使い捨てプラスチック製品がすっかり浸透した私たちの日常だが、それ以前は何を使っていたのだろう? 80年代以前のスーパーマーケットではレジ袋は珍しいものだった。それがいまや、テイクアウト容器やスーパーのパック包装、安かろう悪かろうな商品まで、プラスチックは私たちの日々の生活に溢れかえっている。
しかし、使い捨てプラスチック製品を見る目は、年々、「手軽で便利」なものから「深刻なごみ問題」へと変わっている。社会にもたらす代償も、廃棄を当たり前とする経済が引き起こす環境問題も、深刻さは増すばかりだ。とはいえ、日々の生活からプラごみを減らすのは一筋縄ではいかない。ましてやカンファレンスのような大規模イベントではなおさらだ。「プラごみを出さないシンポジウム」に挑んだ西オーストラリア大学研究者らのレポートを紹介する。
Image by Bonnie Taylor from Pixabay
570人規模の会議を“脱プラ”に
オーストラリア海洋科学協会(AMSA)の全国会議「Marine Science for a Blue Economy」(2019年7月7-11日)の主催者となった筆者らは、口先だけでなく実行に移すことにした。海洋科学の専門家、学者、学生ら570人が集う、ブルーエコノミー*1をテーマとした会議で、“脱プラ”を決行することにしたのだ。*1 SDGsの開発目標のひとつ。海洋保護と並行して、持続可能な経済・社会成長を目指す海洋産業。
開催地は西オーストラリア州の港町フリーマントル。“7月をプラスチックフリーで過ごす”を掲げた世界的ムーブメント「Plastic Free July*2」が始まった街だ。課題の大きさを知った私たちは、12ヶ月前から準備に取り掛かった。
*2 2011年にオーストラリアで始まった、使い捨てプラスチック製品を1ヶ月使わないという7月に行われる運動。
プラスチックをなくし、ごみの総量を減らす。日々のごみはもちろんのこと、多くの会議で配布されて結局はごみ箱行きとなるノベルティ商品まで、すべてだ。「リサイクル」は解決策の一つでしかない。本気でプラごみ問題に挑むのなら、「(ごみとなるものをそもそも)受け取らない、減らす、リサイクルする」 ことが必要だ。
Plastic Free July
準備したもの
まずは、私たちと志を同じくする協力者選びから始めた。それから、会議の必須アイテムについて、プラスチックを使っていない代替品はないかを探した。以下が私たちが思いついたものだ。
- 厚紙製の名札入れ
- 竹素材のストラップ(金属クリップ付き)
- 100%天然素材のトートバッグ
- 申し込み書類や会議要旨に封筒や紙を使わないこと
- どうしても印刷が必要なものについては、太陽電池を使ったプリンターを使用している企業製の紙を使う
- 水筒または再利用できるコーヒーカップを持参してもらう、又は会場で購入できるよう事前登録制にする
- コーヒースタンドでは再利用可能なカップで提供する
- 各部屋の後方にガラスの水差しとガラス製のコップを準備(各人で水筒に給水可)
- プラスチックの包み紙が付いたミントや飴は提供しない
- ボールペンではなく、環境に配慮した鉛筆を使用(鉛筆削り付き)
- 休憩時の食器はすべて、陶器の皿、銀食器、グラスを使用
- お茶菓子にはベジタリアン用のものを手配
- 展示、ワークショップ、その他プログラム(学生ナイトや公開講座など)の主催者たちにも、配布物やケータリングでプラごみが出ないよう協力してもらう
プラスチック製品を一切使わないシンポジウムを開催
Angela Rossen提供
“プラスチックフリー”のコーヒー休憩
Alicia Sutton/AMSA
そして最も重要な点は、これらの変更を、予算を増やすことなく、また収支決算に影響を与えることなく成し遂げたことだ。
脱プラ会議を開催してみての気づき
- 早めの計画
- 関係者を巻き込む
- 会場を下見する
- 関係者の理解を広める
しかし、どれだけ念入りに計画しようとも、現代のサプライチェーンの中にはさまざまな形でプラスチックが潜んでおり、すべての運用をコントロールするのは思ってる以上に難しい。一回の会議でイベントのあり方を改革しきれなくてもよい。目指すべきは、ごみを出すことへの人々の意識を変えていくこと。570人規模である程度実現できたのだから、自宅や職場でも似たような変化を起こしていけるはずだ。
著者
Elizabeth Sinclair
Senior Research Fellow, School of Biological Sciences and The UWA Oceans Institute, University of Western Australia
Charlotte Birkmanis
PhD Candidate, The UWA Oceans Institute and School of Biological Sciences, University of Western Australia
Robert Pemberton
Business Support Manager, UWA Oceans Institute, University of Western Australia
※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2019年7月10日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
あわせて読みたい
・プラスチックストローの削減運動は「友達に話す」ことから始まった。市長と市議会を動かした小学生、TEDイベントにも登壇・「プラごみを出さない」を売りにした店が好調、クラウドファンディングで2店舗目オープン/ドイツ・ケルンの店「Tante Olga」の取り組み
・プラスチックを使わない食品保存は可能か? 世界のイノベーションと個人レベルの習慣の変え方
*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
上記の記事は提携している国際ストリートペーパーの記事です。もっとたくさん翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。
ビッグイシュー・オンラインサポーターについて
THE BIG ISSUE JAPAN366号
プラスチック革命
https://www.bigissue.jp/backnumber/366/
**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第3弾**
2020/9/4〜11/30まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2020/09/15944/
過去記事を検索して読む
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。