人生を振り返ったときに、「あの時ああしていればよかった」「あの頃の自分に大丈夫だよと言ってあげたい」と思える経験は一つや二つはあるのではないだろうか。では、人生につまずきホームレス状態に陥ってしまった人たちは、自分の過去を振り返りどんな言葉をかけるのだろうか。


国際ストリートペーパーネットワーク(INSP)では毎年、クリスマス恒例企画として世界各地のストリートペーパー販売者に記事を執筆してもらっている。2019年はINSPが25周年を迎えたこととかけて、「25歳の自分に宛てた手紙」を書いてもらった。

17ヶ国、25のストリート誌から50人以上の販売者の手紙が寄せられた。過去に思いを馳せる者、未来を垣間見る者、今現在の生活を見つめなおす者...彼らの今の思いとは。

オーストリアのストリートペーパー『Apropos』

「どんなに辛くても、諦めるな」/ルイス・スラマニグさん(62歳)

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今、振り返ると、辛い時期を乗り越えてきたことも、自分のアパートがあってちゃんと鍵をかけられる自分だけのスペースがある今の生活にも、とても満足しています。暖かい家に住めることはとても大切なこと、心から感謝しています。

もし今25歳だったら、“(私の人生に起きたようなことは)起きてほしくない” と思うでしょう。すべてを乗り越えてきた私をよくやったと言ってくれるのではないでしょうか。

ストリート誌の販売を続けられる若者はそう多くないと思います。25歳の自分には、“どんな困難があろうと、決して諦めるな!”と伝えたいです。どんなに辛くても必ず打開の道はある、実際に私がそうでしたから。


「若いうちに、世界を旅しろ」/アンドレア・ホーシェックさん(57歳)

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 あれから長い年月が過ぎ、私は57歳になりました。毎日、オフィス街やデパート、ライブハウス前など、いろんなところに出向いて雑誌販売をしています。行く先々で新たな常連さんが見つかります。

26歳でフォアアールベルク州からザルツブルクに出て来ました。とにかくお金がなく、目の前の困難を乗り越えることに必死で、学業も職業訓練も途中であきらめざるを得なかった。もしあの頃、何らかの支援や自分なりの “成功体験”があれば、状況は変わっていたのではと思います。

この仕事で裕福になることはありませんが、私たちの“生命維持装置”のような存在だと思います。雑誌を販売するだけでなく、自分のコラムも掲載してもらっています。

自分の人生には満足しています。健康的な食事ができ、雑誌販売を通じていろんな人と出会うことができていますから。
親愛なる25歳のアンドレア、君はまだストリート誌の存在を知らないだろうね。

『Apropos』は創刊20年を迎えました。創刊当時は社会弱者を救う活動は他になかったので、多くの人にとってストリート誌の販売が唯一の収入源でした。今ではそういった活動もかなり増えましたが、多くの販売者は今でもストリート誌の販売で生計を立てています。

私が今やってみたいことは、のんびり写真を撮ったり、自然を楽しむこと。親愛なる25歳のアンドレア、若いうちに世界を旅してサンティアゴ巡礼の道を歩きなさい。そして、『Apropos』の素晴らしい活動について人々に伝えなさい。

ノルウェーのストリートペーパー『Asfalt』

「鏡を見てこれでいいのかと自問しろ」/チェティル・ジョンソンさん(53歳)

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25歳で君はギターを持って、飛行機でシアトルに向かった。アメリカでミュージシャンとしてやっていけたらと願ってな。

“曲づくりの才能がある!” なんてよく言われて調子に乗ってたけど、あの頃の俺に”そんなにつけあがるなよ!”と言いたい。ヘロインでキャリアを断たれるミュージシャンは多く、俺も漏れなくそうなってしまった。あの頃の自分が今の私を見たら、“53歳になっても変わらずロックな人生を歩んでるな!”と思うだろう。

25歳の頃は、一介のミュージシャンにすぎなかった。お前はまだ若すぎる、頑固すぎる。頼むから俺の二の舞になるな。でないと、何もしないうちに命を落としかねないぞ。鏡に映る自分に、俺はこれでいいのか?と確認し、可能なら逃げるのもありだ。とにかく、今をしっかり生きろ!

英国のストリートペーパー『The Big Issue (UK)』

「自分に厳しすぎると他人の過ちも許せなくなる」/アン・ワーク

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君はいろんな失敗をやらかすだろう。自分に厳しくしすぎると、他人の過ちも許せなくなるから気をつけて。それから、友達や家族、社会が期待するような生き方をしていないからといって、自分を愚かに感じることはない。心配し過ぎることなく、自分を信じて生きなさい。きっと、いろんな人に好かれ、愛される人になれるさ。

「教育の機会を最大限に利用しなさい」/ドナ・バーロー

06b

教育の機会を最大限に利用しなさい!私は15歳で母親になった。いろいろと “最高”の人生ではなかったけど、“最悪” でもなかった。私はまだ踏ん張っているもの。大丈夫よ。


「学問を続けてやりがいのある仕事を」/リー・クーク

06c

学問を続けて、やりがいのある仕事に就きなさい。人生は厳しいし簡単じゃない。でも、君はうまくやっていけるさ。

「問題を受け止められる人でいて」/リチャード・ブロードウェイ

06d

あの頃は、今ほど子どもを守る法律もなく、施設にいる子ども達には “声”がありませんでした。
問題にぶつかったなら、それを受け止められる人でありなさい。
そんな忠告があったら、私の人生もちょっとは違ってたのかなと思います。

英国のストリートペーパー『The Big Issue North』

「家族を持って」/ニコリー(38歳)

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結婚して、家族とマイホームが持てるよう努力してほしい。両親のことも大事にして。神の教えをよく知れば、良い決断ができるようになるでしょう。

「他人の忠告に耳を傾けなさい」/デイブ(48歳)

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いろんなことがもっと違っていたらと思います。もしやり直せるなら、学生時代に戻って、数々の過ちを正したい。よく分かっていたつもりだったけど、違った。
準備もせず取り掛かるのではなく、他の人からの忠告にしっかり耳を傾けなさい。


スウェーデンのストリートペーパー『Faktum』

「神はお前を見捨ててはいない」/ラース・ショーベリ(74歳)

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25
歳の頃に、大学は卒業できないなと気づいた。教師を目指して勉強していましたが、最後の学期をパスできなかった。毎晩飲み明かすようになり、だんだんと自分はアルコール依存症なんだと認識するようになった。

ある日、病院にかかろうとしたけど、何のサポートも得られなかった。あの頃は自分にひどい視覚障害があることを認めたくなかった。結果、路上生活になってしまった。公的扶助をもらいながら、ちょっと仕事しては旅に出てた。旅先では自由を感じたね。パブやビストロで出会う人たちと軽く浅い人づきあいを楽しめた。誰も俺の目の障害を知らなかったから負い目を感じずに済んだ。2つの人生を生きているようだった。
でも酒は飲み続けた。
当時のスウェーデンでは、申請すれば難なく社会扶助を受けられたんだ。自治体の財政も豊かだったからね。心理療法も3年間受けることができ、そのおかげで自分の障害を受け入れられるようにもなった。
25歳の自分へ。子どもの頃は信じていた神様を信じられなくなっているだろ。でも神様はお前が戻ってくるのを待ってる。心配するな。俺は56歳の頃に救ってもらった。神様とは若い頃に縁を切ったと思っていたけど、違った。救ってもらったときは路上生活4年目で、もう耐えられそうにないくらい人生のドン底まで堕ちてた。
最近、『Faktum』を販売していないときは、聖書を無料で配る活動もしている。
環境問題、紛争、病気が世界中に蔓延している今、若い人に言えることなんて何もない。グレタ(・トゥーンベリ)が起こしているムーブメントはすばらしいと思う。国連やローマ法王はじめ、いろんな世界レベルの運動が、貧困や病気、環境破壊や汚染のない世界をつくろうとしてるのもわかる。俺は、若者に限らずすべての人に希望を広めたい。神とともにあることで得られる希望と喜びをね。


スロベニアのストリートペーパー『Kralji Ulice』

「冷静かつ素直でいなさい」/タウビ(53歳)

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クレジット:Jean Nikolic

親愛なるタウビへ

“親愛なる” なんてかしこまった言い方は嫌がるだろうな。でも君もこんな呼ばれ方にだんだん慣れていくさ。

ひと月前、夜中にピザ屋に侵入し、勝手にピザを焼き、かっこつけてビールを注いで、焼き上がるのを待ったよな。ピザ職人みたいだったかって? 何を言ってるんだ、ただの間抜けだよ。君はハイになってたから気付かなかっただろうけど、すぐ近くにいた警官がガラスを叩き割る音を聞きつけていた。それが現実だ。

君はその後も本当にばかげたことを何度も繰り返していくが、詳しいことは言わないでおくよ。腹を立てて、この手紙をゴミ箱に投げ捨てるだろうから。

私から薬物をやめろと言うつもりはない。数年もすれば思い知るだろうからね。肝炎、HIV、エイズ……そういった病気を知らないのかい? まあ、いずれわかるだろう。君自身が巻き込まれずに済むのは、神の気まぐれとしか言いようがない。とにかくあの頃のお前は自暴自棄になってたな。

ガールフレンドのことを覚えてるかい? 彼女のためなら何でもしたよな。覚えてない? 薬物やアルコールで脳がおかしくなったのか? 心配するな。一時的に忘れているだけのことだ。頭の中が彼女のことでいっぱいになる日がまた来るから。

君がこの手紙を真に受けず、私をばかにしたがるのはわかる。だけど、少しだけ考えてみてくれ。 まもなく君は刑務所に入ることになる。刑務所の中でまで突っ張るな。取り乱さず、冷静かつ素直でいなさい。それが君のためになるから。私は最近になって刑務所を出た。外には獄中とはまったく違う時間が流れてた。時代は変化している。でも愚かな行いから、人生の教訓を学ぶこともある。これは時間が経ってみないと分からないだろう。とにかく私を信頼してほしい。

追伸:この手紙を50歳になったときにまた読み返してほしい。君は人生であらゆるものを失うことになるが、この手紙があればそれを思い出せるはずだ。

信頼できる大先輩より

セルビアのストリートペーパー『Liceulice』

「一生懸命働いて、人生を謳歌せよ」/マラ・ミレティッチ(63歳)

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私は25歳で結婚し、娘のティヤナが生まれました。娘の顔を見た瞬間、人生の美しさを感じました。娘と過ごす時間――歌を歌ってあげて、一緒に遊んで、おむつを替えてやる時間が大好きでした。すてきな人形を買ってあげたこともありました。
すべての若者へ。自分の行いには気をつけ、一生懸命に働き、日々奮闘し、人生を謳歌してください。

「知力は腕力に勝る」/ボヤン・ヴロヴィッチ(42歳)

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25歳の私は今より働き者で、器用で、賢かったかもしれません。でも、音楽の好みは変わっていません。今も昔もクラシック音楽が大好きです。

私から若者へのアドバイスは、「知力は腕力に勝る」です。適切なタイミングで自分の知性を高めることに投資すれば、将来、後悔せずに済むでしょう。



北マケドニアのストリートペーパー『Lice v Lice』

「すべての人に思いやりを」/ハサン・アメトフスキー(ハリ)(55歳)

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クレジット:Tomislav Gergiev

  30年前に時を巻き戻し......私が25歳だったのは1989年。当時の私はバラ色メガネ、つまり理想主義的な視点で世界を見ていたように思います。家族との生活、安定した仕事と収入があった上に28もの青年活動に関わっていました。誠実な友人にも恵まれ、生活にワクワクしていました。全世界が自分の手中にあるようで、私の人生を壊すもの、人生をがらっと変えてしまう出来事が起こるなんて考えもしませんでした。

今ここに25歳の自分がいたら、いろんなことに失望するでしょう。人と人との関係性、コミュニケーションの取り方、行動の目的が変わってしまいましたから。経済も生活環境も悪化、お互いが足を引っ張り合うような社会になっています。

当時の私には、こんなことを伝えたい。
55歳になった君からのメッセージをよく聞きなさい。周りの人々に感謝し、尊敬の念を忘れず、無力な者たちを助けなさい。国籍や宗教で分かつのではなく、すべての人に思いやりを持って接するのです。

人生はいつ何が起こるかわからない。あらゆる瞬間を大切にしなさい。人生はあまりにも短い。懸命に生き、楽しみ、その経験を周りの人と分かち合いなさい。

これが私の正直な思いです。君には自分が愛する街やコミュニティでホームレス状態になってほしくないから。


ドイツ(デュッセルドルフ)のストリートペーパー『FiftyFifty』

「しっかり学んで専門職に就いて」/ゲルハルト(60)

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25歳の頃は仕事もあって、今よりはるかに良い暮らしをしてました。またあの頃に戻りたいけど、時を戻すことなど誰にもできません。もし戻れるなら.....しっかり学んで専門職に就くことを強く勧めたいです。そうしてこなかったことを今でもひどく後悔していますから。いい人を見つけて家庭を持ちなさい、とも忠告したいです。あの頃はまだドイツにストリートペーパーはなかったけど、もしあったなら、きっと定期的に買っていたと思います。


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この「若い頃の自分への手紙」シリーズは『ビッグイシューUK』(英国版)が10年以上前に始めた取り組みで、著名人へのインタビュー含め、毎週掲載が続いている人気シリーズだ。過去記事を集めた書籍『Letter To My Younger Self』も2019年10月31日に出版されている。
https://www.blinkpublishing.co.uk/letter-to-my-younger-self.html


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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。