ろくに村の外に出たことがない、にもかかわらずエコな生理用品を作るソーシャルビジネスを始めた主婦がいる。インド西海岸のゴア州ビコリム村に暮らすジャイヤシュリ・パリワールだ。プラスチックを使わない、天然素材だけで作る生理用ナプキン「サキ(Sakhi:ヒンディー語で友達を意味する)」を、近所の女性たちと力を合わせ、インド国内の多くの女性たちのもとに届けている。

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acworks/ photo-ac


水・衛生問題に取り組む「ウォーター・エイド・インド」と「インド月経衛生管理連盟(MHAI)」が共同で作成した「生理用品のごみ」に関する2018年度版報告書*によると、インドの女性や少女たちの生理用ナプキン年間使用量は120億枚を超え、素材によっては分解されるのに800年もの年月を要する。

*出典:Management of Menstrual Waste - Insights from India and Pakistan

現在使われている生理用ナプキンの大半は、素材の90%以上にプラスチック混合物が使われており、これはレジ袋4枚分に相当する量だ。

ゴア州はインドでは「最も小さい州」の一つだが、年間7,300トンものプラスチックごみを排出している現実がある。2022年までに“プラスチック・フリーの実現”を目指している州政府にとって、プラごみ管理という巨大な問題が重くのしかかっている状況、とゴア州汚染管理委員会は述べている。

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ゴアはインドで最も小さな州の一つだが、年間7300トンものプラスチックごみを排出している。
Stella Paul/IPS


プラスチックの膨大な消費の主要因は「観光業の盛り上がり」にある。人口約160万人のゴア州に、毎年、人口の4倍もの観光客が訪れているのだ*。インド国立海洋学研究所では「ビーチ・クリーンアップ活動」を定期的に開催しているが、ビーチに散乱しているプラごみの大半は地元で廃棄されたものだという。

*インドは経済発展により国内旅行を楽しむ中産階層が急増している。1961年にインド軍が領土を併合するまでポルトガルの植民地だったゴア州は、ヨーロッパ文化とインド文化が息づく街として人気の観光地。コロナの都市封鎖解除後は、7月よりホテル営業が制約付きで再オープンされた。
参照:
Goa reopens for domestic tourists with restrictions amid COVID-19 spread

具体的な数字は知らないまでも、パリワール自身も自分が暮らす州でプラごみの迷惑行為が増えていることは認識していた。「どこに行ってもプラスチックごみを目にしますし、ビーチには山のようにごみが散乱している。プラスチックのカップ、ボトル、スプーンなど多くは旅行者やホテルが使ったものですが、地元の人たちだって買い物のレジ袋など、プラスチック製品をたくさん使ってます」。環境に配慮した生理用ナプキンの製作は、プラごみ減を目指した彼女なりのやり方なのだと付け加えた。

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ジャイヤシュリ・パリワールは仲間たちとゴア州の村でエコな生理用品を作り、大都市の女性たちに届けている。
Stella Paul/IPS


環境負担を減らす「小さな一歩」

環境に配慮したナプキン製作に挑むパリワールの「旅」は、2015年の夏、自宅の居間に隣接したトタン屋根の狭い小屋で始まった。本人いわく、そこが「工場」だった。

近所に暮らす3人の女性たちも加わった。彼女たちは皆、低所得層の家庭で育った。大学は行ってない。だが、家族や子どもたちの生活をより良くしていきたいとの強い思いをもっている。

数百ルピー*の資本金と地元の医師スッブ・ナーヤクが寄付してくれた圧縮機と、乏しいリソースでの出発だった。ナーヤク医師が機械の使い方を教えてくれ、コインバトール(タミル・ナードゥ州の第2の都市)の原料供給業者ともつないでくれた。

*為替は1ルピー=約1.41円

「作業工程はとても簡単で、ナプキン一つ作るのに所要時間は5分ほどです。まず初めにマツ材の繊維を粉状にします。それを型に入れてプレスし、不織布でくるみます。片側にワックスペーパーを貼り付けたら、殺菌処理をして完了です」メンバーの一人ナスリン・シェイクが説明する。

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生理用ナプキン「サキ」は完全天然素材で作られているため、8日で堆肥化される。
Credit: Stella Paul/IPS 


機械とナプキン作りのスキルは揃った。だが、肝心のお客さんがいなかった。

ありがたいことに、政府の都市開発局をはじめとするさまざまな方面から支援の手が差し伸べられた。「クリーン・インディア・ミッション*」を率いた役人スミット・シンが、ECサイトを使った販売方法を教授してくれた。ビジネス経験も無く、わずかな財源しかないパリワールたちは、オンライン販売について知りワクワクした。「オンラインショップで販売することに決めました。自分たちで店舗やショッピングモールに出向いて営業する時間もありませんし、やり方もよく分かりませんでしたから。それにオンラインなら、ゴア州以外の人々にもお届けできますしね」とパリワール。

*屋外での排せつ問題改善を目指し、2014〜19年に実施されたインドの全国的なキャンペーン。

15年の起業から4年の歳月をかけて、顧客基盤を築いてきた。ビジネスを成長させるべく銀行から融資を受けようとしたが、何度も失敗。最近になってようやく、小屋からもっと大きなスペースに拠点を移すことが叶った。今はこの新しい「工場」で、毎月1000枚のナプキンを製造している。

「生産量はまだ月に1000枚だけですから、ほんの小さな歩みに過ぎません。でも、どんな小さな一歩でも、まずは歩み出すことに意義があるとも感じています」パリワールが言った。

ムンバイ、プネ、バンガロール、ハイデラバード、ニューデリー等、インド国内の大都市からも注文が入るようになった。有名ブランドやメーカー企業のように広告を打つ力はないが、口コミやソーシャルメディア、そして人々の環境意識の高まりが、彼女たちのビジネスを後押ししている。

「私たちが使うのは、マツ材の繊維、不織布、ワックスペーパーと天然素材だけ。かゆみや肌荒れの原因となるものは一切使っていません。学校や団体向けに何度も公開実演し、実際に身につけてもらったり、堆肥化する様子を見てもらいました」と語るのは、もう一人のメンバー、アリタ・ ピルガオンカル。

使用後の生理ナプキンは、土の中に埋めると8日ほどで分解される。価格は8枚入りで40ルピー(約56円)、96枚入りの大量パックで700ルピー(約989円)。一般のものより廉価な価格設定だが、それでもわずかながら儲けを出すことができていると言う。

販売ページ(外部サイト)

再利用できる布ナプキンに乗り換えることの大きな環境メリット

果たして今後、“プラスチック・フリー”の生理用ナプキンに完全移行させることは可能なのだろうか?増え続けるプラごみを抑制していけるのだろうか?

理論的には可能だが、「今足りていないのは、意志の力」と語るのはエコ・フェメ*の共同創業者キャシー・ウォークリング。女性主導で、手頃な価格で再利用可能な布ナプキンの製造・販売を行っているビジネスだ。拠点はインド東海岸ポンディチェリー近郊の実験型エコビレッジ・オーロヴィルにある。

*Ecofemme

「現在インドでは、月経がある女性や少女たちは約3億5500万人。1人が月に10枚のナプキンを使うとしても、年間でおよそ426億枚のナプキンがプラごみとして廃棄されています。もし布ナプキンに乗り換えることができれば、一人が生涯に出す生理用品のごみを約125kg分減らせることになります」とウォークリングは言う。 「こういった取り組みを政府がバックアップしてくれると、もっと大きなうねりを起こしていけるのですが」

だが、環境工学者で、国際シンクタンクIRC WASH(オランダ拠点)の元プログラム担当官エリン・バッカー・クルイネは、「大きな変化は起こすには、現在のごみ処理システムを見直す必要があるでしょう」と述べる。現在、使い捨てタイプの生理用品は「焼却処理」されており、これでは環境汚染レベルを上げるだけだと。「焼却処理のような産業プロセスを必要としているようでは、厳しいと思います。大事なのは、ナプキンの素材をどう分解させていくかです」

とにかく、使い捨てタイプはごみの量がバカにならない。しかし多くの人たちが、布ナプキンより清潔だからと「使い捨てタイプ」を好んでいるのも事実だ。まずは、プラスチック製品を使わないようにすることを“前向きな一歩”としてもらえたら、と二人は口を揃える。

2020年に入り、新型コロナウイルス感染症と都市封鎖がインドの経済セクターに大打撃を与えたわけだが、パリワールたちのビジネスも例外ではない。お世話になっていた供給業者が営業を停止したため、彼女たちのビジネスも危ぶまれたが、最近になって、ムンバイに別の供給業者を見つけることができた。一時的に販売は落ち込んでいるが、コロナが終息すればまたすぐに復活できるとパリワールは自信たっぷりだ。なぜなら「女性たちの月経がなくなるわけではありませんから」。

By Stella Paul
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo

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