題を共に解決してゆくための“仲間”になってくだされば嬉しいです」と伊藤さんは話した。

日本でストリートチルドレンを見かけないのは、「すべての親がきちんと子どもを育てられるから」ではない

ちなみに、日本でストリートチルドレンを見かけないのは、教育の差もさることながら「児童福祉法」によるところが大きい。

子どもが路上出ていたら、児童福祉として保護されるからだ。
日本では保護者が子どもを養育することができない場合、子どもは児童養護施設や養育里親のもとで過ごすことになる。その数3万人弱。(そのうち、入所理由が虐待という子どもは約6割、何らかの障害のある子どもは約3割。)

「子どもを養育できない親」は日本にもいるが、それが見えにくいだけとも言える。

現に、2009年に40歳未満の若者ホームレスを対象に調査を行ったところ、子どもの頃から貧困や親がいないといった中で育ち、家族との関係悪化をきっかけに路上に出たことから「戻れる、頼れる実家・関係性」がない若者が多いことがわかった。

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若者ホームレス白書(認定NPO法人ビッグイシュー基金)


彼らはみな、
“頑張っても意味がない”
“自分なんか必要とされていない”
“相談できる人はいない”と言う。

家庭の貧困や両親の不和といった何らかのマイナスの要素をきっかけに、選択肢が少なくなったり、より良い未来が描けなくなること、それは“格差が固定化すること”に繋がる。これが、日本にもフィリピンにも共通する、大きな問題だと考えられるのではないか、とビッグイシュー日本の佐野未来は話す。

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結びに、佐野から「国内の貧困と海外の貧困、どちらが優先か?」と、提起。

「グローバル化によって人も物も国境を越える中、支援する相手を国境で区切るということはできないと思います。

また、フィリピンは若い国だという話がありましたが、少子高齢化の日本では、(労働力が足りなくなる・技術開発の面などでも)若いフィリピンに助けてもらう場面が今後出てくるだろうと思います。 そのような意味でも、フィリピンの貧困にも目を向けて、“仲間”として共に解決に向けて取り組んでいく姿勢が必要なのではないでしょうか。」と話した。

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会の締めくくりとして、「貧困問題解決のために、今日から自分ができること」というお題が出され、再度グループごとの話し合い、活発な議論が交わされた。

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「問題について知るということがまず大切」「買い物をするときにフェアトレードのものを選んだり、社会貢献に積極的な企業の商品を買う」といった声があがった。


ACC21について
「ACC21」は、2005年3月に設立された国際協力NGO。 アジア12カ国の100以上の現地NGOとのネットワークをもとに、“アジアの人々が共に生き、支え合う、公正な社会”をビジョンに掲げ、現在は政策提言や現地NGOを支援する公益信託の事務局の他に、困難な状況にある人たちの自立支援、国際協力を担う人材育成などの活動に取り組んでいる。

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クラウドファンディングにご協力ください。(2019年5月30日まで)
ストリートチルドレンをゼロにしたい!フィリピンの路上で暮らす若者に雇用と未来を


認定NPO法人アジア・コミュニティセンター21(ACC21)
http://www.acc21.org/







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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。