日本でも「返却可能な手ごろなサイズの生のモミの木」が家具メーカーから販売されているが、そもそもクリスマスツリーは生木のものと人工のもの、どちらが環境に良いのかー 環境意識が高い消費者からたびたび質問されるこの問いについて、ミシガン州立大学園芸学と林学研究者のバート・クレッグが解説する。


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この問いは、人工ツリーに市場を奪われないかとやきもきしている生木のツリー業界の関心事でもあるだろう。というのも、米国で2017年に売れた4,850万本のクリスマスツリーのうち、人工ツリーが45パーセントを占め、シェアを伸ばしているのだ。

クリスマスツリー農園で栽培される生木のツリー、トータルのCO2排出量は?

生木のツリーは木を伐採するのだから森林破壊につながっている、多くの消費者はそう考えるかもしれないが、実際には、クリスマスツリーの大半は“クリスマス用”のために特化した農園で育てられている。クリスマスツリーの需要がなければ、そもそも育てられることのなかった木々なのだ*1。

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ミシガン州北部のクリスマスツリー農場で育てられているスコッチパインの木々
Bert Cregg, CC BY-ND


*1 参照:Facts About Real and Artificial Christmas Trees(米国クリスマスツリー協会)

クリスマスツリーが環境に与える影響を調べるのに、研究者らは「ライフサイクル・アセスメント(LCA)」という手法を使用する。苗木を植えてから成木の伐採、廃棄されるまでの全過程において使用する設備、肥料、殺虫剤、灌漑水などすべてのインプットとアウトプット量を計測する。

LCAではカーボン・フットプリント*2の値も算出する。クリスマスツリーの生産において最も温室効果ガスを排出する要素は、運搬における燃料だ。トラクターや輸送トラックのガソリン1ガロン(約3.78リットル)またはディーゼル燃料を使うと、約9~10kgの二酸化炭素(500mlペットボトル約9,000−10,000本)が大気に放出される。

*2 炭素の足跡。製品が販売されるまでの温室効果ガス排出量(CFP)

生木を使うメリットは、木の成長過程で大気から炭素を吸収・蓄積し、ライフサイクルの過程で発生する二酸化炭素排出量を相殺できることにある。木が吸収する炭素量は、伐採時の木の乾燥重量の約50%に相当する。クリスマスツリー大の針葉樹には、地上の組織部分に約20ポンド(9キロ)、地中の根の部分にもほぼ同量の二酸化炭素が蓄積されている、と推計されている。

ただし、運搬時にガソリン1ガロンを消費すれば、それと同量の二酸化炭素を排出することになる。生木のクリスマスツリーを買うのに車を片道10マイル走らせると、それだけで蓄積分の二酸化炭素量は相殺されてしまう。したがって、生木のツリーを購入する際は、なるべく自宅から近い場所で購入することで、環境への影響を抑えることになると考えられる。

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2018年米国国会議事堂のクリスマスツリーは、オレゴン州ウィラメット国有林の木を伐採し、トラックでワシントンD.C.の国立公園ナショナル・モールに運ばれた 
USFS – Pacific Northwest

しかし、ツリー生産者は木が二酸化炭素を吸収するメリットだけをアピールし、殺虫剤の散布や収穫にヘリコプターを使用していることなどで排出される二酸化炭素について触れていないことから、一般向け科学雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』では「見せかけのエコ(グリーンウォッシュ)」だと非難する見方もある。

人工ツリーは中国での製造工程が大きな環境負担

人工ツリーの環境への影響は、生木とはまた異なる。人工ツリーの大半は中国で製造されている*3。中国の製造工場からツリーを輸送するには多くのエネルギーを消費しているのではと考える人は多いが、海上輸送というのは他の運搬方法と比べてエネルギー効率が良い*4。それよりも、最もエネルギーを消費するのは、その製造工程である。

*3 人工ツリーの90%が中国産。参照:Made in USA Christmas Trees

*4 貨物船の温室効果ガス排出を1とすると、トラックは10倍、飛行機は47倍にあたる
参照:Graph: Ocean Shipping the Most Energy-Efficient Mode of Transport


ほとんどの人工ツリーはポリ塩化ビニル(PVC)と金属類を原料とし、その生産過程で温室効果ガスと汚染物質が発生している。中国政府は化学工場による汚染を減らそうと試みてはいるが、そうすると材料や製品の価格が釣り上がる可能性がある。

さらに幅広い観点からサステナビリティ(持続可能性)を考慮すると、生木の生産は米国内の地元コミュニティと経済を支援することになるが、人工ツリーの購入は主に中国の製造業 者を支援することになる。

人工ツリーを4.7年以上使い続けると生木より環境負荷減に

人工ツリー製造業者を代表する「米国クリスマスツリー協会」が、人工ツリーと生木のツリーのライフサイクル・アセスメントの比較を発表した*5。それによると、人工ツリーと生木のツリーの環境への影響の差し引きがゼロになるのは「4.7年」。つまり、消費者が生木のツリーを毎年買うことによる環境への影響を埋め合わせるには、人工ツリーを5年以上使い続ける必要があるのだ。

*5 調査レポート『Comparative LCA of the Environmental Impacts of Real Christmas and Artificial Christmas trees』

しかしこの調査では、木を伐採した後に地中に残される木の根による土壌の炭素蓄積効果は考慮していない。土壌有機物はわずか1パーセント増えるだけで、1エーカーにつき11,600ポンド(約5トン)の炭素を抑えることができるため、この点を考慮すれば、分析結果が変わってくる可能性もあることは付け加えておきたい。

人工ツリーの長期利用、生木のリサイクルを

消費者が生木の育て方や人工ツリーの製造方法に口出しすることはできないが、クリスマスが過ぎた後のツリーの運命は自分たちで決められる。大事なのは、人工ツリーならできるだけ長年利用すること、生木のツリーならリサイクルすることだ。

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人工ツリーは組み立ててしまえば、水やり不要、掃除も簡単。長年利用も可能。
Sean Locke Photography/Shutterstock.com

生木のツリーを粉砕して根覆い(マルチ)として利用すれば、有機物を土に戻すことができ、土壌炭素を増やすことができる。米国では多くの自治体が、毎年クリスマス後に生木のツリーの収集、粉砕に取り組んでいる。地元でリサイクルができなければ、自分たちで木を細かく粉砕して堆肥にする、家の庭や池に置いて魚や鳥の住みかにするのもよいだろう。

一方、使用済みのツリーを燃やせば、炭素が一瞬にして二酸化炭素になってしまう。これは農園で間引きされた木も同じこと。また、木を埋立地に廃棄すれば、その炭素は地中で分解され、メタンガスとして大気に放出されることになる。100年単位で見れば、メタンガスは二酸化炭素より21倍も強力な温室効果があるため、生木ツリーを埋立地に廃棄することは地球環境にとって最悪の選択肢だ。

生木の温かみ、家族の伝統、クリスマスの帰省予定、ツリー農園や地元支援などなど、クリスマスツリーの選択にはさまざまな要素が関わってくる。カーボン・フットプリントの観点からみてどちらが“勝っている”かは、「人工ツリーを何年使い続けるか」「生木を買いに、毎年どれほど遠くまで車を走らせるか」、そして「使用後の生木のリサイクル方法」などが影響してくる。もし、「返却可能な手ごろなサイズの生のモミの木」サービスを利用するなら、その拠点への運搬距離や返却後の処分方法も確認してみるとよいだろう。

どのツリーにするか方針が決まったなら、ツリーの下に置くプレゼントを準備しよう。

著者
Bert Cregg
Professor of Horticulture and Forestry, Michigan State University
※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2018年12月11日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
The Conversation


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