もはや家族の一員となっている犬も珍しくない昨今だが、皆さん、犬のフン処理はどうしているのか。トイレに流す人もいるかもしれないが、ビニール袋に取って生ごみに出す、が主流だろう。日本でペットとして飼われている犬は879万頭を超えるというのだから*1、処理のためのビニール袋の量もばかにならない。
食べたものはフンとなり、その先は...?/Carol Von Canon/Flickr, CC BY-NC-SA
従来のビニール袋は石油や天然ガスから生成されるエチレンが原料。このエチレンは容易に分解しないため、ビニール袋がプラスチック公害の主な原因となっている。現在、プラスチックごみの4分の3以上が埋め立てられ、5%近くが海洋に流出。リサイクルされているのはたった9%だ*2。
*1 2019年全国犬猫飼育実態調査結果より
*2 A whopping 91% of plastic isn't recycled
「生分解性ビニール袋」の真実
ペットの飼い主のあいだでも、犬のフンを取る袋を「生分解性(biodegradable)」のものに切り替える人が増えている。しかし、生分解性をうたっている製品の多くが、実は埋め立て処分場で分解されていないことをご存知だろうか。Image by kalhh from Pixabay
「生分解性」とは、ある環境下で微生物、または温度・光・酸素といった要因によって自然に分解されることをいう。生分解性物質と聞くと、植物など天然由来のものを思い浮かべがちだが、合成物質で生分解可能なものもある。問題となっているのは「生分解性のビニール袋」という呼称だ。「生分解性」と表示されているビニール袋でも、諸条件が適していないと、一部しか分解されない、もしくは分解に長い年月を要することがあるのだ。
ビニール袋が「完全分解」するとは、二酸化炭素や水といった単純な物質に完全に変化し、それらの物質がバクテリアやカビ等の微生物によって摂取されるまでをいう。プラスチックの生分解性は、「カーボントラッキング」などの方法によって実験室で測定することができ、国際標準化機構(ISO)が策定した国際基準もある。
残念ながら、海洋や埋め立て処分場は、生分解性プラスチックの分解に適した環境とは言えないのだ。海洋環境にはプラスチックの分解に必要な種類の微生物が存在しない、または十分な数がいないことが多いし、埋め立て処分場は酸素が不足しがちなため、多様な微生物が存在できないのだ。
おすすめは「コンポスト化が可能」なビニール袋
しかし、コンポスト(堆肥)なら生分解に理想的な環境を提供できる。コンポストには多様な有機物が含まれ、さまざまな種類の微生物の成長を助けているからだ。DNA配列からも、コンポストには驚くほど多種多様な微生物が存在することが分かっている。バクテリアや真菌類、無脊椎動物といった微生物や小さな生き物たちは、さまざまな有機物質を消化・分解することができ、特に真菌類は多くの有機物を分解できる酵素を持つことで知られている。犬のフンをコンポスト化する動きが強まっている/Shutterstock
今は、「コンポスト化が可能」なビニール袋(compostable bags)も販売されている。ただ、分解されるのはあくまでもコンポスト内に限られ、海や埋め立て処分場ではNGだ。
オーストラリア規格協会は、ビニール袋の生分解性の規格を定めている。AS4736-2006はコンポスト全体(産業用プロセスを含む)ならびにその他の微生物処理に適した生分解性プラスチックの規格を、AS5810-2010では家庭用コンポストの仕様を定めている。また、豪バイオプラスチック協会では、製造業者または輸入業者が自社で取り扱うプラスチック素材を検査し認定を受けられる自主的な検証プログラムを運営している*3。
*3 日本では、日本バイオプラスチック協会が生分解性プラスチック「グリーンプラ」と植物生まれの「バイオマスプラ」の認証制度を設けている。http://www.jbpaweb.net
ビニール袋を買うときに注目すべきロゴは2種類ある。1つはAS4736に対応した苗木のマーク*4、もう1つはAS5810に対応した2本の矢印のマーク*5。近くの店舗で見つからない場合は、オンラインで注文するとよい。
*4 Certified Compostable AS4736
*5 The Home Compostable Logo AS5810
使用後のビニール袋をコンポストに投入し、生分解されていく様を観察するのは興味深い。筆者が犬のフンを詰めた袋をコンポストに埋めて2週間後に確認したところ、黒いカケラがわずかに残っているだけだった。袋の印字以外は跡形もなく、腐葉土のような物体に変わり果てていた。比較のため、一般のビニール袋も埋めてみたが、全く変化しなかった。もちろん、これでは袋が完全に生分解されたかどうかの証明とはならないので、実験室にて適切な検査を行う必要があるが。
地域で廃棄物をシェアし合う仕組みも
自宅での堆肥化が難しい場合は、自治体のごみ収集に頼るしかないが、自治体が埋め立て処分している場合は、コンポスト化が可能なビニール袋を使っても意味がない。オーストラリアでは自宅前に置いたグリーンのごみ箱に、家庭ごみやリサイクル可能な廃棄物を出し、自治体が回収する地域もある。しかし現状では、生ごみはその回収対象とならない場合が多いため、犬のフンはもちろん入れられない。一部の自治体では、食品由来や植物由来の有機廃棄物を受け入れていく方向なので、そうなればコンポスト可能なビニール袋も入れることができるだろうが。
豪ヴィクトリア州西部のモイン・シャイア市では、犬のフンを処分するためのコンポスト可能なビニール袋を住民に配布し、他の有機廃棄物とともに「FOGO(Food Organics, Garden Organics=食品由来および植物由来の有機廃棄物の略)収集」と称した廃棄物収集を隔週で実施している。
Image by Manfred Antranias Zimmer from Pixabay
「シェアウェイスト(ShareWaste)*6」という取り組みもある。これは、有機廃棄物をリサイクルしたい住民と、コンポストやウォームファーム(ミミズを使って堆肥を作ること)、養鶏のために有機廃棄物を使いたい近隣住民とをつなぐ仕組みだ。
*6 Share Waste = ゴミを共有するの意
https://sharewaste.com
生活から出る有機廃棄物をコンポスト化することは、雨水をタンクに貯める、太陽光をエネルギー利用するのと似ており、こうした行動は自然とのつながりを深め、この地球上の生命のサイクルを考えるきっかけになるのだから、実用性以上に意味のあることだ。
著者
Leigh Ackland
Professor in Molecular Biosciences, Deakin University
※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2019年4月24日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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