岐阜市の河川敷にいたホームレスの男性が、少年らによって襲撃され死亡した事件から約1年が経つ。この事件に限らず、「ホームレスだから」という理由にならない理由で襲撃される路上生活者は後を絶たない。路上生活者の約4割が襲撃を受けた経験があり、襲撃者(加害者)の38%は子ども・若者という調査もある。
(*2014年自立生活サポートセンターもやいの調査より)
Goran Jakus Photography/ iStockphoto
そういった話を聞いて「なんともひどい話だ」という感想を持つことはあっても、原因を探ったり、自分にできることを探ししたりなどのアクションは非常に少ない。
ただ山梨のある中学生は、「なぜ、そんなことを?」と衝撃を受けた。
中学生がビッグイシューに講義を依頼
彼の通う「南アルプス子どもの村中学校」は、『ビッグイシュー日本版』201号(SOLD OUT) の特集「生きる喜び あふれる学校」で取り上げた和歌山県「きのくに子どもの村学園」の姉妹校。「自己決定」「個性尊重」「体験学習」を3大原則としており、宿題やテスト、さらには「先生」と呼ばれる大人もいない学校である。子どもは小学校から自分のしたい活動を自分でよく考えて、その年所属するクラスを決める。
そんな教育を受けてきた中学生が、図書コーナーにあった「ビッグイシュー」に興味を持った。どんな人たちが何を思ってこの事業をしているのか、販売者はどんな人なのかを知りたいと、生徒たちだけで企画し、ビッグイシュー日本に講義を依頼。
そして3月のある日、南アルプス子どもの村中学校へのビッグイシュー日本のオンライン講義が実現。中学生への授業としては異例の約2時間の講義となった。
ビッグイシュー販売者・佐藤さんのこれまでの人生
ビッグイシュー日本スタッフである吉田から、ビッグイシューの成り立ちや仕組みについての講義*をしたのち、大阪・天王寺でビッグイシューを販売している佐藤さんが生い立ちから現在までを語る。小学生のうちはやんちゃで明るかった佐藤さんだが、やがて両親が不仲となりふさぎ込むようになる。すっかり人と話すことが苦手になってしまった佐藤さんは、高校卒業後、就職するも人間関係をうまく構築できず、職を転々とする。そんな佐藤さんを父親は責め続け、家を出ることに。
以降なかなか仕事に就けず、住む場所もなく、公衆トイレで身を休める毎日。しばらくして支援団体と繋がり、遠く離れた香川での仕事を紹介される。行ってみるとそこは強面の男たちの集まる荒々しい現場。ただでさえ人付き合いが苦手な佐藤さんはたまらず辞めてしまい、大阪へ。頼る人もなく歩き回り、野宿生活をするうちにビッグイシューと繋がった…。
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そんな講義と体験談を受け、質疑応答の時間に入る。
生徒たちは事前に多くの書籍を読み込んだり、支援者に話を聞いたりしているからか、他の学校でよく聞かれるような質問は少ない。ホームレス問題・格差問題の核心を突く質問が生徒はもちろん、同席した大人からも飛び出した。
Q:ホームレスの人たちを襲撃する中学生をどう思うか
A:(佐藤)僕自身、襲撃を受けたことがあります。公園で。夜、寝袋で寝ていたら物音がして、いきなり頭を殴られた。周囲の人も血まみれになっていて、怒って怒鳴ったら逃げていきました。5~6人くらいの中学生でした。
どう思うか…? 「それをやって何か得があるのか?」「なんでそんなことをするのか?」「そんなことが楽しいんだとしたら、何のために学校に行ってるのか?」「ほかにエネルギーを使えないのか?」とかですかね…。
その子らなりに理由はあるんだろうけど、怒りは感じてます。
Q:人生をやり直せるなら、やり直したいですか。その場合、どこまでさかのぼりたいですか
A:(佐藤)戻れるんなら幼少期まで戻りたい。ただ平穏でいられた頃に戻りたいです。 やり直して叶えたい夢があるわけではないけれど、60歳になっても、70歳になっても働いていたいとは思います。
Q:私たちが今日からホームレスになったなら、どんなアドバイスをしますか
A:(佐藤)自分自身、(先輩の路上生活者の方々に)いろんな人にいろんなアドバイスをしてもらいました。仕事も大事だけど、まずは食べないといけないので、最初は炊き出しの場所を教えるかな。
A:(吉田)
ビッグイシュー基金では、「路上脱出生活SOSガイド」という冊子を配布しています。こちらを案内することが多いですね。 https://bigissue.or.jp/action/guide/
Q:ホームレス状態になったからこそ感じられるということはありますか
A:(佐藤)田舎にいたときにはみんな同じような感じで気づかなかったけれど、大阪に来て、たくさんの人がいて。
路上で販売していると、いろんな人がいるってことがわかるようになりました。 自分だけがつらいと思っていたけど、ビッグイシューを買ってくれる人の中にもしんどい人っていうのはいて、話してみるとわかることもある。それぞれにみんな大変なことってあるんだな、と思えたことかな。
(生徒)
わかります。僕も初めてビッグイシューを買ったとき、おばあちゃんが入院して手術するというときだったので、とても心配でつらい気持ちだったのを思い出しました。
Q:ホームレス状態の人にとって、ありがたいシステムや困るシステムはありますか
A:(吉田)困るのは、身分証を全てなくしてしまうと、再発行したくても「身分証が必要」と言われることですね。自分を証明できるものがないと、銀行口座なども作れないですし、支援を受けにくい。
ありがたいシステムというところでは、生活保護を受けていなくても、大阪では「無料低額診療」というシステムがあって、ホームレスの方でも医療を受けることができる仕組みがあります。これはよいシステムですね。
Q:こんな助けがあればいいのに、というものはありますか
A:(佐藤)仕事ができるのに仕事を失う人がたくさんいるので、その人たちが仕事をすることができればいいのにって思います。あとは、誰でも気兼ねなく利用できる場所が、気軽に行ける距離にたくさんあればいいのになと思います。
Q:ビッグイシューとして、ホームレスの方々と接する際に大切にしていることは?
A:(吉田)私は販売者さんと接するとき、その人を「ホームレスの人」とは思っていません。ビッグイシューで働いていると自然にそういう接し方になりますね。人生それぞれ、個性それぞれだということが身に染みているので、佐藤さんなら「佐藤さん」として接します。
その人の得意や楽しさというものを活かして、自分で立ち上がることを応援できたらと思っています。
ビッグイシューではそれをセルフヘルプ、自己決定の尊重と呼んで大切にしています。
ちなみにここで培った相手のことを尊重するという姿勢は、子育てなどにも活かせますよ(笑)
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これまでに受けたことがないような質問に、じっくり考えながら、時に嬉しそうに回答する吉田と佐藤さん。路上生活の襲撃を、「ひどい話だ」で終わらせず、自分に何ができるかを考え行動する中学生たちに、心強さを感じたという。
「南アルプス子どもの村中学校」の生徒たちと大人「ゆきちゃん」からの感想
ホームレスとは、人を指すのでなく、状態を指すものだというのが印象に残りました。格差のこともすごく勉強になりました。ホームレスの人に限った話ではないのですが、みんなイメージで完結してしまっている気がして、もっと相手を理解しようとしていないのが「悲しいなぁ」と思いました。(生徒・R)
人権って大事だな。差別があるのは嫌だけど、でも差別は必ず起こる。差別がない世界にするのはすごく難しい。だから差別をする人をも包み込んで、みんなで意識して人を差別することのない世界にしつづける。ずっと解決するはずがないから、ずっと考え続けていく問題であるととらえるべきなのじゃないか。すごく世の中のあり方について考えさせられるお話だった。(生徒・Y)
ホームレスの人たちは自分から望んでそうなったわけではなく、みんな辛い過去を背負って生きている。そのことをもっと多くの人に知ってもらうべきだと感じました。
僕たちも、同年代の子どもたちや大人に対してこの体験を広めて知ってもらったり、夜回りや炊き出しボランティアに参加したりなど、自分たちの身の回りでできることはたくさんあるな、と今回のお話を聞いて考えました。
差別や偏見、暴力で排除するのではなく、みんなで助けあって生きていくことが大切だと思います。(生徒・アカオ カイト)
傷ついたときや不安なときの自分とうまく付き合っていけるようにと、子どものうちはまわりが関われますが、大人の場合はもっと難しい状況だとつくづく思います。 社会にうまくなじめないと排除されてしまう世の中を変えたいなと、きっと誰もが願っているはずです。わたしは教育現場から変えていく力になりたいなと思います。(大人・ゆきちゃん)
△自主運営のプロジェクトで、貧困問題や人権を探求している中学生たち。 フードバンク山梨でボランティアや、スクールフードドライブを企画し100㎏を超える食料を寄付するなど、実際に体験しながら学びを深めている。
「南アルプス子どもの村中学校」
http://www.kinokuni.ac.jp/nc_alps/html/htdocs/index.php?page_id=0
オオタヴィン長編ドキュメンタリー、「南アルプス子どもの村小学校」を舞台にしたドキュメンタリー映画(制作中)。「夢見る小学校」
4月25日にはメイキング映像&トークショーのオンラインイベント開催予定。
https://www.i-hatovo.com/
南アルプス子どもの村学園中学校の皆さんから、貧困・ホームレス問題の理解にオススメの資料
・映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」・子どもに「ホームレス」をどう伝えるか? いじめ・襲撃をなくすために(北村年子、生田武志著)
→「なぜ子どもたちによって「ホームレス」襲撃は起こるのか。中高生や教員向けに行われた講演3本が収録されています。『この本のなかの「ホームレス襲撃」は「いじめ」と似ている。ホームレスの人たちは居場所がある「ハウスレス」だが、襲撃をする子どもたちは学校や家庭などで居場所がない「心のホームレス」である』、という言葉に衝撃を受けました。」
・ルポ最底辺:不安定就労と野宿(生田武志著)
→「大学在学中から、野宿者・日雇い労働者支援に携わる筆者の経験が事細かに記されています。「究極の貧困」としての野宿者たちは、労働・貧困・医療・福祉・教育などの複雑な問題が絡み合っています。日本の社会の最底辺で生きる人々の現実を読んで、知ってもらいたいです。」
・全国地域・寄せ場交流会
→「日雇い労働者の街、通称「寄せ場」で活動を行う団体が、それぞれの困難や悩みを話し合い、交流を深める「寄せ場交流会」。野宿者や日雇い労働者が多く集まる「寄せ場」の最前線の現状を知ることができます。とくに、コロナ禍の影響で、支援のあり方も変化し、支援団体の間で連携を深めることができたという話が印象に残っています。ホームレス問題について知ってみたいと思っている人は、ぜひ一度参加してみてください。」
・釜ヶ崎の支援団体の夜回り
→「実際に参加して、現状を知ってもらうのがいいと思います」
格差・貧困・社会的排除などについてオンライン講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。オンライン講義も可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
図書コーナーがある場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/
『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。