反政府デモが世界各地で勃発、主要都市が何ヶ月にもわたって“機能停止”に陥るなどの影響が出ている。ボリビアのラパス、チリのサンティアゴ、リベリアのモンロビア、レバノンのベイルートなど例には事欠かない。なぜいま、世界各地で反政府デモが活発化しているのか。アカデミック関係者が執筆するニュースメディア『The Conversation』の記事を紹介しよう。執筆者はジョージア州立大学政治学のヘンリー・F・キャリー准教授。
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世界的に広がる混乱の波 ― 各抗議活動にはその地域独自の事由と動きがある一方で、すべてに共通する特徴もある。それは、高まる不平等、政治腐敗、経済停滞にうんざりした国民が、腐敗政治を終わりにし、民主的な法の支配の復活を要求しているという点だ。

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外交専門誌『Foreign Affairs』でも指摘されているように、ラテンアメリカ地域の多くの国々で暴力に訴えるデモ活動が長期化していることと、当地域が世界で最も経済成長率*が低いこと、さらに、世界ワーストレベルで不平等が蔓延していることは偶然の一致ではない。
*2019年は0.2パーセント。
ボリビアのエボ・モラレス元大統領は農民や先住民などから厚い支持を受け、長期政権を築いてきた。しかし、選挙不正疑惑を受けて大規模な抗議デモが発生、国軍からも辞任を迫られ、2019年11月11日に政治亡命が受け入れられた(在任期間2006年1月‐ 2019年11月)。
レバノンでも、2019年10月に大衆による抗議デモが激化、サード・ハリリ首相が辞任を表明した。 デモが発生しているこれらの都市では、地方で極貧の生活を送っていた人々が、気候変動や小規模農家を苦しめる国の政策、地方の農業を衰退させる国際貿易などの煽りを受けて農村から締め出され、都市部に流れ込んできている。「人の移住」を研究してきた者としては、こうした地方から都市部への移住が、激化するデモの一つの要因になっていると考える。
今やメガシティは世界25都市。急速すぎた発展がもたらしたもの
世界の大都市は、ここ70年にわたって “持続不可能” なスピードで発展してきた。人口1000万人超えの「メガシティ」は、1950年にはニューヨーク都市圏と東京だけだった。それが95年には14都市に増え、現在では25都市となっている。現在、世界の人口76億人のうち 42億人(55%)が都市圏に住んでおり、さらに2050年までには68%が都市部へ移動するだろうと国連は予測している*。*68% of the world population projected to live in urban areas by 2050, says UN
最近メガシティに加わった都市のほとんどは、アフリカやアジア、ラテンアメリカの発展途上にある地域だ。これらの都市では、よりよい暮らしを求めて地方から移住する者たちが殺到、人口の自然増に追い打ちをかけている。
だが、そこで移住者たちが目にするのは、無秩序に広がる非公式の居住区、通称「スラム街」と呼ばれるものだ。このような社会の片隅に取り残された地域は、国によって呼ばれ方は色々だが(ブラジルでは「ファヴェーラ」、ハイチでは「ビドンヴィッレ」、アルゼンチンでは「ビジャ・ミセリアス」)、どこも非常に似た特徴を持っている。

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自治体から見捨てられ、たいていは下水設備、きれいな飲み水、電気、医療施設、学校などが整備されていない。さらに立地も、氾濫の多い水辺、急傾斜の山の中腹など、危険な場所であることが多い。
経済だけでなく、かなりの程度で政治にも、薬物・人身・武器などの違法取引で利益を得ている犯罪組織(ギャング)が入り込んでいる。特定の政党と結びつき、政治家らの“武装した用心棒” の機能を果たしているのだ。地方からの移住者の多くは、身分を証明するものも社会保障の受給権もない、住宅や金融サービスを受けられない。その結果、このような闇取引に関わらざるをえなくなる。
こうした状況が生み出すもの、それは “略奪的” かつ “違法” な関係性*で、多くの途上国ではいまだによく見られる。地方の経済的上流階層が農家に雇用・融資・作物の種・現金・保護を提供し、農家はその見返りとして税を納め(たいていは農作物の一部)、政治的な忠誠を示す。ただし、スラムのような不安定な市場経済においては、このパトロンとなるのが犯罪組織なのだ。
* 社会学では「パトロンとクライアントの関係性」と呼ばれる。
不満が炸裂する舞台が大都市へ
今日起きている多くの社会的混乱、その根底にあるのは日常生活における不当な扱いだ。まともに機能していない物騒な場所で暮らす大勢の人々を、度を越すレベルで排除してきたために人々の怒りが爆発、犠牲者を出すほどの混乱を引き起こしているのだ。ハイチでは、政治腐敗、燃料不足、食料不足に抗議する大規模なデモが9週にもわたり決行された。デモ参加者の大多数は、極貧にあえぐ首都ポルトープランスの住民たち。今まさに飢えに直面しているがゆえに、抗議をやめる気はさらさらない模様*。
*Why Haitians say they won’t stop protesting
チリは建て前的にはラテンアメリカで最も豊かな国とされているが、実際には生活苦にあえぐ人々を大量に抱えている。地下鉄の運賃値上げをきっかけに、2019年10月中頃に始まったデモは今も続いており、参加者の中心はサンティアゴ郊外の貧困地域に暮らす地方からの移住者や若者たちだ。ちなみに、ラテンアメリカ諸国の中で国内移住者の割合が一番高いのはパナマで、二番目がチリだ。

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ただし、地方出身者が都市部へ移動すること自体が社会的大混乱をもたらすわけではない。それは、2015年に発表された「アフリカ・アジア34都市の国内移住、貧困、不平等に関する20年間のデータ分析」でも示されている。それよりも問題なのは、移住者が直面する教育や住宅機会のお粗末なまでの不公平さである。それが、社会経済的な枠組みから取り残されるひどい境遇と合わさって、不満を大きくするのだ。
貧しい地方から逃げ出したのに、都市でもまた貧しい暮らしを強いられれば、人々の不満は募るばかり。ヨーロッパ各地で領主を排した農民反乱から2世紀が経った今、今度は大都市が怒りや不満を吐き出す舞台となり、国全体を揺るがそうとしている。
By Henry F. Carey(ジョージア州立大学政治学准教授)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo
【参考記事】
・Why are there so many protests across the globe right now?
・Global protests share themes of economic anger and political hopelessness
・Why Latin America Was Primed to Explode
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