「代理出産」という物議を醸してきた問題、とりわけその行為にまつわる金銭授受について、英国の法律は見直しが必要―― そう主張するのは2017年までイングランド・ウェールズの高等法院家事部の主席判事を務めたジェームズ・マンビー卿だ。英国の代理出産事情について、グラスゴー・カレドニアン大学応用哲学部のヒュー・マクラクラン名誉教授の主張を紹介する。

英国:代理出産は合法だが、「仲介」は違法

代理出産の道義性については長年にわたり議論されている。一般的に「商業的代理母出産(commercial surrogacy)」は違法で、代理母に金銭を支払うことは犯罪行為にあたると考えられ、メディアでも度々報じられている。が、これは事実ではない。

英国では1985年に成立した「代理出産取り決め法(Surrogacy Arrangements Act)」があり、依頼者である夫婦が代理母に金銭を支払うこと、それを代理母が受け取ることは違法ではない。ただし、(依頼者でも代理母でもない)“第三者”が金銭をやり取りすることは違法とされている。

つまり、“営利目的”で代理出産の仲介業を行うことは、業者としても個人としても違法である(注:非営利の支援団体は存在する)。そのような商取引が裁判所に認められることもない。「代理出産取り決め法」でも、1990年に制定された「人の受精及び胚研究に関する法律(HEF法)」の第36条第1項においても、“代理出産の取り決めはいかなるものも法的強制力はない”と規定している。

必要以上に支払うと親権が認められない現状

代理出産を依頼した夫婦は、裁判所に申請することで代理母が生んだ子と法的な親子関係が成立する。だが、その申請が認められるのは、夫婦から代理母に「合理的に発生した経費」以外の金銭またはそれ相当の手当が “支払われていない” 場合に限られる(裁判所からの事前認可がある場合を除く)。

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代理母への支払い規制を解除するなど、法律の見直しが必要
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しかし裁判所も、代理出産の一連のプロセスが終わった後の金銭授受に関しては、“ノータッチ” で済ます傾向がある。新しい家族を混乱させたくないとの意図からなのだろうが、法律で規定されていることと実際の運用に矛盾があるのはよろしくない。当事者たちと裁判所間の信頼関係や敬意といったものも揺らいでしまう。

代理出産を取り巻く法律を実態に合わせて見直すべきではないか。「合理的に発生した経費」以上の金銭を支払ったら依頼者夫婦に親権が認められないという、恣意的で冷酷な規定は廃止されるべき、というのが私の考えだ。

“貧しい人の弱みに付け込んでいる”への反論

そもそも商業的代理出産は“倫理に反する” と考える人たちは、代理母となる人は依頼者夫婦よりも貧しいことが多く、その弱みに付け込んでいる。また赤ちゃんの“商品化”につながりかねないと主張する。が、その見解も妥当とは言えないというのが私の意見だ。

「弱みに付け込む」とは単に誰かを利用することではなく、誰かを“意図的”に“不当”に利用することをいう。例えば、強盗に時計を奪われればそれは強奪行為だが、本人が売ろうとしている時計を誰かが買いたいと申し出た場合は、そもそもの販売目的が“お金がないから”であっても、それは「不当な行為」にはあたらない。つまり、貧しくて必死だからといって、そうすると心に決めた代理母の選択をはなから否定すべきではない。

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代理出産は違法ではない Shutterstock

親族などから不当な圧力をかけられて代理出産し、金銭を親族がかすめ取っていく場合は、親族による代理母への“搾取”とすらいえよう。しかし、「代理出産が本質的に代理人母側の弱みに付け込んだものである」というのは違う。なかには、代理母が子どもの引き渡しを拒否する、依頼者から受け取った金銭の返却を拒否するなど、代理母側が起こす“非倫理的”なトラブルだってあるのだ。すべての代理出産の取り決めが法的強制力を持つように法改正すれば、このように非倫理的なリスクを低減できるのではないだろうか。

商業的代理出産は決して道徳原則に反するものではない、と私は考える。もちろん生まれた赤ちゃんは「商品」としてではなく、それ自体が「道徳的なもの」として扱われるべきだ。結婚相談所を利用する場合も、支払う料金で「配偶者」や「結婚」を購入するわけではないのと同じで、商業的代理出産でも、その購買対象となるのは「代理母による出産の代行」であって、赤ちゃんそのものであってはならない。今後、仲介業が合法化されたとしても、購買対象となるのは「業者が提供する仲介行為」であって赤ちゃんではない。

待ち望んでいた赤ちゃんの親にどうなるかよりも、(法改正を)どのように考え、行動するかが問われている。

著者
Hugh McLachlan
グラスゴー・カレドニアン大学応用哲学部名誉教授

※ こちらは『The Conversation』掲載記事(2018年12月20日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
The Conversation

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